第38話 寝たい
その後、俺とレオ陛下、それにイェレさんで軽く雑談をして対談のようなものが終わった。
時間にしては一時間も話してないかもしれないが、俺の体力や精神は何時間も話していたのではないかというほど疲労していた。
だってこの国で一番偉い人だぞ?
なにか不敬をしないか、してないかとか不安になって、会話一つ一つ気を使ってしまった。
何度か陛下がボケのようなことをしてきたときにタメ口でツッコんでしまったのはしょうがないと思う。
それに陛下も笑ってたから大丈夫……だと思う。この後、いきなり呼ばれて犯罪とかにならないよね?
「すまないなエリックよ。俺としてはもっと話したいのだが」
「陛下はものすごく仕事が溜まっておりますので」
「そういうことらしい、なぜそんな溜まっておるのだ全く」
「陛下がサボっているからです」
先程お茶を運んで来てくれたメイドさんが冷めた目で陛下を見ている。
「……ではな、エリック。また今度ゆっくり話そうではないか」
「あ、はい」
その冷めた目から逃れるために、俺にそう話しかけて握手をしてくる。
まあ悪い人ではない……イェレさんがとても気さくな人って言ってたのが理解できた。
気さくと言えばそうなんだが、なんというか……適当な人だな。
そして俺とイェレさんはその部屋から出て、レオ陛下はメイドさんに連れられて執務室に向かった。
「では私たちも行きましょうか。これから騎士団の寮に行き荷物などを置いて、それから施設などを案内致します」
「はい、よろしくお願いします」
イェレさんに後に続いて王宮内を歩く。
多分さっき通った道を歩いて、デカイ扉から王宮を出る。
そしてすぐそこで待ってもらっていた馬車に乗り、騎士団の寮へと向かう。
数分すると、先程ティナが降ろされた場所に到着し、馬車もそこで止まったので俺も降りる。
そこは騎士団と魔法騎士団の人達が混ざって過ごしている寮らしく、王宮ほどではないがとても大きい。
「寮の部屋割りは騎士団と魔法騎士団で分かれています。二人で一つの部屋なので、エリック君も他の人と同じ部屋になっていただきます」
「わかりました」
「団長! ちょっとお話が……」
イェレさんが部屋を案内してくれるところで、寮の中から男性が出てきてイェレさんに耳打ちをしている。
何を話してるんだろう?
「っ! 本当ですか? それは困りましたね……」
顎に手を当てて考えこんでいる。
「すいません、エリック君。一つ問題がありまして……」
「問題ですか?」
申し訳なさそうにイェレさんが言う。
「今現在、寮の方は部屋の空きがなく……今年から騎士団に入団した女性の方と同じ部屋になってしまいます」
「女性ですか……?」
それは俺の方にも多少支障はあるが、その女性の人の方が問題になりそうだが。
初めて会った男の人と一緒の部屋で暮らすことになるなんてその人も思わないだろう。
「その女性の方は、まあ男性と一緒の部屋なのは了承しているのです」
「あ、そうなんですか?」
それなら安心……なのか? わからないけど。
「ただ誰と一緒の部屋でもいいけど、自分より強い相手じゃないと嫌だということでして」
「……えっ?」
自分より強い人……? なんでそんなことを?
「その子は十八歳という若さで騎士団に入ったのはいいのですが、それにより少し……自己主張が激しい方なんです。決して悪い方ではないのですが」
なるほど……つまり、自分が強いから調子に乗ってるってことか。
「なので、すみませんがその方と戦って、勝たないとエリック君の部屋がないという状況になってしまいます」
「……わかりました。戦いましょう」
さすがにここまで来て、寮の部屋がなくて野宿などになったら最悪だ。
絶対に阻止しないといけない。
「ではそのようにその子にも伝えましょう。すいません、その子に『あなたと一緒に寝たい』と言った方が現れましたとお伝えください」
「わかりました」
「そんなこと言ってないぞ!?」
めっちゃ誤解するようなセリフだろそれ!?
俺の叫びを聞こえたのかわからないが、イェレさんに指示された人は行ってしまった。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫ですか今の!?」
「何がですか?」
「だから、一緒に寝たいとか……」
「そのことですか、大丈夫です。その子が自分に挑む人が現れた時にそう言ってくれたら、すぐに準備するって言ってましたから」
「そ、それならいいのですが……」
いや、本当にいいのか? よくわからないが……。
「エリックー!」
そう思っていると、遠くの方から俺を呼ぶ声が聞こえる。
振り向くとこちらに笑顔で手を振って、走ってくるティナの姿が見えた。
「おかえりなさい、エリック! 王様との面会、大丈夫だった?」
「おう、ただいま。まあなんとかな……」
まあレオ陛下は本当に良い人だったぞ……適当な人だったが。
「エリックがいない間、ここの施設とか街の様子とか案内してもらってたの! あとでエリックも一緒に行こう!」
「ああ、わかった。だけどその前にちょっと用意があってな」
「用事? どんな用事?」
俺はここに着いてからの話を言おうと思ったその時――。
「この私、ユーリア・カシュパルと寝たいと言った、エリック・アウリンという人物はどこにいる?」
俺の後ろからそんな声が響いてきた。
恐らく、調子に乗ってるという女の子なのだろう。セリフから言ってそうとしか考えられない。
しかし――俺は後ろを振り向けない。今はそれどころではないからだ。
「ねえエリック、どういうこと? 今あの子が言ったこと――ちゃんと説明してくれるよね?」
俺の目の前では、眼の光が何故か消えて、背後に何か黒いものが見え、薄っすらと笑っているティナがいた。
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