第142話 馬車の中で女子会?
「そうなんですね……エリック様のこと、もう少し聞いても良いでしょうか?」
「ええ、俺が答えられることであれば、いくらでも」
やはりイレーネ王女はエリックのことが気になっているようだ。
男性としてなのか、それとも恩人としてなのかはまだ微妙なところだが。
イレーネ王女から聞かれたことを答えていく。
まず彼女が最初に気になったところは、エリックの強さだ。
「えっ……エリック様は、ベゴニア王国最強なのですか? ですが、ベゴニア王国にはリベルト・コラーレス様がいらっしゃるのではないのですか?」
副団長のリベルトか。
確かにあいつは最強だな、俺なんかあいつが酔っ払ってても勝てねえし。
だが、そのリベルトが言うには。
「そのリベルトが、エリックの方が強いと言っていたのですよ。前に本気で戦ったそうですが、実力は本当に互角だったようです。どちらが勝ったのかは……申し訳ないですが、聞いてません」
エリックがスパイの任務に行く前に戦ったらしい。
リベルトから戦ったと聞いて、やはり実力は拮抗したと言っていた。
そして肝心の結果なのだが……あいつ、「今酔っ払ってるからから思い出せない」、とかほざきやがった。
絶対覚えてるだろ。
勝敗を忘れるなんてことはないだろうから、言わなかったってことはリベルトが負けたと思ったが……。
わからないので無責任にあいつが負けた、なんて言えないだろう。
「本当にお強いのですね。フェリクス・グラジオを倒したようですし、近隣諸国ではエリック様が一番強いのではないのでしょうか?」
「どうですかね。ベゴニア王国には魔法騎士団の方でも最強のビビアナがいますので」
「そうですね、ビビアナ様も前にお会いしましたが……とても、気さくで親しみやすい良い方でした」
……まあ気さくなのは確かだろうが、馬鹿なんだよなぁ。
魔法に関しては天才だと思うが。
「ただやはり、一対一だったらエリックが最強だと思いますね」
「そうなのですね……!」
イレーネ王女は上品に微笑む。
アリサがいなかったら惚れそうなほどの可愛らしい笑顔である。
事実を言っているだけだが、イレーネ王女にはエリックは好印象のようだ。
俺が上手く話しているお陰だな。
今度エリックに会ったら、なんか奢ってもらおう。
……さて、そろそろ隣でまた不機嫌になっているアリサのご機嫌を取らないとな。
その後、俺がアリサに話しかけて機嫌が治り、またイレーネ王女に俺たちの関係を問い詰められる。
「アリサ様、実際はどうなのですか?」
アリサは俺の隣ではなく、イレーネ王女の隣に行った。
俺の前にイレーネ王女、左前にアリサ、右前にセレドニア国王がいる席順だ。
右隣には親父が一人分の隙間を空けて座っていて、親父の右にはアンネが国王同士の談笑を黙って無表情で聞いている。
イレーネ王女はアリサの耳元で小声で喋っているようだが、俺にはギリギリ聞こえる。
意識を背けようとすれば聞こえないかもしれないが、背けるなんて無理な話だ。
「な、何がですか、イレーネ王女様」
「わかりますよね? クリスト王子のこと、好きなんですよね?」
「え、えっと……」
めっちゃ直球に聞くんだな、イレーネ王女。
アリサは俺の方をチラチラ見てくるが、俺は窓の外を見て聞こえてないフリをする。
「そ、それはもちろん、王子は素晴らしいお方ですし、好ましくは思っていますが……」
「そういうことが聞きたいんじゃありませんよ! わかってますよね?」
そうだイレーネ王女、言ってやれ。
アリサのやつ、俺に一度も好きなんて言ったことないんだぞ。
……俺も言ってない気がする。
その、俺は王子だから、そんな大っぴらに軽い感じで言ったらあれだし。
いや、決して軽い気持ちでアリサのことを想ってるわけじゃないんだがな。
「そ、その、クリストの前では……!」
「大丈夫です、聞こえていませんよ!」
余裕で聞こえてるけど。
外の景色を見ているフリしてるけど、全神経を耳に集中してるけど。
「申し訳ありません、ここではさすがに……!」
「むぅ、仕方ありません――」
イレーネ王女の声が、いきなり途切れた。
まるで糸電話の紐を切ってしまったかのように。
チラッとそちらを見ると、二人の口は動いているのに、俺にはその声が全く聞こえてこない。
おそらくイレーネ王女が、二人だけにしか聞こえないように魔法を使ったのだろう。
あの人多分、俺に聞こえてるのわかってアリサに問いかけてたな。
しかしこれで全く聞こえなくなってしまった。
アリサの方をチラッと見ると、頬を赤く染めながらイレーネ王女に耳打ちをするように顔を近づけていた。
そんなことしなくても俺には聞こえないというのに。
だが……顔を赤く染めるアリサ、可愛いな。
その後、数分ぐらい俺には聞こえないように女性二人で秘密の話をしていた。
「すいませんクリスト王子、アリサ様とのお話が盛り上がってしまいました」
突如聞こえるようになり、話しかけられたので窓の外を見るのをやめる。
「いえ、楽しんでくださったのなら良かったです」
「はい! とても楽しくお話が出来ました!」
イレーネ王女はとてもいきいきした笑顔なのだが、隣にいるアリサはまだ顔が赤く、俯いていた。
「アリサ様も、すいません。一人で盛り上がってしまいました。このような話、あまりしたことありませんでしたので……」
イレーネ王女は目を伏せて、申し訳なさそうに声を落として言う。
王女だからこそ、そういう会話をあまりしたことがなく、憧れていたのかもしれない。
「い、いえ、楽しんでいただいたなら良かったです。私もその、歳が近い女性と話したことがあまりなかったので、楽しかったです」
アリサは顔を上げ、王女を慰めるように慌ててそう言った。
すると、イレーネ王女は顔を輝かせる。
「ありがとうございます! では王宮に着いたら、もっとお聞かせてください! 夜になったら私の部屋でお話ししましょう!」
「えっ……!? いや、一国の王女の部屋に、私みたいな者が入っては……!」
「大丈夫です! 皆様に言っておきますので!」
……イレーネ王女は、意外と押しが強いんだな。
最終的にアリサが折れて、夜にまた二人で話すことになったようだ。
アリサ、失礼がないように頑張ってくれ。
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