陳粋華、狂奴妃と対面す。

 あやかしについて、説け。


 陳粋華ちんすいかの答え。


 人の心の移ろゆく様を説話、姿で表したもの、人の心の振幅の幅の大きさをまさに物語る鏡のようなもの。

 幼児を叱る場合にもよく親が利用する。


 羅梅鳳らばいおうの答え。


 この浮世に存在せず。物語、話しの中のみ在す。または怖がりの言い訳。


**************************************


 羅梅鳳らばいおう棄明きめいの南大門の一番てっぺんに腕組みをして立っていた。

 四方の城壁より、南大門は跳ね橋の絡繰りの文だけ豪奢に創られている。そしてその上に棄明と看板がっかり、十丈(3メートル)ほど石組みがきっちり左右対称に組まれ、天守のようになっている。そこに羅梅鳳は居る。

 どうやってそこまで登ったのか誰にも分からず。どうやって降りるのかもだれにもわからない。

 表情は鬼のようで、腕組みをしている両手で二の腕の汎服の袖を引きちぎらんばかりに握りしめている。

 悔しさ。情けなさ。怒り。諦め。寂しさ。皮肉。笑い。そのすべての感情をおしころすと、こんな顔になる。

 日はやや傾いてきた。季節は、初冬である。またここは汎華はんかとして最も北部でもある。日が落ちるのが早い。

 別に禁軍に忠誠を尽くしてきたわけでもないし、禁軍に憧れて武官の試験を受けたわけでもない。

 

 陳粋華が禁軍の側の絶景の場所で戦を見たとしたら、羅梅鳳は北陽王側の一番絶景の場所でこの戦を見ていたことになる。

 切歯扼腕してみていたと言えば、嘘になるかもしれないが、ほぼそうである。

 

 羅梅鳳の目の前で、十万の禁軍がたった六千の北陽王軍に敗北したのだ。

 こんな戦、今まで汎華はんか史上あったのか?。


 そこへ、三頭の騎馬に率いられた、どたどたと禁軍の敗残兵が棄明の南大門、目駆けて駆けてきた。


姉御あねごーっ!」


 南壁で立哨に立っていた。卒が羅梅鳳に声を掛ける。


「わかってる」 

 

 空堀にかかる跳ね橋は上げたままである。羅梅鳳が、ぽんぽんと南大門の天守から跳ね駆け下り、跳ね橋を動かせる場所まで降りる。

 禁軍の敗残兵に化けた、北陽王軍の卒かもしれない。

 南壁から目を凝らすと、なんと、先頭を駆ける三騎のうち一騎は、陳粋華ちんすいかではないか?。

 残りの二騎は淳于寧じゅんうねい呂樺りょかである。


「らぁーばぅあいおーっ、、あたしだよ、入れてぇー!!」


 陳粋華が大声をあげる。

 

「姉御、どうします?」

「あいつは大丈夫だ、友人だ。信用できる。入れてやれ、残りの付いてきたやつも入れろ、全軍収容だ。跳ね橋を降ろせーっ」


 羅梅鳳が手を上から下に大きさ下げ、指示を出す。

 跳ね橋がギーっと音を立てながら、降りてくる。そして空堀を越えて、どーんと着地する。

 陳粋華を先頭に、騎馬隊も含めた敗残兵が、跳ね橋を使いどーっと棄明きめいに入ってくる。

 敗残兵も相当な数なのか、この彼我の戦力比の場合、多いのか少ないのか羅梅鳳ですらわからない。

 羅梅鳳は、駆けるように城内の城壁を駆け下りると、敗残兵の最後のやつに確かめる。


「後ろは?」

「もう北陽王軍の連中でさぁ」


 羅梅鳳はきっと向き直り、城壁の上に指示を出す。


「跳ね橋を上げろ。警戒を厳にしろ。攻囲されるかもしれんぞ」


 跳ね橋がまたぎーっと上がっていく。

 とそこへ、陳粋華が羅梅鳳に抱きついてきた。ぎゃあぎゃあ泣いている。陳粋華がこんなに激しく泣いているのを羅梅鳳は始めて見た。

 詳しく、訊きたいのは羅梅鳳のほうだ。ほとんど戦いは禁軍の陣営で行われていた。羅梅鳳が見ていた棄明の城壁からは遠い。陳粋華に近いほうだ。

 

「で、さぁ、何があったんだよ、御同輩?」


 と、尋ねると、陳粋華はせきを切ったように身振り手振りで話しだしたが、全然的を得ない。


「でね、銅鑼がガシャーンって言ってね、火がボーってついてね、でねでね、戦鼓がどーんどーんと鳴ってね。そしたらね、だーっとどーっと馬が走ってね、ばーって馬が来てね。戦鼓はそのまんまでね、でねでね、敵の馬はばーと来たけどキューとあっちに曲がってね。で、でさぁ、だーってあっちに行ったのね」


 身振り手振りが言葉と一致していないので、大きな出来事があったという事実しかわからない。

 

「悪いけど、わかんないわ」


 陳粋華の流れるようでいて、はちゃめちゃな身振り手振りの戦場いくさばの三次元的再現はまだ続くが、どの手がどの軍なのかすらわからない。

 しかし、最後の言葉だけは、わかった。


「右から、”えん”の旗の北陽王、どっかーん」


 両手で北陽王の右翼からの来襲が再現されていた。北陽王の騎馬隊にそんな数が居たはずがないのだが、なんとなくすごい衝撃で突っ込んできたことだけがわかった。


「どうせ、御同輩に訊いてもわかんないと思うけど、なんで、あんなに掘から土塁まで築いて十万も固まって居たのに軍をまず両翼から前に割いて、次に左に割いて、バラバラにしちゃったの?。典型的な下手な用兵の見本じゃん」

「ちがうの、、」


 また、陳粋華の両手両足両涙まで使った、三次元的身振り手振りの再現が始まった。

 もう、羅梅鳳も流石に見てない。これで感情を発露できて泣き止めばいいぐらいの間隔である。


「あとで、あのナヨナヨした尉遅維うっちいのお弟子さんに訊くわ」

「聞いて、聞いて、重要、重要」

「もう聞かないし、あんまり重要じゃない」


 陳粋華はがっくり。戦にも負けて戦を伝えることもできないことが相当にこたえたらしい。

  

「朝から、なんも食ってないだろう。北陽王ってかなり出来るやつらしく、この棄明にもちゃんとした食料庫があってびっちり備蓄されてるから、なんか食えよ。井戸からなんから毒味は全部もうしたから」


 羅梅鳳が炊き出しの指示をしに、棄明の本府ほんぷヘ歩いていった。

 棄明は、小さな城塞都市で普通城塞都市の城壁の中にある内城の城壁がない。

 本堂のような、本府ほんぷと呼ばれる大きな館があるだけである。これだけでも、ここへ最初王とは称せ飛ばされた北陽王の気持ちが分かる。

 それに城壁の北壁からは延々と続く長壁ちょうへきが見える。

 まさに汎華の北の果てなのである。



 北の弱い雲に隠れがちの日が暮れた。

 あたり一面は闇である。篝火かがりびがたかれだした。

 南大門のかなり向こうでは人の悲鳴が時折風向きが南に変わったときだけ聞こえる。


「ぎやぁぁあああああああああああああああああああああああ」


 生きたまま虜囚となった禁軍の卒や武官に胡族の連中がなにかしているのだ。

噂や文献資料では、頭を割り脳髄を喰らうそうだ。そうすると汎華人の知識を得られると信じているらしい。

 けものへんの北狄とのはこのことである。

 陳粋華が、ガツガツ白米に玄米を足して付加したものを食べている。

 羅梅鳳がそこへやってきた。


「おお、偉丈夫いじょうふ偉丈夫いじょうふ、負け戦でそんなに喰えるとは、歴戦の卒なみだな」

「あのさ、訊いていい?」

「どうぞ、御同輩」

「なんで、みんな家の中に入んないの」


 禁軍敗残兵は誰も、棄明市内の家に入ろうとしない。


「怖いからなんじゃない」

「棄明って普通の人。誰もいないの?」

「そうなんだな、そこが俺も不思議でさ、城壁に数人とあそこの門に数人、卒を残していただけで、住民が居ないんだよ。街はからっぽ」

「全員、北陽王の卒になったの?」

「たぶん男はね、それで反対派は処刑したとして六千ってのは妥当な数なんじゃない」

「女の人や子どもや、老人は?」

「知らないね、どっかに隠れているか?、、城外に逃げさせられたか、、それとも、、、」

「なに?」


 陳粋華が食べ終わった。大きな杯で出涸らしの茶をごくっと飲み。楊枝でシーシーやりだした。

 

「殺されたか?」

「誰に」

「会ってみる?」

「誰に」

「北陽王の王妃に」

「会えるの」

「棄明を奪うのが第一義、王妃と娘を生け捕りが第二義だったからね」

「会う」

「物好きだね、、、」


 二人は、本府ほんぷに向かった。

 

 平屋だが、天井も高く本府内は広い。

 本府ほんぷのお堂の奥には、本来、司市しし(市長)が座るべき卓に校尉の馮桓ふうかんがつっ伏して寝ていた。


「おい、馮桓起きろ」


 うーん、と馮桓が起き上がる。少し酒臭い。


「俺達はもう終わりだ。この棄明きめいに置いていかれたんだぁ」


 馮桓が嘆きながら起き上がる。


「こいつが義理堅いのを俺が見込んでおさにしてやったんだけど禁軍が壊滅して以来弱気になって閉口している」

「あんたにおさにされるって災難だね、この校尉さんも」

「どういう意味だよ」

「文字どうりだけど」

「北陽王の嫁御よめごは下の牢か?」


 座った目のまま馮桓が答えた。


「ああ、おれがこの本府ででーんと頑張っている、一切異常なしだ」

「よーし頑張れ」


 士大婦、二人は、地下に向かう階段へ向かう。階段の入り口においてある松明を一本持っていく。


「男っていざという時、ダメになるな、胆力が足りなくて駄目だ」

「そんなに男を知らないくせに」

「そうでもないかもよ、、」


 羅梅鳳の声が小さくなった。


「そんなことないね、あの男も見損なったんでしょ、あたりだね」


 くくく、と嬉しそうに笑う、陳粋華。


「暗いから気をつけてな、、」


 と羅梅鳳。階段の灯籠から松明に着火。


 灯りはついているが、どうも隅が暗くいやな匂いがする。それに外の空気は肌が切れそうなほど乾燥しているのに湿気がひどい。


「こんな自分らが働く地下に牢屋を築くってどんな神経しているんだろうね」

「いいんじゃないか、脱走してもすぐわかって」

「なんか、いやじゃん。真下に悪い奴がいるのにその上で働くって」

「俺は平気だね」


 地下に降りたすぐのところに一人の卒が立っている。


「どうも、斬兎娘ざんとにゃん姉御あねご。こんばんわっす」

「おう、異常ないか?」

「ハイ、飯食ったあと、わらくるまってスースー寝てました」

「おお、俺らが相手するから、上行ってなんか食って休んでこい」

「いいんですかい?馮校尉が俺らが助かるための唯一の人質だからしっかり見張れって、、」

「おお、行って来い」


 卒は早足で階段を駆け上がっていった。


「一応、これ人払いなの?」

「そうかもな」


「きゃっ」


 陳粋華が悲鳴を上げた。鼠がきーっと鳴いて奥に走っていった。


「御同輩さぁ俺にしがみつくなよ。気持ち悪いじゃんか、俺もちょっと怖いんだから。こんな北でも屋内には鼠が居るんだなぁ」


 二人は、北陽王王妃の繋がれている牢屋の前についた。

 片側この地下の片側はすべて仕切られた牢。その檻の前はすべて見張りの廊下だ。

 他の牢には誰一人、繋がれていない。


 廊下にも灯りは入っているが如何せんくらい。 

 ゆーっくり、羅梅鳳が松明で牢の中を照らす。牢の中には、藁とボロ布。桶と奥には、一段低く流れっぱなしの溝があるのみ。暗く臭い。


 「きゃっ」


 また、陳粋華が声を上げた。

 寝ているという話だったが、北陽王妃は真っ直ぐに座り腰のところまで藁をかぶせ、まっすぐにこちらを見ていた。

 一言、色白で美しい。切れ長の目。鼻はすっととおり、唇は薄い。髪は後ろで緩くまとめているだけで、腰まで流している。赤に黄色の美しい刺繍の入った綿入れの胡服を来ている。黄色が天子の色である汎華では考えられない。

 しかし、額には桃色と黒と赤と青の横線で魔除けの入れ墨が入っている。

 陳粋華はこの入れ墨の入れ方を知っている。狂奴きょうどだ。


「狂奴だよ」

「入れ墨みて、分かんの?」

「うん」


 狂奴きょうどは壁北に住むもっとも野蛮かつ攻撃的な部族だ。壁南の半農半牧など半端なものではない。全牧。非定住。

 汎華民族の過去の王朝の中には、何度も体面は兄としてだとかいいながら金銭、宝物、牛馬を渡し、屈辱的な和睦を結んできた。馬蹄には刺蹄という刃物そのものの蹄鉄を馬に履かす。

 この女性が高貴な生まれの女性だということは、落ち突いた物腰でなんとなくわかる。

 

「ちょっとは、喋りかけたの」


 陳粋華が言った。視線は狂奴の妃に向けられたままだ。視線をそらすのが怖い。


「うん、お互い、片言だな。筆談は無理だった」

「戦の行く末を教えたの?」

「言ってないけど、俺達だって、明日の朝どうなるかわからないじゃん?」


 羅梅鳳も、檻があるとはいえ、松明を左手に持ち替え、右手を剣の柄に握り変えた。

 陳粋華が語りかけた。


「我、天子の朝臣あそん、臨時兵部右筆、陳粋華と申すもの。あなたの名前を知りたい」


 狂奴の妃がニヤリと笑った。下卑た卑猥な笑いではない。たおやかな優雅な微笑みだ。


「わらわ、あたし、聡明な女神、オリンゴラの子孫、月と星のこよみに仕える虎の目の三姫娘さんしんにゃん、オドンチメグ・サンサル」

「オドンチメグ・サンサルさんだって、ことはさっきの尋問でも訊いたんだわ」


 と羅梅鳳。


「ここは、壁南です。狂奴が居てはいけない土地です」

「おい、いきなりそんなことを言うなよ、喧嘩になるだろう」


 珍しく羅梅鳳がいさめる。


 ほほほほほ、、、、、。虎の目の三姫娘さんしんにゃんは口を隠し笑う。歯を見せることを恥だと考えているのか、それとも高貴な人間しか行わない儀礼なのか。

 

「古い神、おひさま、おつきさまともに、壁など関係、、、、ぷー

「いえ、あなた方狂奴と汎華人とでその古い神にお互いが誓い約束を交わしたはずです」

「そんな原理原則は辞めとけって、授教じゅきょうとは全然違う価値観で生きているんだから。それより、なんでこの街に住民が居ないんだ?とか、北陽王との婚礼のこととか訊けよ」

「ほくよーおー」


 突然、虎の目の三姫娘さんしんにゃんが大声を上げ、藁を跳ね除け、立ち上がった。

 

「あんたが、北陽王の奥さんの一番逆鱗に触れてんじゃん」


 と陳粋華。


「だって、それが一番知りたいだろ」

偽王ぎおう亜拓あたく、わらわを奪い犯しし、恥汎華ちはんか!!」


 虎の目の三姫娘さんしんにゃんの声はどんどん大きくなる。

 偽王ぎおうは分かるが、侮蔑の意味でを点けたのだろうが、間違っている。恥汎華ちはんかは壁南でもよく使われる、汎華人に対する侮蔑語だ。


「どうやら、あんまり円満な夫婦めおとではなかったみたいだな」

「北陽王があなたを壁北まで出向きかどわかしたのですか?奪った?誘拐した?」


「わらわ、あたし、月と星のこよみに仕えし虎の目の股を赤く染めた、忌むべき男、永年地獄があの、ぎおう、あたく、には舞い降りる。わらわ、あたしが許しても、虎の目、完顔阿権蛇骨王が許さない。そして、そして、天を舞う姑獲鳥うぶめとなりし血の雨を降らすは、この月と星のこよみに仕えし虎の目の股ぐらからぁ」


 虎の目の三姫娘はそう言うや、狂ったように両手で鉄の檻を掴み叫びだした。


「ぎぃややややややっっっっっっっっっっっややや」

 

 虎の目の三姫娘の手の指の間から羽が生え、鉄の檻はぎゅううと曲がった。

 虎の目の三姫娘の顔は、鳥になっていた。そしてどんどん体が大きくなり羽が胡服の間からふさふさと音を立てて生えてくる。

 もう姑獲鳥の体は檻に入り切らない大きさになっている。


「ぐぇええええええええええええええええええ」


 もう人の声ではない。鳥の鳴き声だ。

 パキーンと足枷が弾け飛んだ。

 羅梅鳳も松明を捨てて抜刀した。しかし、鉄の檻をひしゃげた間から飛び出してきた姑獲鳥のくちばしを受けるのが精一杯だった。

羅梅鳳も陳粋華も尻もちをついて、躱すのが精一杯だ。


「姉御っー、上も大変でさぁ、、、」


 卒が一人階段から駆け降りてきた。

 が、大きな羽を舞い飛び上がった、姑獲鳥の嘴で胴を鎧ごと思いっきり貫かれて絶命した。

 姑獲鳥は、階段を沿って飛び地階へと出た。


「虎の目とか、言って、あいつ鳥じゃん」

「姑獲鳥だよ」


 陳粋華が答えた。

 羅梅鳳が陳粋華を起こすと二人して、階段を駆け上がり一階へと急いだ。

 

 司市が務める本堂は、阿鼻叫喚の騒ぎとなっていた。

 本堂の奥の屏風から現れた、象のような体に六本の足。羽は三対。の妖怪は最初は、子象程度の大きさだったが、姑獲鳥が本堂に飛来するや、その虎の目の恨みとともにあっという間に巨大化し、本堂の天井に届かんばかりとなった。渾沌は目鼻口がなく、ただただ暴れるのみ。首すら無い。

  

 漸く駆け上がった、陳粋華が言った。


渾沌こんとんだ」

「なんだ、それ」


 学のもう一つない、羅梅鳳にはわからない。

 今、又一人、卒が渾沌に踏み殺された。天井付近では、姑獲鳥が叫び、喉から血を吐きながら叫び続けている。

 耳をつんざくばかりの鳴き声だ。

 馮桓が、耳を塞ぎ卓の下に酒瓶とともに隠れていた。


「馮桓、危ない!」


 羅梅鳳が声をかけるのと馮桓が卓から転がり出るのが同時だった。刹那、渾沌が卓を踏み潰した。酒瓶が一升だめになった。

 卒が集まり、戈や長剣、槍を手にもつが、姑獲鳥も渾沌も大きく早く、人が対処出来る大きさではない。

 一人の卒が投げ槍を投げつけた。渾沌にどうにか刺さったが。余計に暴れるだけだ。暴れたついでにすぐ槍は抜けた。

 羅梅鳳も抜き身を構え、何度か切りつけたが、足が六本もある。その足に踏まれないようにするのに精一杯だ。

 それより、姑獲鳥が天井の近くを飛び回るたびに、渾沌がどんどん巨大化していく。渾沌の動きと重みで堂の石板にヒビがいく。

 

「なんとか、足のけんを斬れっ」

 

 それが、羅梅鳳が出せた、最大の命だ。

 又、一人卒が姑獲鳥の嘴の犠牲となった。その後、舞い上がるため羽ばたいた羽で敗残し収容された、中年の校佐こうさの頭が兜ごと胴から弾き飛ばされた。

 渾沌は柱に自らぶつかり、折って、堂の石板を崩し、床を踏み抜いてしまいそうだ。

 この本府建物そのものがもちそうにない。しかし、逃げたくても出口までたどりつけそうにない。

 本府の入り口にも、卒や武官が集まってきたが、誰も入れない。渾沌はまだ、どんどん大きくなっている。いまにこのお堂ごと破壊するにちがいない。

 

「危ない!」


 羅梅鳳が叫んだ。

 渾沌の一本の足が陳粋華の近くに踏み込んできた。が、陳粋華は一歩引いて半身になる。

 羅梅鳳から伝授された窮極の防御。

 躱せた。と思った瞬間。陳粋華が居た石板が崩れ、陳粋華は悲鳴とともに地下の牢屋に落ちていった。

 陳粋華が落ちた、穴まで見に行こうと、羅梅鳳が身を乗り出したが、姑獲鳥がものすごい急降下で羅梅鳳に迫ってきた。

 羅梅鳳は長剣で嘴を受けるが、すごい力だ。続いて羽が羅梅鳳の真上を通過する。


 階下の牢屋は火の海だった。廊下にあった灯りや小皿に火芯をたらした油が倒れたり溢れ、牢屋内の藁に引火していた。牢の中の排水の溝に行けばと思ったが無理だ。

 藁の大群を突破しないといけない。


 あちちち、。もうダメかも。陳粋華がそう思った瞬間。ひしゃげた、虎の目の三姫娘が居た牢の藁の近くに白い物が見えた。

 いや、見えた気がしただけかも知れない。

 もう、煙と炎でなにがなにやらわからない。

 藁とボロ布を排水の臭くて汚い溝の水に浸し、バシバシあたりを叩き火を追い払いながら、白い物のところまで近寄ると、、、、、、、、、、。

 思ったとおりだった。


『竜骨だ、、、、、聖骨だっけ、、、、、、、、、、、(・_・;)』


 出征のおり、我が師匠、劉伯文りゅうはくぶんが触れと言った竜骨と同じものが虎の目の三姫娘の牢にある。  

 あちちち、、、、。あんまり考えている暇はない。

 陳粋華は、竜骨にそっと触った。


 急に静寂が訪れた。

 上の階での騒ぎはすべて終わった。

 

 しかし、地下牢の火は竜骨や聖骨に関係なく燃え盛っている。

 ごほごほ、。もう無理だわ。

 その時、真上から、鞘のついた長い戈がにゅーっと降りてきた。


「これに掴まれというか、鞘に足で乗れ」


 羅梅鳳と馮桓が戈とともに上から顔を覗かしていた。

 陳粋華は他の卒などに引っ張られ、地上に上がってきた。


「おまえさ、なにやったの、下で」


 と羅梅鳳。


「おまじない」


**************************************


陳粋華の男性レポ。



            ケメン度     在 不在(男として、ありかなしか)



 馮桓         六十二       不在(無き事いうやつ駄目)  

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