第104話 スパイ任務
「ティナ……!」
最近はお互いに忙しくて会えていなかった。
前までは食堂などで顔を合わせていたが、今は街の復興に力を入れているので、一緒に食事ができないことが多かった。
久しぶりに会えたと言っても、前に会ったのはせいぜい三日前ぐらいだ。
あんまり長くはないとは思うが、俺とティナは村にいたころは、一日たりとも会わなかった日はなかった。
クリストの護衛でも三日程会えなかったから、本当に全然会えていなかった感じがする。
いや、今は俺とティナの会えなかった話はどうでもいいだろう。
まさか魔法騎士団の中からアンネ団長が選ぶスパイの者が、ティナになるとは思っていなかった。
ティナは部屋に入って、イェレさんとリベルトさんに頭を下げる。
「ティナ・アウリン、です。よろしくお願いいたします」
名乗るときになぜかニヤついていたが、すぐに顔を引き締めて挨拶した。
「アウリン? エリックと同じってことは、姉弟か? それともなんだ、結婚でもしてるのか?」
「えっと、血は繋がってませんが、まあ姉弟みたいなものです」
リベルトさんの問いかけに、言葉を詰まらせながら答える。
改めて聞かれると説明が難しい。
俺たちの村にそういう伝統があるということなんだけど。
「結婚、夫婦……ふふっ」
ティナはなぜかさっきよりニヤニヤ度が増している気がする。
「リベルト、前にこのお二人のことを貴方に説明した気がしますが」
「そうだっけか? 覚えてねえわ」
イェレさんが少し睨みながら言ったが、リベルトさんは全く気にした様子もない。
その様子を見ていると、リベルトさんはそういった説明を忘れることがあるようだ。
イェレさんが小さくため息をつき、ティナを真っ直ぐと見る。
「お久しぶりです、ティナさん」
「はい、お世話になっております」
「今回のスパイの任務、急な任務ですが大丈夫ですか?」
「はい! 精一杯頑張りたいと思います!」
その問いかけにティナは力強く答える。
「あなたの実力は私も知っています。しかし、今回は隠密の任務です。そういった魔法は覚えていますでしょうか?」
そうだ、今回の任務は戦いをしに行くわけではない。
戦争をするために情報を集める、奪いに行くという任務。
確かにティナの魔法は強力だが、そういった魔法をティナが覚えているとは思えない。
村にいたときは、俺は教えていない。というか、教えられなかった。
魔法などに頼らないもので、自分の気配を殺す方法は教えたが。
「それについては大丈夫よ、イェレ」
イェレさんの質問に、アンネ団長が割って入る。
「今回の任務で役立ちそうな魔法は、ほぼ全部教えたわ。もう使えるようになってるのは、私が確認したから間違いないわ」
「そうですか、アンネが言うなら問題なさそうですね」
どうやらアンネ団長に教えられていたようだ。
やっぱりティナには魔法の才能があるのだろう。
まだ魔法騎士団に入って一ヶ月ぐらいしか経ってないのに、魔法の威力は上がって、色んな魔法を覚えているのだから。
俺もティナに負けないように、精進しないと。
「では、今回の任務はエリック・アウリン、ティナ・アウリン、ユリーナ・カシュパルの三人で遂行してもらいます。よろしいですか?」
「はい!」
「はい……ありがとうございます」
二人で一緒に了承したが、俺は頭を下げてお礼を言った。
ティナが隣で少し狼狽えているのを感じる。
なぜ俺が礼を言ったのか、わからないのだろう。
「お礼は任務を遂行してから言ってください」
「はい、わかりました」
そうだ、まだ何もやっていない、終わっていない。
これからやらないといけないことがいっぱいあるんだ。
「今回の任務は、もちろん極秘です。誰にも言わないように」
「はい、わかりました」
「わかりました!」
「まあ、ビビアナがいねえから今度は大丈夫だろ」
「そうね、あの子には私がお仕置きをしておいたから」
アンネ団長が不敵に笑ってそう言った。
お仕置きって、ビビアナさんは無事なのだろうか……?
まああの人は実力以外は残念だから、それくらいしないといけないのかもしれない。
「ではユリーナ・カシュパルさんにもご説明しないといけないので、お二人は今日は戻ってください。明日から今回の任務について、詳しくお話ししたいと思います」
「わかりました、よろしくお願いします」
「わかりました! では失礼します!」
言われた通り、俺とティナは一礼をしてから執務室を出た。
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