2ページ

 タロウさんが駆け引き出来なさそうなのは俺ですら分かるけれど、テクニックとしてたまに引くのは効果的では? 俺はそういうのあんまりしないけど。

「それも必要だとは思うんですけどねー」

「できませんか?」

「できないですねぇ。あんまり連絡は取らないタイプだから、こうやって物理的に離れているとそれこそ押せないから引いてるって感じになるかもしれないですけれど。基本的に顔を合わせたらつい、目で追っちゃったり声を掛けちゃったり、かまいたくなるって言うか、俺を視界の中にいれて欲しいって思っちゃうって言うか」

 んー、まぁそれも分からなくはないよな。好きな子ほどちょっかい出したくなる、ではないけど自分の事を意識して欲しいとか、見て欲しいとか思っちゃうんだよなー。仕方ないよなー男だもん。でもやり過ぎるとなー、超逆効果よな。

「あの子も特に嫌そうな顔とかしなかったし、嫌われている訳ではないとは思うんですけど」

 え、本当に?

「だっていつも目があったら笑顔になってくれるし、偶然のふりして自販機でコーヒー買っても受け取ってくれるし、よく喋ってくれるし。それに」

「それに?」

「告白した時、断る理由が仕事だったんですよね」

「仕事?」

「今は仕事が楽しくて他の事に興味が持てないって。だから付き合えないって言われたんです。もちろん会社の中では今まで通りの付き合いをしてくれるって言ってはくれたんですけど・・・」

 タロウさんは視線をかなり下の方に下げて小さな声で続けた。

「俺としては、そんな彼女すら支えたいなって思ったりなんかしちゃったりして・・・」

「ふふ、素敵ですね」

「えっいやっ、でも結局あの子の負担になるんじゃないかなって思ったりしてでも引くことは出来ないだろうし、あーどうしよ」

 んんん~、と考えるように目蓋を閉じる悩める子羊。いや、狼の皮を被りきれていない子羊、か。

「どうしようもこうしようも、グイグイ押しちゃえばいいのでは?」

「グイグイ?」

「その人の事を考えながら支えていれば、いつかそれに気づいた彼女がこちらを振り向いてくれることだってあるかもしれませんよ」

 押すことしか出来ないのなら、思いやりを持って押していればいつか扉が開く時が来るかもしれないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る