第54話 男?


「ん……」


 微睡みの中、誰かに身体を揺らされている感覚がして目を覚ました。


「エリック君、起きて」


 ぼやける視界に人の影が映る。

 覚醒する目と意識の中、はっきりと目に映ったのは。


「……エレナ、さん?」


 とてもいい笑顔で俺の上にいるエレナさんだった。


 覚醒しきった目で確認すると、エレナさんがベッドの横に立って俺を起こしてくれたようだ。


「おはよう、エリック君。いい朝だよ」

「……おはようございます」


 上体を起こしてベッドから降りる。


「もう少ししたら朝食の時間だから、顔洗ってきてね」

「わかりました」


 言われた通りに洗面所に行って冷たい水で顔を洗う。


 しかし、ビックリした……寝起きにエレナさんの顔があって、なんか言いようもない幸せが訪れたような気がした。

 一瞬、「エレナさんと結婚してたっけ?」と思ってしまったくらいだ。


 顔を洗ってから部屋に戻ると、エレナさんはタオルで頭を拭いていた。


「あ、おかえり」

「ただいまです。エレナさんは頭洗ったんですか?」

「僕寝癖ひどいからさ、いつも朝早く起きてシャワー浴びてるんだ」

「そうなんですか」


 そう言われると、起こされた時も少し髪が濡れていた気がする。


 昨日もエレナさんのお風呂上がりの姿を見たが、なんというか……色っぽい。

 男が出せないような雰囲気を出していて、妙にドキドキする。

 一緒に風呂に入った時より、なんでお風呂上がりの姿の方がドキドキするのか全くわからない。


 二人で余裕を持って準備をして、食堂に向かう。


 食堂に着き、エレナさんが朝食を貰いに行こうと言うが、俺は少し人を待たせてもらう。


「誰を待つの?」

「魔法騎士団にいる幼馴染です、俺の朝食を作ってくれるので」

「へー、良い子だね。彼女さん?」


 エレナさんは少しニヤついた顔でそう問いかけてきた。

 なんだかそういうノリは男っぽい気がする。


「違いますよ、家族みたいなものです」

「へー、そうなんだ。なんか、もうちょっとエリック君の慌てる可愛い姿が見れると思ったけど……つまんなーい」

「なんですかそれ……」


 顔に似合わず意外と腹黒い考えをお持ちのようだ……。


 その後、ティナと一緒にいたビビアナさんの二人に合流する。


「おはようエリック! えっと……」


 俺の隣にいるエレナさんを見て困惑するティナ。


「あ、エリック君の幼馴染の子? 初めまして、エレナ・ミルウッドです」

「ティナ・アウリンです……ねえエリック、ちょっと」


 手招きするように呼ばれて、ティナに顔を寄せると耳元で囁く。


「あの人誰? もしかして、今度の部屋で一緒の人?」

「ああ、そうだぞ」

「なんで女の人なの? イェレさんは男の人って言ってたよね?」


 ティナの顔は見えないがまた黒いオーラを出している気がした。


 俺も最初はそう思ってビックリした。だが……。


「あの人、男だ」

「えっ? そんなわけないじゃん、あんなに可愛くて小さいのに」


 俺も初めて見たときはそう思ったからな、気持ちはわかる。


「本当だ、俺もまだ信じられないが……」


 一緒に風呂に入って男の証拠を見たのだが……もう男と女の違いがどこで生まれるかという、哲学的な話になりそうだ。


「エレナ・ミルウッドです。よろしくお願いします」

「ビビアナだよー。あんまりかしこまらないで大丈夫だよー」

「そうですか? なら、よろしくね!」

「うん、よろしくー」


 俺とティナが二人に背中を向けて喋っていると、後ろで自己紹介をしていた。

 というか打ち解けるの早いな。お互いにとても親しみやすい人だから、簡単に仲良くなれるのかな?


「あの……エレナさん?」

「ん? ティナちゃん、何かな?」

「エレナさんって……男性なんですか?」

「そうだよー」


 女の子のような可愛らしい笑顔で、男だと言うエレナさん。

 うん、やはり驚くよな、ティナ。だけど、女の子がしちゃいけないような顔で驚くのはやめようか。


「そんなまさか……! こんな可愛い子が男の子のはずがない!」

「落ち着け、ティナ」


 そうこうしているうちに、ユリーナさんとも合流した。


 ユリーナさんは俺達に挨拶をして、まだ話しているビビアナさんとエレナさんを見る。

 おそらくユリーナさんもエレナさんのことを知らないだろうから、俺から説明しようと思ったが。


「あ、ユリーナちゃん!」

「エレナさん、お久しぶりです」


 説明をなし二人は笑顔で接し始める。


 あれ? 知っていたのか?


「見習いの時以来だねー、元気にしてた?」

「はい、エレナさんもお元気そうで何よりです」

「ふふふ、ユリーナちゃんも固いのは変わりないね」


 お互いに親しそうに話す二人。

 そうか、エレナさんは去年騎士団に入団したってことは、一年ぐらいはユリーナさんと見習いの時期が被っていたのか。


 あれ? だけどユリーナさん同性の友達はいないって……あ、同性じゃないかった。エレナさん男だった。


 それから俺達は席について朝食を食べ始めた。

 ティナは俺の分、それからビビアナさんとユリーナさんの分、合計四人の朝食を作ってきた。


 朝食だから軽いものを作ってきているが、それでもこの人数作るのは大変だと思う。

 だけどティナは疲れを見せずに、俺達が美味いと言って食べるのを嬉しそうに笑って見ている。


 毎日はさすがに無理だと思うが、やはりティナの料理は美味しいから甘えてしまう。


 ティナは明日はエレナさんの分も作ってくると言っていたが、エレナさんがそれは断っていた。

 これ以上ティナの負担をかけないように気を使ったようだ。


 それから話し合って、ティナは今後三人分作ってくることになった。

 自分の分と俺の分、あと一人分は他の人達が順番に食べていくらしい。


 俺もその順番の内に入ってもよかったのだが、ティナが俺にだけは毎日食べて欲しいと言ったからこうなった。

 少し他の人には悪いと思ったが、ティナの料理を食べれるのは嬉しい。



 そして朝食を食べ終わり、ティナとビビアナさんとは別れて訓練場に向かった。


 訓練場に着いて列に並んでいると、隣に昨日戦ったおっさんが来た。


「よう、朝から女の子達に囲まれて羨ましい限りだぜ」

「ん? あー、そうだな」


 おっさんはニヤニヤしながら言ってきたが、少し真面目な顔して俺の耳元で囁いてきた。


「それで相談というか、質問なんだが……お前の右前に座っていた女の子、彼氏いるって言ってたか?」

「右前……」


 エレナさんか。


「聞いてはないが、彼氏はいないと思うぞ」

「まじか! よかったぜ……なあ、あとで紹介してくれよ」

「男だけどな」

「……はっ? どういうことだ?」

「だから、俺の右前に座っていた人は男だぞ?」

「嘘だろ……?」

「本当だ」


 その後、おっさんはなぜか集中力が足りずに、訓練でヘマをして医務室に運ばれた。

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