02. 二つの戦い

 m(_ _)m



 エ、おはこびいただき、ありがとうございます。


 花粉症でして。

 くしゃみが止まらん。鼻水もじゅんじゅん出てね。


 その状態でハナシをするってのは、お聞き苦しいでしょ?。

 なのでアタシは、感性を眠らせるを飲みまして。

 くしゃみは収まったが、ねむーくなりますわな。いやほんと、大変だ。


 さて。


 ハケデン星の青年ウォザキが。

 反抗期をスポーツに昇華した『サカラッティング』の全国大会で。

 決勝へと向かったら。


 『それはカァリングの著作権侵害だ』と、訴えられた。


 ――スポーツマンガのお約束を、台無しにするような展開だねェ。


  決勝戦の相手は、御曹司の息子でして。

 『キャロテー』っていう、逆三角形の、赤いにんじんみたいな体型の奴だった。

 『反抗期のカリスマ』って二つ名まで持ってる、スカした奴ですな。

  

 でサ?


 

 訴えてきたのは、くだんのキャロテーの、なんとだったんだな。


 訴えられたウォザキはネ?

「母親への反抗は、フェアにやるべきだ!」

 と、鼻息が荒かった。


 フッキャン先生っていう代理人を雇って、訴訟を受けて立ったんだな。

 丸くて、血色の良いピンク色の顔したフッキャン先生は、「訴訟に勝っても、得るものは少ないよ?」と最初は渋った。


 でもネ? 事情を聞いてさ。

「スポーツ競技の外で妨害するなんて、正義に反する。スポーツという文化アートを守るためなら」って、代理を引き受けてくれた。


 ――まぁプロだから、『タダで』でとはいかんがね?


 ンー、でもそのへんは大丈夫。

 ウォザキは、困ったときはいつも、母親の財布からズイブンを抜いて、それで好き放題をしつつ、サカラッティングポイントも稼いでた。だから今回も……まァ、同じことをやったんだな。



 盗んだサイフで走り出したわけだ。ウォザキが。



 裁判は、熾烈しれつを極めた。

 フッキャン先生は、愛嬌のある丸い顔なのに、目だけは笑ってないんだな。


 そして、……すごかった。

 原告の言い出した『カァリング』ってのは、そもそも、と、先生は主張した。


 そのココロはネ?

 反抗期をスポーツに昇華するなんて、表現ではなく「アイデア」だと。


 著作権法では、アイデアは独占させない。

 誰もそのアイデアを使えなくなると、文化の発展に逆行しちまってマズイからねェ?


 だから、アイデアと表現とを切り分けて思想表現二分論、表現だけを独占させるんだ。


 アイデアにすぎない『カァリング』には著作権が無い。


 ――ってな具合にサ? フッキャン先生は、立板に水の如く、裁判所で演説したんだな。誰しもが、その論の展開に聞き惚れた。



 ところがネ?



 相手が、『カァリング』をマンガ化した原稿を、証拠として出してきた。ヘッタクソで、素人が殴り描きしたような、線だけのマンガをネ?


 絵が雑であっても、個性があれば著作物。

 そんなマンガを、なんと『公証人』っていう、証拠を溜めといてくれる人にあずけておいたんだな。


 イヤ……おそろしい相手だよ。敵方のキャロテーと、その親は。

 そんなこんなで、『そもそも著作物じゃない!』って主張では、勝ち目がキツくなった。


 ウォザキは落ち込んで、大量のプリンをやけ食いした。


 

 ってんで、第二の矢だ。

 フッキャン先生は、今度は『依拠いきょして無い』と言い出した。


 相手のモノを知った上で、似たモノを作ったら、アウトだけどサ?

 相手のモノにたまたま似てても、セーフなんだな、コレが。


 だってヨ?

 著作権が守っているのは、文化アートだ。


『たまたま似たモノを作ったら、それが著作権侵害になる』

 そんなディストピアになっちまうとサ、怖くて、自分の個性を表現なんて、できないわな?


 だから、偶然の被りなら、セーフにしてるってわけだ。

 マ、そんなことをサ?

 フッキャン先生は、冷静に、心地良い、よく通る声で主張したんだよ。



 そしたらサ?

 敵方のキャロテー達は、くだんのマンガを、あの有名な漫画海賊版サイト、に、アップロードしてたんだよ。その証拠を出してきた。


 ご丁寧にもサ?

 とあるSNSでウォザキがつけた、「なにやってんのwww」ってコメントが、そのヘタクソなマンガの下に、投稿されてたんだよ。


 いや……これはねェ……?

依拠いきょしてるよね。知っててパクってんじゃん」と言われても、反論は厳しいわナ?


 落ち込んだねぇ……。

 ウォザキは、逃亡事件を起こした。

 フッキャン先生がウォザキに何度電話しても、連絡がつかなくなった。


 でネ?


 そんなウォザキを見つけてくれたのは、彼の大学の同期の、とある女の子。

 最近のサカラッティングで、の得点を、ウォザキが何度もゲットしていた、ポニーテールに八本足の、絶賛片思い中の、可愛らしい女の子。


「ウォザキ君、練習で煮詰まると、いつもここに来てたから……」


 お城から街を見下ろす、風の吹く高台でネ?

 はじめてのキスなんかも経験して、ウォザキは一念発起した。

 

 いつだって、どの星だってサ?

 男を突き動かすのは、可愛い女の子なんだよ。


 ソレは、著作権法で独占してはいけない、ありふれた恋心。

 でもネ? 人の心を打つモノは、実はそんな、ありふれた部分に、根源があったりもしてナ? ハハハ。

  

 ともあれ、『著作物じゃない!』も、『知らずにやっただけ!』も通じなかった。

 第三の矢である、『似てるか?』ってのがポイントになってくる。


 そもそも似てなきゃ、侵害じゃない。

 元ネタのネ? 『本質的な特徴』が認識できなきゃ、それはセーフってやつ江差追分事件最高裁だな。


 でサ? ここがとにかく凄かった。


『表現が全然違う』とさ。

 そんな、シンプルだけど王道な、フッキャン先生の、渾身の主張。


 敵方のキャロテーがマンガの中でやってる、親への反抗はサ?

 所詮は、ありふれた程度のものだったんだよ。


 『カァさんを氷上で滑らせて、進行方向を先に掃き掃除して、別のカァさんへとぶつける』……なんてェのも、、思春期の反抗として、極めてありふれている。


 個性のない、ありふれた表現には、著作権は生まれない。

 そのありふれた部分を考えると、もう、全然似ていないでしょ?


 ――とまぁ、そんな演説を、フッキャン先生はしたわけだ。



 その裁判を見ている、傍聴席の人だけでなくね?

 動画サイトで裁判中継を視聴している、みんなへと向けて、染み込ませるように。


 アノネ?


 実際のところ。

 裁判で争われた、ウォザキの反抗の実態はサ?


 で、母親の等身大人形を10個作成して、、倒れ切る前に暴言を10個吐くっていう、極めて斬新なやつだったからねェ。


 ――そんな怪しげなサカラッティング、件のマンガの、どこにも描かれちゃいなかった。



 で、結局。

「似てないから、侵害ではない」と、ウォザキは勝訴を勝ち取った!


 すごかったねぇ……。


 ウォザキの行動が個性的だったのと。

 フッキャン先生の活躍が、勝因だろうねェ。


 判決言い渡しの瞬間。

 ウォザキはサ? グッと立ち上がり、こぶしを数個ほど、握って足八本見せていた。


 ンー、裁判所って、場所も場所だ。

 大げさに喜ぶわけにゃぁ、いかなかったんだ。


 あと……サ?

 ウォザキが喜べない理由が、もう一個あってネ?


 裁判沙汰で、アー、こう長い間、ドンパチやってる間に、サ? へくしっ。

 肝心のね? スポーツ競技、はとっくに終わってて。


 ウォザキは、優勝だったとさ。




 m(_ _)m






(TIPS)

【創作的な表現とは、個性の発揮のことである】

 例えば、東京地裁平成11年1月29日判決参照 

 個性こそが肝! ここ、テストに出ます!

 ただし、テスト自体がありません(笑)


【ありふれた部分が似ていても、非侵害】

 たとえば、博士イラスト事件。

(東京地裁平成20年7月4日判決)

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