第24話 男の危険性
「我がベゴニア王国騎士団に――入団して頂きたいのです」
俺の目の前に座っているイェレさんは全くふざけている雰囲気は無く、真面目な顔でそう言った。
「はっ……? 騎士団に? 俺が?」
「はい、どうでしょうか?」
いや、どうでしょうかと言われても……。
いきなり言われて超困っています、としか言えない……。
「なんで俺が、騎士団に……?」
「我が騎士団は常に優秀な人材を求めています。もちろん、騎士を育てる教育機関もあり、通常はそこで優秀な人材を育てていくのですが、こうして私や副団長が直々にスカウトするということもあるのです」
イェレさんはそう説明してくれるが、俺は未だに困っている。
「すぐにお答えは出来ないと思います。ご家族とじっくり話し合ってご決断ください」
その言葉を最後にイェレさんは立ち上がり、部下の人達を連れて家を出て行った。
俺はフェリクスの死体を隠してある森の場所を教えて、玄関を出て外までイェレさん達を見送った。
見送った後も、俺は外でイェレさんに言われたことを考えていた。
どうするべきか……。
前世ではこの村は滅び、俺は家族とティナを失い、ある街で親友と出会った。
だが俺は今世で、村を救ってその過去――いや、未来を回避出来た。
ここからどうするか迷っていたところ、恐らく親友がいるであろうベゴニア王国の騎士団団長からあの勧誘だ。
……俺の心は、イェレさんに提案されたときにとっくに決まっていたのかもしれないな。
俺は家の中に入り、リビングに行く。
リビングにはイェレさん達に出したお茶を片付けていた。
「……母さん」
「……どうしたの、エリックちゃん」
母さんはさっきの話を聞いていただろう。
だから、俺が話しかけたときにはすでに真剣な面持ちだった。
「親父が帰ってきたら、話がある」
――イェレミアスside――
私は今、この村を襲ったという男の死体を確認しに森へと来ています。
確かエリック殿が言っていた場所はこの辺りのはず……。
「団長! ここではないでしょうか!?」
辺りを探していると、部下の一人が見つけた様子で私を呼んだ。
呼ばれたところへ行くと、地面が少し隆起している。
恐らく、エリック殿はここへその男の死体を埋めたのでしょう。
私は二人の部下にここを掘るようと指示をする。
掘り始めてすぐ、その死体が見えてくる。
その死体は上半身と下半身が別れていて、とても鋭利な刃物で斬られたと想像できる。
エリック殿がこの男を倒したと言っていましたが……これを見るだけで彼が強いということが分かります。
そして上半身を掘り起こし、男の顔を見る。
「っ! やはりこの男は……」
エリック殿に名前を聞いたときにはまさかと思いましたが……やはりこの男でしたか。
「団長、この男は何者でしょうか? 団長は知っていらっしゃる様子でしたが……」
この男を掘り起こした部下が、私にそう問いかけてくる。
そう、部下は知らない。この男の危険度を。
「私や陛下、魔法騎士団団長などの上層部の方々は知っていましたが……この男は、ハルジオン王国の次期国王でした」
「あの魔族の国のですか?」
ハルジオン王国は現国王のセレドニア・ハルジオンが、とても友好的に色んな国と交流をしていました。
魔族の国ではとても珍しく、とても実力があるにも関わらず武力行使をしない王として有名な国王と国でした。
しかし――この男が現れ、その状況は一変しました。
「この男はとても好戦的な考えを持っていて、平和な国が国王が変わることにより一気に武力を行使するような国へと変わるかもしれなかったのです」
国王が掲げる平和主義を、そこに住んでいる国民が不満に思っても、魔族の国はそういう時は国王と戦って勝たないといけないという掟があります。
セレドニア・ハルジオン国王は何度も戦い、何度もそれに勝利してきました。
セレドニア国王は平和主義者でありながら、とても強いお方だった。
だから長いこと魔族の国の国王としてやってきていましたが……とうとう、負けてしまった。
この男――フェリクス・グラジオが次期国王となり、好戦的な国へと変わろうとしていました。
「この男はとても強く、今まで負けなしのセレドニア国王を圧倒するほどの実力者でした。ベゴニア王国もこの男を危険人物としてその行動を注視していましたが……まさかこんな近くに危険が迫っていたとは思いもしませんでした」
先程エリック殿に聞いた話だと、フェリクスがこの村を滅ぼした後にベゴニア王国を堕とそうとしていたという話でした。
もしエリック殿がこの男を倒させないで、この村が滅びてここを拠点とされ、ベゴニア王国を襲いにきていたら……恐らく、確実にベゴニア王国は血の海で染まり、国は堕とされていたでしょう。
こちらは情報も無かったので何の準備もしておらず、そんな状態で襲われたら一溜まりもないでしょう。
「ここでエリック殿がフェリクスを倒していなければ、我がベゴニア王国は簡単に堕とされていました」
「そんなまさか……!」
「偽りもない事実です。こんな危険な状況を私達は知ることもなく、ただ助けられてしまいました」
「……団長、あの青年も何者でしょうか? ただ村で鍛えたというだけには強すぎに思います」
確かにその通りかもしれません。
この男、フェリクスは負けなしだったセレドニア国王を倒した者です。
そんな強者を倒せる者はそんな多くありません。
騎士団団長の私ですら、この男と戦って勝てるかわかりません。
そんな男を――あのエリック殿が倒したということに、私もとても驚いています。
「わかりません……しかし、確かなのはエリック殿は味方だということです」
どれだけ強くても、味方であればそれは心強いものになります。
フェリクスを倒せるという方が、味方で良かったと心から思います。
「だからこそ、エリック殿には騎士団に入っていただきたい」
「しかし、騎士団に入れるのは最低でも十八歳から……エリック殿はまだ十六歳になったばかり。そこはどうお考えでしょうか?」
ふむ……確かに、騎士団見習いになれる年齢が十六歳。
そして、そこで最低二年は訓練してからではないと騎士団には入れません。
しかも最低二年ですので、何年、何十年かけないと入れない方は大勢います。
その最低二年で通過したものは本当に強者で限られています。
例えば、今年騎士団に入団してきた一人の女の子。
あの子は十六歳に騎士団見習いになり、最低年数のたった二年で騎士団に入った実力者です。
まあ少々、性格に難ありですが……。
「エリック殿の実力があれば、すぐに騎士団に入っても大丈夫でしょう。騎士団団長の私の強い推薦とあれば、国王や副団長も納得しますよ」
「……しかし、その……」
部下が言いよどんでいるようですが、言おうとしてることはわかります。
私の推薦で入ったとしても、何年も訓練をしてやっとの思いで騎士団に入った者たちには、エリック殿は受け入れがたいものがあるでしょう。
しかし、フェリクスを倒すほどの力をエリック殿は持っています。
それは私たちと同様かそれ以上に努力しているということです。
「大丈夫ですよ、エリック殿なら」
「そう、でしょうか……」
「はい。今私たちがすべきことは、この男の死体を王都までどう持って帰るかです」
死体を持って帰れば、フェリクスが死んだということを確実に信じてもらえます。
エリック殿も屍体の処理には困っている様子だったので、私たちが持って帰っても支障はないでしょう。
あとはエリック殿を騎士団に入ってもらえるように説得するだけです。
まあ、あの様子なら……もうすでにエリック殿の中では答えが出ているようですがね。
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