第165話 護衛任務終了



 人目がつかない裏路地で、そいつは杖を持っていた。

 前腕くらいの長さで、魔法の威力を上げるためのものだろう。


 そいつが路地裏から狙っているものは……とても豪華な馬車が、二台。

 馬車の周りにはこの国の兵士や、ベオニア王国の兵士がたくさんいる。


「あの馬車に乗っているのか……ふっ、どれだけ周りを固めようと関係ない。俺の特大魔法で、周辺を一気に爆発させてやる。そうすれば、兵士諸共木っ端微塵だ」


 殺し屋なのだろう。

 そいつがそう言ってニヤリと笑ったところを……俺は後ろから近づき、気づかれぬうちに首に鞘に収まったままの剣を振るる。


「がっ……!」


 突如攻撃を受けて声が少し漏れて、そいつはそのまま気絶して倒れた。


「ふぅ……こいつで最後だな」


 俺は持っている縄でこいつを縛りながら、ふぅとため息をついた。



 今日の馬車の護衛は、無事に終了した。

 レオ陛下やセレドニア国王、それにクリストやイレーネには全く被害は及ばなかった。


 馬車の周りにいた兵士達も、今日は特に何も働かずに終わっただろう。

 俺達が事前に合った情報などをもとに、殺し屋を全部倒したからだ。


 ほとんど戦闘にもならずに殺し屋を鎮圧出来たのもよかった。


 一人だけこちらが攻撃を仕掛ける前に気づかれたが、すぐにティナが対処してくれた。

 いや、まあ吹き飛ばしすぎて、骨を三本ほど折ったのはやりすぎだとは思うが……とてもいい判断だった。


 ということで、今日の任務は終了だ。


 俺達は集合場所に集まり、安否を確認する。


「ティナ、大丈夫だったか?」

「うん、こっちは問題なかったよ」

「ユリーナさんも、大丈夫でした?」

「ああ、問題ない」

「ニーナは?」

「大丈夫」


 よし、誰も傷を負わずに終わってよかった。


 なかなか難しい任務だったけど、ティナやニーナの魔法のお陰でだいぶ楽だったな。


 離れていても意思疎通が出来るようになる魔法や、人の気配を感知出来る魔法はとても便利だ。

 どちらも風魔法の応用で出来るが、普通の魔法使いじゃ出来ないだろう。


 二人くらいの才能と熟練度がなければ、到底出来ない。


 ……もちろん、俺も魔法は使えるが、今回役立つ魔法は全く使えない。

 俺は独学だし、攻撃魔法ばっかり覚えてたから……。


 それを言うとニーナは、ティナに会ってから軽く教えてもらっただけで使えているから、やっぱり才能の差だな。

 いいんだ、俺には剣があるから……。



 その後、俺達は馬車が王宮に戻るまで、周りで護衛をしていた。

 情報ではさっきの奴が最後だったが、まだ殺し屋が来るかもしれない。


 油断せずに最後まで護衛をして、無事にクリストやイレーネが乗っている馬車は、王宮の中に入っていった。


 これで本当に今日の任務は完了だ。

 昼前くらいから始まり、夜までこの王都を見て回っていた王族達を護衛する。


 結構移動量や神経を使う部分も多く、大変だったな。


「お疲れ、三人とも。とりあえずまたへリュがいる地下街のところで会おう」


 俺が一人でそう呟くと、ティナとニーナが魔法で声を繋げてくれて、三人のもとまで声が届く。


 三人がそれぞれ返事をするのを聞いて、俺も移動する。

 人目につかないように移動しながら、魔道具を取り出す。


 アンネ団長と繋がる連絡用の魔道具だ。

 さっきはこれでイレーネと話したのだが……とりあえず、また連絡をするために魔道具を起動する。


『はい、こちらアンネ』

「エリック・アウリンです。今そちら大丈夫でしょうか?」

『ええ、大丈夫よ。報告してくれるかしら?』

「はい。こちらで殺し屋を発見、そして捕縛したのは七人です。その内すでに三人に尋問しましたが、全員がリンドウ帝国の貴族が使わせたということですね」

『……予想していたことだけど、やっぱりそうなのね』


 ベゴニア王国の王都を襲ったリンドウ帝国。

 今はまだ王都の復興に時間や労力を取られているが……それが終わったら。


『戦争は、免れないわね』

「……やはりそうですか」

『ええ。王都の急襲でも戦争は確実だったけど、今回の殺し屋の件もそうね。さすがにここまでやられて、泣き寝入りなんてするはずがないわ』

「……そうですね」


 ベゴニア王国の騎士団に所属していたら、いつかは戦争に参加することが避けられないと思っていた。

 だがまさか、こんなに早く来てしまうとは……。


『……貴方達は、これからどうするのかしら?』

「えっ……?」

『貴方と、ユリーナ・カシュパルが退団を求めていたのは知っているわ。その理由が……今回の急襲の火付け役となった、エレナ・ミルウッドを探すため』

「……はい、そうです」

『私としては、貴方達が確かに優秀だとしても、騎士団を辞めたいというのを引き止めるつもりはないわ。だけどイェレは貴方達を残す選択を取った。おそらく、リンドウ帝国の戦争に備えてね』


 ……そうか。

 イェレさんは俺達が辞めずにエレナさんを探してもいいと言っていたが、そういう思惑もあったのか。


 確かに俺やユリーナさんだけじゃなく、俺が辞めればティナも辞めるからな。

 俺達が抜けたら戦力としてまずい、と思っても不思議ではない。


『それで……私が言いたいのは、なぜエレナ・ミルウッドを探すのかしら? 殺すため、ではないのでしょう?』

「そうですね。話すため、というべきですね。最悪……殺すかもしれませんが」

『……私達の国を裏切り、一万以上の犠牲者を出したのよ。貴方達が見つけたら、極刑が妥当だわ。殺すのが優しさだと知りなさい』

「……はい、助言ありがとうございます」

『……話が逸れたわね。とりあえず、殺し屋の七人は尋問して情報を聞き出してこちらに身柄を送って』

「わかりました」


 俺がそう言うと、魔道具の通信が切れた。


 アンネ団長は、優しい人だ。

 エレナさんを俺達が見つけて、国に連れ帰ったら、おそらく拷問を受けてから死ぬ。


 その前に俺達が余計な苦しみを与えずに、殺せということだろう。


 俺やユリーナさんは、エレナさんが国を裏切ったのは何か理由があるはずだと思っている。

 そしてニーナのお陰で、エレナさんはおそらくいまだに奴隷で、そのせいで俺達を裏切るしかなかった……。


 俺達はそう思っているが、真実はエレナさんに聞くしかない。


 とりあえず、まずはこの任務を終わらせて……エレナさんのことは、任務をしっかりこなしながら考えないといけない。


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