第76話 王女
「ふぁ〜……」
私は鏡を見て手櫛をしながらあくびをしてしまう。
王女としてあるまじき行為ですね……だけど仕方ありません。
昨日は魔法の訓練が夜遅くまで及んで疲れてしまいました。まだその疲れが抜けてないんです。
一ヶ月前まで私は少し気落ちしていたので、魔法訓練を怠っていたのです。
なのでその取り返しをしようと、先生も熱が入りそれに応えようと頑張っていると、寝る時間を過ぎていました。
今日は朝から魔法の先生とは違う人から色々勉強します。
女王になる可能性があるので、国政など勉強しないといけないのです。
魔族の国は弱肉強食、王様も本来は戦って決まる。
だけど現国王、私のお父様が退位するまで誰にも負けなかったら子供に王位を引き継げるという決まりがある。
お父様は一人娘、つまり私しか子供がいません。
なので私がこのまま行くと王位を引き継ぐのです。
私が結婚すれば夫となる人が王位を引き継ぐこともあるのですが、今のところ結婚する気はありません。
お父様も色々お見合いを考えてくれているらしいですが、あまり良い人はいないようです。
私と結婚すれば王位を引き継げるからそれを狙っている人が多いみたいです。
だから王位を引き継ぐために、強くなれないといけないし勉強しなければいけません。
子供が王位を引き継いだ時、一年間は王を退位できないのですがそれ以降は退位できる。
つまり、戦いを挑まれて負けたら私は退位しないといけません。
おそらく、お父様の今の国作りを気に入ってる方は私に戦いを挑んできません。
娘の私がそれを引き継いでいくことがわかっているからです。
だから戦いを挑んでくる人はそれが気に入らない人、平和的な魔族の国ではなく戦闘的な国作りをしたい人ということ。
そんな人に王様になってもらっては困るのです。
私と結婚したい人はそういう好戦的な方が多いので、結婚できません。
結婚相手に望むのは、とても優しくて、私より強くて守ってくれて、なにより愛してくれる方がいいです。
まあ、この立場だとあまり恋愛は望めないということはわかっていますが……。
軽く手櫛をして寝室を出る。
そして食堂に向かう。
廊下ではメイドや執事に朝の挨拶をされる。
「お嬢様、髪がはねておりますよ。また適当に手櫛をしましたね?」
「ごめんなさい……」
「はぁ、歩いててください。私が後ろから直しますから」
世話焼きのメイドから少し小言を言われるけど、優しくブラシで髪を整えてくれる。
これが結構気持ちよくて、いつもちょっと適当にしているのはこのせいかもしれません。
食堂に着く頃には完璧に髪型が整っていた。
「ありがとうございます」
「次からはちゃんとしてくださいよ」
朗らかに笑いながら食堂の扉を開けてくれる。
前にお父様が、フェリクス・グラジオから私を逃がすためにメイドや執事達も協力していると聞きました。
彼女も私のために、死のうとしていたのです。
そのことを問いかけると、彼女は少し困ったように笑って。
「お嬢様のことは生まれた時から知っています。不敬だと思いますが、私はお嬢様を娘のように思っています。娘のために命をかけるのを躊躇するほど、私は薄情ではありませんよ」
私はそれを聞くと泣きながら彼女に抱きつきました。
彼女の気持ちや他のメイド、執事の方の気持ちがとても嬉しかったのです。
それ以降、私はメイドや執事達を守るためにも強くなると決めたのです。
フェリクス・グラジオのように強い方から戦いを挑まれても、勝てるように。
食堂に入るとお父様とお母様が先に座って待っていた。
「おはようございます、お父様、お母様」
「おはようイレーネ」
軽く挨拶をして席に座る。
王宮の食堂は大きくて、三人で座ると少し寂しく感じるほど。
その中で私達はメイドや執事達が運んでくれた朝ご飯を食べる。
三人で少し雑談しながらこの静かな優しい空間の中ご飯をいただく。
この感じが私は昔から好きです。
そしてその後、午前中は政治などの勉強、午後は魔法の練習をした。
昨日に引き続きやったのでとても疲れたけど、どちらの先生からも最近はよく頑張っていると褒められた。
今日は少し早めに終わって、夕食を食べる。
夕食は朝ご飯とは違い、一人で食べる。お父様やお母様はまだ忙しくて一緒には食べられない。
食べ終わりお風呂に入ろうと廊下を歩いていると、お父様が目の前から歩いてきた。
「お疲れ様です、お父様」
「ああ、これからお風呂か?」
「はい、そうです」
「ゆっくり休め。イレーネは最近頑張ってると聞くが、休みも大事だぞ」
「うふふ、お父様がそれを言うんですか?」
最近はフェリクス・グラジオが死んだことによって、各地で反乱のようなものが起きている。
その対応に追われてお父様は最近全然寝れてない。
「はは、一本取られたな」
だけど、困ったように笑うお父様は一ヶ月前よりは元気そうに見える。
大変そうだけど、この国のためと思って動いていると力が湧くと前に言っていた。
私もお父様を見習ってもっと頑張らないと。
「陛下! お話が!」
廊下で話していると、宰相が突如走ってきた。
いつもなら落ち着いている人だけど、今は慌てて汗を流している。
「どうした、何があった」
お父様もさっきまで優しく微笑んでいたが、宰相の様子を見て顔を引き締める。
「すいません、実は――」
「なんだと!?」
それを聞いてお父様は声を荒げる。
私もその話を聞いて驚いてしまう。
「すぐに探せ! このことを早く伝えないといけない! 王都にはまだいないかもしれないが王都の外も探せ!」
「お父様! 私も手伝います!」
お父様は私を見て少し躊躇ったけど、すぐに頷く。
「任せていいか? 危険かもしれないが、お前は王都の外を頼むことになる。王都の中を王女であるお前が兵を連れて見て回ったら民を不安にさせてしまう」
「わかりました! すぐに行きます!」
「宰相、兵達に伝えろ! これは時間との勝負だ!」
「はい、かしこまりました!」
私達はすぐにその場を離れ、やるべきことをするために走った。
そしてその十数時間後、私はついに見つけることに成功した。
王都から関所まで道なりに馬を走らせていると、一つの集落があった。
そこには前にお会いしたことがあるベゴニア王国の王子がいました。
あちらも王女である私の姿を見てビックリしているようです。
一緒にいる人達も私のことを知っているのか、驚いた様子です。
特に一人、男性の方が何か言いたげに私のことを見ていますが、今はこのことを伝えないと!
「――ベゴニア王国が、急襲されています!」
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