第45話 朝食


 ――翌朝。


 昨日は緊張して寝つきが悪かったが、なんとか寝れた。


 騎士団の朝は早く、六時には食堂に行って朝飯を食べないと訓練などに遅れてしまう。


 ユリーナさんもいつもより少し遅めに起きてしまったらしく、急いで用意していた。

 急ごうとしていたので、服などを俺の目の前で脱いだときは驚いたものだ。見ないように急いで顔を逸らした。


 彼女はすぐに気づいて、顔を真っ赤に染めて用意してあった服などを持って脱衣所へ駆けていった。

 数分後、動きやすい服装で出てきたが、まだ顔は真っ赤だった。

 服装を見る限り……サラシはまた巻いているのだろう、うん。なぜ分かったのかは言わないほうがいいだろう。


 食堂に一緒に行って、朝飯をもらいに行こうとした時に、また俺を呼ぶ声が聞こえた。


「エリックー! おはよう! ユリーナさんもおはよう!」


 ティナは朝から元気な声を出して、笑顔で近づいてきた。


「ああ、おはよう」

「おはよう、ティナは朝から元気だな。ん? その手に持ってるのは?」


 ユリーナさんがそう問いかける。

 そういえばティナはなんか持っている。


「これ、エリックの分の朝ごはんだよ! 私が作ったんだ!」

「えっ……本当に作ってくれたのか?」


 騎士団に入ると決めた時に、ティナが朝飯を作ってくれると言っていたが、こんな朝早く起きるとは知らなかったので言えたことだと思っていた。

 だがこの時間に朝飯を作って持ってきてくれるのなんて、いつ起きればできるのか……。


「ありがとうな、ティナ」

「うん! どういたしまして!」


 寝不足の様子を全く見せないその笑顔に、俺まで朝から元気が出る。


 ティナは自分の分も作っていたようで、ユリーナさんが朝飯をもらってきてから三人で席に着く。


 弁当の蓋を開けると、いつも家で食べているような飯があった。

 ティナとは村にいた時に、結構朝飯を一緒に食べていたから献立を知っていたのだろう。


 早速一口。

 食べるとやはり美味しく、母さんの味とティナの味が一緒に味わえるような朝飯だった。


「うん、美味い」

「えへへ、良かった!」


 隣で食べているティナが俺の顔を覗き込んでいたので、しっかり感想を言う。

 顔を少し赤く染めて喜ぶティナ。


「これから魔法騎士団の訓練とかが始まると思うから、忙しかったり疲れたりしたら無理して作るなよ? 本当に美味しいが、ティナの身体の方が大事だからな」

「うん、わかった! できる限り作るね!」


 このご飯を毎日食べられるならホームシックのようなものにはならないと思うが、毎日作るのは絶対に大変だと思うから一応そう伝えておく。

 ティナもそのあたりはしっかりしているから、多分大丈夫だとう思うが。


「美味しそうだな……ティナは料理が得意なんだな」


 目の前で配られた朝飯を食べているユリーナさんが、ティナの料理を見ながらそう呟く。


「よかったら食べますか?」


 ティナが自分の方の朝飯を指差して言った。


「いいのか?」

「はい、どうぞ!」

「すまない、食い意地を張ったような感じで」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 ユリーナさんはティナのところから一口貰って食べる。


「んっ、美味しい……! 本当にこれをティナが?」

「ありがとうございます!」

「本当に美味しい……実家で料理人が作っていたものより美味しいぞ」

「本当ですか!? 嬉しいです!」


 こちらも昨日出会ったばかり……いや、ティナにいたってはユリーナさんに対しての好感度が最悪から始まったにも関わらず、すぐに仲良くなっている。


「ティナも十八歳なのか? じゃあ敬語じゃなくてもいいぞ」

「本当? じゃあよろしくね、ユリーナ!」

「ああ、よろしく。ふふ、騎士団に入団してからすぐに友達が二人も……!」


 ユリーナさんが小さくそう呟いているのが聞こえた。

 なんか、騎士団見習いの時は友達がいなかったような言い草だが……。


「ユリーナは友達いないの?」


 全く躊躇することなく聞いたティナ……すごいな。


「うっ……恥ずかしい話だが、そうだな。二年間、騎士団見習いをやったが、男でも私より強い者はおらず、女は私以外一人もいなかった」

「騎士団の女性ってあまりいないの?」

「なぜか女性の方が魔法の素質があると言われているからな。騎士団は男性、魔法騎士団は女性が多いのだ」


 えっ、そうなの? 魔法って女性の方が素質あるの?

 だから俺はティナより魔法が下手なのか……?

 そういえばイレーネも俺より魔法上手かったし……いや、あれは前世だったから俺が本気で魔法をやってないからか。

 だが今世ではずっと本気で魔法をやってきたが、イレーネより上手くなった気は全くしないぞ?


「まあ何人かは私のように女性でも騎士団を選んだり、男性でも魔法騎士団をやっている人はいると思うがな」

「そうだったんだ」

「だから私は友達がその、出来なかったんだ。見習いの時は作ろうともあまり思わなかったが……ずっとこのままなのかな、とも思った」

「ユリーナ……大丈夫だよ! 私とエリックが友達になったから! ね、エリック!」

「ああ、そうだな。これからよろしくお願いしますね、ユリーナさん」

「ティナ……! エリック……!」


 少し涙目になりながら、俺達を交互に見る。


「ああ、よろしく頼む!」

「うん! 明日からユリーナの分も朝ごはん作ってくるね!」

「い、いいのか?」

「うん、だって友達だもん!」

「あ、ありがとうティナ!」


 感激したように頭を下げているユリーナさん。


 ていうか、ティナは友達を作るのが上手い気がする。

 今まで村では同年代は俺しかいなかったのに。

 まあ村のみんなと仲良かったし、そういう能力は最初から高かったのかな。


「だけどね、ユリーナ」

「ん? なんだ?」


 ティナが少し声を低くして、


「エリックと、友達以上になったらダメだからね……? そうなったら、私達も友達同士じゃいられなくなるかもよ?」


 黒い笑顔でそう告げた。

 最近、ティナがこういう怖いことを言うことが多くなっている気がする。


「わ、わかった……肝に銘じておく」


 ユリーナさんも顔を引きつらせながらもそう言った。



 そうしているうちに朝飯を食べ終わり、すぐに訓練の時間になる。

 騎士団と魔法騎士団は訓練場所が違うので、ここでティナとは別れることになる。


「じゃあね、エリック、ユリーナ! お互いに頑張ろうね!」


 ティナはさっきとは違い、可愛い笑顔でそう言った。


「訓練は厳しいからな。すぐに根を上げないようにな、ティナ」

「うん、心配してくれてありがとうユリーナ」

「しっかりアピールして魔法騎士団に入れよ」

「うん、頑張る!」


 そしてティナとは別れ、俺とユリーナさんは騎士団の訓練所へと向かう。


「初めての訓練だから、私がついて教えるからな」

「ありがとうございます」


 俺もティナやユリーナさんに負けないように、気合い入れてやるか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る