第144話 浅い地下街へ
――エリックside――
「さて、こいつをどうしようか……」
俺は暗殺屋っぽい男を後ろから攻撃し昏倒させ、地面に倒れたところを腕を極めて身動きをさせなくしていた。
「〜〜っ!!」
「動くなよ、少しでも動いたら折るからな」
マントをしているから顔は見えないが、体格的に男のようだ。
どう見ても、エレナさんではない。
暗殺の仕方も魔法などは気取られるとわかっているのか、原始的な弓の攻撃であった。
懐に入るぐらい小さな弓で頭や心臓以外に当たっても、死にはしないだろう。
つまりこの男は数百メートル離れている場所からでも、人の心臓や頭を狙える技術を持っているということかもしれない。
だがまあ、撃たせなかったら関係ない。
とりあえず後ろで手を縛って、足も縛る。
猿轡を使って声を出せないようにしておく。
俺が守っていた場所に出た暗殺屋はこいつ一人だったが、他のところはどうだろうか。
殺気のようなものを感じたのはここだけだったから、多分大丈夫だとは思うが。
この暗殺屋を引きずるように引っ張って、集合場所にこいつを持っていく。
そこへ行くと、もう既に全員集まっていた。
「お疲れ様、エリック。そいつがあの瞬間に狙ってたやつ?」
「ああ、そうだ。ティナの方は問題なかったか?」
「うん、大丈夫だったよ。他のみんなも特に問題なかったみたい」
ティナの言葉にユリーナさんとニーナが頷く。
俺たちはこの街に来て得た情報をもとに、レオ陛下とクリストが来た時に影で守るという任務をしていた。
情報は確かだったようで、暗殺屋を捕らえることが出来た。
さて、後はこいつを尋問するだけなのだが……誰がするか、だな。
ティナとユリーナさんは無理だろう。
そんな経験無いだろうし、二人にそんなことをさせたくない。
ニーナは地下街出身だから、やったことはないかもしれないが出来る可能性は高い。
だがそれでも女性なので、やりたくないだろう。
つまり俺しか選択肢はない。
まあ前世では何度かやったことはあるし、構わないが。
「とりあえずもう少し奥に行くか」
まだ街の大通りに近い場所なので、ここで尋問を開始したら声が外まで聞こえてしまう。
あまり行きたいはないが、地下街近くまで行かないといけない。
捕まえている奴が元気になったのか、呻き声を出しながら暴れ始めた。
黙らせるために、喉に手刀を叩き込む。
骨が折れない程度に、息が一瞬出来なくなってしばらく苦しむように。
「がっ……!」
「静かにしてろ、別に殺してもいいんだぞ」
「……っ!」
俺は他の三人に聞こえないように、そいつの耳元で呟いて脅しておく。
喉元に先程したように手刀を添えて、殺気を放ちながら。
こういうときの脅しは、本気ですると伝えることが大事だ。
――俺の親友の命を狙ったんだ、死ぬ覚悟は出来てるだろうな?
俺のこの気持ちは、脅しでも何でもない。
地下街に繋がる道を最近知ったので、そこを他の人に見られないようにしながら入って行く。
知ったというよりも、教えられたというのが正しいか。
地下街といってもまだ浅い方で、最深部ではない。
ニーナやエレナさんが生まれ育ったところは、最深部に近かったようだ。
ここは浅く、日もギリギリ届くぐらいである。
俺たちが向かっている場所は地下街でも穴場のようなところで、一人の人間が寝床にしているらしい。
平屋のような場所で、外れかけのドアをトントンっと叩いてから中に入る。
女性の一人暮らしなのに、戸締りは全くしていない。
その女性がいうには戸締りなんてしても壊されて入ってくるし、入ってきても無傷で撃退出来るからだそうだ。
何度か来たことがあるドアを叩く音を覚えたのか、すでにその女性は笑顔で俺たちを出迎えた。
「いらっしゃい、エリック君。今日も戦おう?」
「邪魔をする、ヘリュ。後でな」
前に行ったパーティの催しで出会った、女性拳闘士のヘリュである。
あの催しが終わった後、やはり俺はヘリュから逃げれずに戦うことになったのだ。
戦うにしても場所がないということで断ろうとしたが、無理やりここに連れてこられた。
さすがに真剣では戦えないので木剣で戦い、結果は俺の勝ち。
勝ったら何でも言うことを聞くという話だったので、この場所を使わせてくれと頼んだ。
ここはヘリュが他の奴らを追い出して勝ち取った縄張りだから、新たに挑んでくるような奴が来ない限り人は来ない。
そしてヘリュは強いので、新たな挑戦者も現れることはあまりない。
最近は全然挑戦者がいないので、ヘリュは暇になってあの催しに参加したらしい。
この場所を使う代わりに、毎回戦うことになっている。
「ヘリュ、今回は私と戦わないか? ここに来てからあまり戦闘訓練が出来てなくてな、身体が鈍っているのだ」
「いいよ、ユリーナちゃん。ユリーナちゃんも強いからね」
ユリーナさんが今回は俺の代わりに戦ってくれるようだ。
ありがたい、俺はこれからやることがあるからな。
「ティナは二人の戦いの審判でもしてくれ。あの二人が戦いに本気になったら、周りの被害がすごいからな」
「うん、わかった」
二人が戦うために平屋を出ていき、ティナはそれについていく。
「エリック、私は付き合うよ。こういうの、慣れてるから」
「……わかった、ありがとうな」
ニーナは小さい頃のことを思い出したのか少し暗い雰囲気を出しながらも、覚悟を持った目でそう言ってくれた。
俺は礼を告げながら、右手に持っていた男の首根っこを持ち上げ壁にぶん投げる。
背中を強く打ったようで、猿轡をしている口から息が漏れたようだ。
「さて、これから尋問を始めるが……俺が聞いたことを早めに答えてくれれば、痛い思いはあまりしなくて済む。よく考えて喋れよ」
俺の親友を狙った男は怯えた目をしながら見上げてきたが、俺は特に何も感情を持たずに見下ろした。
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