経験値ゼロの召喚士

NAG

第1話 黒野 蒼真(くろのそうま)

朝目が覚めると、まずはじめにすることがある。


まだ離れたがらない布団を体から引き剥がし、カーテンを勢いよく開ける。


飛び込む日差しに目が眩んでしまうのは、きっと一瞬で頭の中を綺麗にしている事に体が追いついていないのだろうと思う。


さながら天然のリセットボタンといったところだろう。


そして、足元に視線をやり、慣れた手つきでコンセントの横に配列されたスイッチを入れる。また入れる。まだ入れる。これでもかと言わんばかりに入れる。


全部で4つのスイッチを入れ、次の視線はテレビモニター。


主電源は入った。


リモコンの電源ボタンを押す。また押す。名人ばりに押す。


一回で着くことはわかっているけどついつい押してしまいがちなので許してほしい。


PSVI(プレイスタイルシックス)の電源を入れ、流行りのMHS(モンスターハンティングスペース)を起動する。


キャラクターを操り、宇宙に生息するモンスターから銀河を守るハンティングゲームだ。


日本が生んだ最高傑作だということは、言うまでもないだろう。



「一狩り行こうぜ!」


ムービーを飛ばす時の決め台詞だ。


もちろん決まった。



▷データ選択画面


──────────────


1 . ku#?o s?#ma 付加術師(エンチャンター)

プレイ時間 --:--


2 . データ作成

プレイ時間 --:--


──────────────



「え、なにこれ……。」


見慣れない表示に戸惑いを隠せないでいると、突然持っていたコントローラーから激しく静電気が走る。



「いってっ!?」



次の瞬間だった。



テレビに映る映像がブラックアウトし、中央に小さく文字が現れた。



──────────────

付加術師 黒野 蒼真へ

召喚士から要請あり。

残り00:00:29:42


▷受ける


受けない


※受ける場合の成功確率 0.1%

※受けない場合はペナルティ


──────────────



「いや、待て、ペナルティって何だ、おい、待てって、待て待て待て待て!待って、止まれって!」


寝起きの頭には到底追いつかないスピードで目の前に現れた文字に、待て、止まれと言う以外にできなかった。


しかし、時間は無情にも過ぎていく。


──────────────

付加術師 黒野 蒼真へ

召喚士から要請あり。

残り00:00:10:13


▷受ける


受けない


※受ける場合の成功確率 0.1%

※受けない場合はペナルティ


──────────────



「あぁ、もう! どうにでもなれ!」



──────────────

付加術師 黒野 蒼真の選択

召喚士から要請を


▷受ける


抽選開始……


抽選中……


※受ける場合の成功確率 0.1%


──────────────



カーソルを受けるに合わせ、決定ボタンを押した。もう半分ヤケクソだった。



「何だよ、何なんだよ……。普通にMHSをやらせてくれ……。」



ここまでくると、寝ぼけとかそう言う話じゃない。逆に目が冴えた。



あ、こんなこと考える余裕はあるんだ……。と思っている内にも、画面は次へと切り替わる。


正直寝起きじゃなかったらここまで冷静じゃないと思う。きっと。



──────────────

付加術師 黒野 蒼真の選択

召喚士から要請を


▷受ける


抽選…………成功


※召喚時の魔力消費は召喚士に依存します。


──────────────



その表示を最後に、一瞬画面がブラックアウトする。



次の瞬間、眩い光とともに現れたのは。








「ここは……。どこだ……?」



見覚えのない街と。



「もも…がたり……?」



と書かれた古い書物。



「……あ!やっと来たのね!私はアイシャ。アイシャ=ヴァーミリオン。召喚士としてあなたを召喚したの。あなたは?」



鮮やかな朱色の髪と、どこか寂しげな2色の瞳の女性だった。





──これは、どこにでもいる高校生がほんの少し人と違う経験をしてしまっただけの話。



これから先、今までいた地球の概念が一切通じない異世界に行ったり、その世界の中心人物に関わって(半ば強引に契約を結ばれて)最終的に救世の英雄なんて呼ばれたりなんかするはずがないと、黒野蒼真は思うしかなかった。

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