第44話 定例会議
――イェレミアスside――
「では、会議を始めます」
ある部屋で、騎士団と魔法騎士団、それぞれの団長と副団長が集まって、円状の少し広めのテーブルを囲って座っている。
計四人が集まり、定期的に情報交換などをしているのです。
あまり話す内容がないこともあればすぐ終わりますが……今日は少し長くなるでしょう。
「アンネ、何かそちらの情報はありますか?」
「いいえ、特にないわよ。強いて言うなら、今年の入団者に目を引く人がいない、ということぐらいかしら」
私の対面に座っている魔法騎士団団長、アンネ・ベンディクスに問いかけるが、彼女は落胆したようにそう言った。
黒髪の長髪で、目つきが鋭いですが民の皆様にはとても美人と噂されているようです。
さらに身長も高く、スタイルが良いので人気は高いようです。
魔法騎士団に入れるということは、見習いを最低二年はやってきているので多少の実力者揃いなはずなのですが……彼女はとても厳しい目をしています。
彼女の目に留まるのは、本当に天才しかできないと思います……魔法騎士団副団長のように。
「ビビアナさん、あなたはどうです?」
「んー、そうだねー、ティナちゃんが可愛かったってことぐらいかなー」
「ビビアナ、そういうことを聞いてるんじゃないわよ」
副団長、ビビアナ・スパーノ。
彼女も黒髪ですが、アンネと違い短髪で美人というよりは可愛いと言われるのが多いらしいです。
魔法騎士団の団長、副団長には一定数のファンがいるらしく、騎士団より人気が高いです。
私は美人とか可愛いとか思っても特に何も感じないので、少々納得出来ませんが……まあ今は関係ない話です。
ビビアナさんは二十歳といういう若さで団長のアンネにその才能を買われ、副団長まで上り詰めた実力者です。
アンネが認めるその才能は本当に高く、その魔法には何度か助けられたことがあります。
ただ少々……頭の方が弱いのが残念ですが。
「えー、そうなの? だけどティナちゃん、魔法騎士団に入るんでしょ?」
「まだ決めてないわ。イェレから聞いた話だと入れてもいいとは思うけど、実際に魔法を見てみないといけないわ。今日は一度会ったけど、魔法は見てないから」
「ティナさんは十八歳で中級魔法を使いこなすようです」
「へー、ティナちゃんすごいねー」
ビビアナさんは今日、ティナさんの施設や街の案内をしていたので、少し仲良くなったようですね。
「ビビアナ、あなたは十八歳で上級魔法使えたでしょ」
「あれー、そうだっけ?」
自分のことすら覚えてないとは、やはり少し頭が……これ以上考えるのはやめましょう。
「ティナさんは教える人がいないので、中級魔法までしか出来ないようです。教えればすぐに出来るかもしれませんよ」
「ふーん、なら少しは期待しようかしら」
アンネはそう言って少しニヤリと笑う。
やはり彼女も実力者が入るかもしれないということで、少し楽しみにしているのでしょう。
「そういえば、ティナちゃんと一緒に来た……確かエリックちゃんだっけ? その子はどうなのー?」
「そうね。十六歳という若さにも関わらず、イェレ、あなたが推薦するほどなんでしょう?」
ティナさん繋がりでエリックくんの話になりましたか。
さて、何から伝えましょうか。
「そうですね、実力はとてもあります。私が本気で戦っても勝てるかわからないほどです」
「へー、団長のあなたが。あなたが言うなら確かでしょうね」
「イェレさんはそういうの、全く贔屓目無しにみるからねー。そんなに強いんだー」
二人が少し驚いてるようです。
陛下には伝えましたが、おそらくこの二人には伝わってないでしょう。
「はい、エリック君は――フェリクス・グラジオを殺すぐらいですから」
「――っ! イェレ、今なんて? あの危険人物が殺されたですって?」
反応を示したのは団長のアンネ。
彼女は私と同じように、事の重大さがわかっているようです。
「フェリクス……誰だっけ?」
彼女は……やはり覚えていなかったですか。
「前に言ったでしょう。魔族の国の王になろうとしてた奴よ。好戦的で、ヤバイ奴だから警戒していたのよ」
「そうです、その男をエリック君、それにティナさんが協力して殺したようです」
私がアウリンの村で聞いた話などを伝えると、アンネはとても驚いた様子だった。
「フェリクス・グラジオと互角に戦って、魔法の協力で殺すことに成功ね……確かに、とても強いわね、十六歳というのが嘘のようね」
「へー、ティナちゃんも協力したんだー。やっぱりティナちゃんも強いんだねー」
ビビアナさんも話を聞いていましたが、少し食いつくところがおかしいような……まあ、そこも重要ですから、そこまでズレていないでしょう。
「それなら異例の十六歳での入団も頷けるわ」
「はい、陛下も快く許してくださりました」
「レオさんは適当だからねー」
「ビビアナ、陛下と呼びなさい、不敬よ」
ビビアナさんは陛下のことを馴れ馴れしく呼びますが、陛下は「可愛いからありだ!」と言っていました。
まあ、王妃にそれを聞かれて怒られていましたが。
「……で、会議が始まってずっと喋らないやつは何を考えてるのかしら」
アンネが冷めた目で座って顔を伏せている人の方を向いて言った。
「……ぐー、ぐー」
「寝てんじゃないわよ!」
隣に座っていたアンネが頭を叩いて起こす。
「ふがっ! ……ふぁー、よく寝た。よし、会議始めるか」
「もう始まってるわよ!」
「あ? まじか、起こせよ」
「まず寝るんじゃないわよ!」
頭に手を当ててため息を吐くアンネ。
寝ていた者は頭をガシガシとかいて、懐からスキットルというウイスキーを入れるボトルを取り出して飲みだす。
「会議中に酒を飲むな!」
「いいじゃねえか、別に困るもんじゃねえだろ」
「はあ……もういいわ、毎回言ってるのに聞かないからもう諦めるわ」
二人はいつも会議になるとこういったやり取りをしています。
いつも最終的にはアンネが折れて終わりますが。
「まあ俺が今日聞きたいことは一つだ。エリック・アウリンというやつだな、強いのか?」
「ええ、強いですよ。私がおそらく負けるほどです」
「ほー、お前がそう言うなら確かだろうな、明日戦ってみるか」
そう言って立ち上がって、勝手に部屋から出ようとする。
「ええ、戦ってみるといいでしょう。あなたの『あの剣』では多分勝てませんよ」
「そうか、それは楽しみだ」
ニヤリと笑って、その者は出て行った。
「はあ……私はあいつを副団長にしたのは、あなたの判断ミスだと思っているわ、イェレ」
「そうですか? 今の騎士団に副団長が務まるのは彼しかいませんよ」
「まあいいんじゃないのー? あの人強いし」
「それは認めるけどね……」
アンネはまたもやため息を吐く。
確かに、副団長として任務に全うする人は騎士団の中には何人かいるでしょう。
しかし――。
「やはり副団長は彼しかいませんよ。彼は――私より強いですから」
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