vs 『メアリー三勇士』
ラスナとメアリーの戦いが始まった頃、別の場所ではフィーナ達と三バカの戦いが始まっていた。もちろん、まずは名乗り上げからだ。
先制は三バカだった。
「『背徳★堕天使』マサユキ!!」「『ざるそば好きの魔女』ミリアム!!!」「『小学生の頃からあだ名がノーム』モルグス!!」
「いざ尋常に勝負!」
順番に忍者、魔女っ娘、ずんぐりむっくりの名乗り上げだ。最後のマサユキの掛け声を合図に、忍者マサユキとノームが近接攻撃で飛び掛かってきた。
この場にいる六人の中でフィーナの実力は頭一つ抜けていて、それは三バカ側には知れている。その為セオリーとして三バカは早めにフィーナを戦闘不能にできるかどうかが勝負だ。
忍者とノームの近接攻撃は、フィーナを狙ってのものだった。
彼らが魔法ではなく近接攻撃を選択したのは、フィーナが光魔法の使い手であることを知っているからだ。魔法では、魔力量が非常に高いフィーナの守りを突破することはできないと判断している。
一方フィーナ側は、先頭にいたライラがまず牽制の雷魔法を忍者に放った。
遠くから魔法を使おうとしているミリアムも視界に入ってはいるが、フィーナにダメージを与える可能性が少なからずあるのは、近接攻撃の方だと判断しての行動だ。
忍者は空中でそれを防御した後、短剣を両手に持って近づいて来たライラとの斬り合いに突入する。
ライラの後ろにいたボブはフィーナの前で土魔法を使い、土の壁を出現させた。
モルグスがその壁に斧で斬りかかる形になる。
フィーナはミリアムに対して爆発魔法を放った。ミリアムもフィーナたちに何かを仕掛けようとしていたようだが、判断も魔法の発生もフィーナの方が早い。ミリアムが吹き飛んだ。フィーナはそのままそれを風魔法で飛んで追う。
ミリアムはすぐに立ち上がると、炎、雷、風と手当たり次第に魔法を連発したもの、全てフィーナの光魔法の防御壁を貫通できない。燃え盛る火の玉も、強烈な閃光を伴う雷撃も、全てフィーナの前で見えない壁に阻まれ霧散してしまう。
風魔法で近づきつつ、それらを故意に全て受け切ってみせてから、フィーナは風魔法で押し飛ばすようにしてミリアムを近くの建物の壁に叩きつけた。ミリアムはその場に倒れ伏してしまう。
身体を起こしたものの立ち上がれず、片膝をついているミリアムの前に立ち、フィーナは呆れたような、困ったような表情で語り掛けた。
「もうやめましょうよ」
「そんな……わけには……」
そう言いながらミリアムが悪あがきとばかりに炎魔法を放つも、フィーナに光魔法であっさりと抵抗されてしまう。
「コンビニで箸が入ってない絶望感なんて、私も何度も味わってるよ?」
「ほ、本当に……?」
「ていうかむしろあなたこそその絶望感を本当に味わったことがあるの?壁の外にちゃんとしたコンビニなんてないでしょう。もどきならあるけど」
「メアリー……お嬢様が……よく、マダラシティに……遊びに……いかれるので……付き添いで……」
「メアリーちゃんらしいね……」
フィーナはそこでふうとため息を吐く。
「とにかく足止めが目的だったんでしょ。ならいいじゃない。お兄ちゃんのことならそんなに心配してないし」
「本当に……?」
「魔法が使えるようになったお兄ちゃんは、きっと誰にも負けないから」
そう言うと両手を腰にあてて胸を張り、フィーナは自信満々の笑みを見せた。
キン、キン。キン。
夜の街。裏の路地に入り、街灯の灯りが届きにくい場所で、金属と金属の激しくぶつかり合う音が響いている。そこでは、上半身は忍び装束、下半身はパンツ一枚の変態と、ドレスを纏ったラベンダー色の髪の女性が武器を交えていた。
魔法を使うことを前提とした立ち回りが中心となり、魔法が強ければ武器の扱いは二の次、とはいえ、近接戦闘が発生しないなどということは全くない。むしろラスナがしているように、魔法の威力で負けている相手に勝つには、工夫を凝らした近接戦闘で戦況を覆すしかなかった。
ライラは、出会い頭に動きを封じられた闇魔法を警戒している。
どのような魔法かは不明だが、動きを封じられたのは事実だ。そして、どこまで何を封じられるのかもわからない。
ライラはとにかく攻撃を絶やさないことで相手に息つく暇も与えず、魔法を発動する隙を与えないようにしていた。
一方忍者マサユキは近接戦闘の最中、魔法を使って距離を作る隙を窺っている。こんなとき、相手の武器が短剣二本というのは厄介だ。一撃の威力こそ低いものの手数が多く、中々に隙がない。
マサユキが風魔法と共にバックステップを踏んで後方に大きく飛ぶ。
それをライラが同じく風魔法を使って追いかける形になった。
マサユキのスピードは遅い。それにわずかでも時間を与えるわけにはいかない。
ライラは迷わず全力で追いつき、跳躍を終えて地面に足をつく瞬間のマサユキに対して、正面やや左の位置から右手のナイフを突き出した。
しかし、これは迂闊だ。
これを待っていたかのように風魔法で姿勢を制御したマサユキは、突き出された右手を取ってそのままライラを背負い投げの形で投げる。そして、それと同時に雷魔法で彼女の身体に電流を流した。
もちろん死なないように加減されていたとはいえ、突然の出来事に抵抗できなかったライラは、痛みとしびれで一時的に動けなくなる。
マサユキはすぐさま後方に高く跳びあがり、クナイをライラの影に投げ込みながら建物の屋根の上にのる。ライラは動けない。勝敗は決してしまった。
「ハッハッハ!!勝負ありでござるなあ!!どうでござるか拙者のユニークスキル『影縫い』のお味は!!」
高らかに笑う忍者に対して、ライラは地に投げ出され、横たわったままの体勢で悔しさに表情をゆがめている。
この世界の魔法には大きく分けて三種類ある。それは『
魔法を発動する際にスキル名の宣言などは必要ではないが、あえて名前をつけて人々の間でイメージを共有することにより、使いやすくする習慣がある。
例えば、火の玉を出して攻撃する魔法を『
定型化は特に、どのような魔法が使えるのかいまだに全てが判明しきっていない光魔法や闇魔法においては特に重要で、この二つの属性に関して使われている魔法はほとんどが『
次に、『
この辺りは、ユニークスキルの定義と照らし合わせればわかりやすいだろう。発見されたばかりで名前を付けられていない新しい定型魔法などがここに一時的にカテゴライズされる場合が多い。
最後に、『
人が最初に使える魔法の属性は、生まれつき決まっている。そして、この最初の属性の熟練度を限界まで高めて極めた際に、ユニークスキルが頭の中に刻み込まれる。名前とイメージ、両方が同時にだ。
そうして頭の中に刻み込まれたユニークスキルは、各属性の魔法による自然現象の操作では説明のできない効果が発揮される。
例えば、水属性のユニークスキルの中には、ある一帯に霧を発生させ、その霧の中にいるものの視覚や聴覚を奪うといったものが存在する。視覚や聴覚が奪われるというのは、普通は霧の中にいるだけでは起こることのない現象だ。つまり、火、水、土、風、雷を操ることに加えて、それらの自然現象に奇跡的な効果を付与するのがユニークスキルということになる。
光と闇の魔法には素質が必要で、生まれつき使えるかどうかが決まっているのだが、ただでさえ奇跡を起こすこれらの魔法のユニークスキルが発現した場合、奇跡中の奇跡、神も驚愕するような現象を起こす効果を持つものも存在する。はっきり言ってしまえば、どんな魔法が出て来ても不思議ではない。
ちなみに、光と闇魔法のユニークスキルが発現するかどうかは運で、光魔法が使える人の場合、最初は五つの属性のどれかに加えて光魔法が使えるということになるが、五つの属性のどれかか、光にユニークスキルが出るかはランダムということだ。
そして、忍者マサユキの使うこの『影縫い』もまた、闇魔法の『
マサユキは、動けなくなったライラを見下ろしたまま、高らかな声で貴重な自分のユニークスキルの情報をばらし始めた。
「『影縫い』は武器を突き刺した影の持ち主を動けなくし、更には魔法まで封印してしまう最高最強のスキル!!どうでござるか!!抵抗できぬでござろう!!フハハハハぶべらぁっ!!」
「!?」
腕を組んだまま大声を上げて笑う忍者のシルエットが、突如吹き飛んだ。
何が起こったかとライラが目線だけで辺りを見まわすと、忍者が立っていたところから少し離れた建物の屋根の上にフィーナがいた。どうやらライラのピンチに駆けつけ、爆発魔法で忍者を吹き飛ばしたようだ。
「ライラを動けなくしてどうするつもりよ変態!!!!」
「くっ……不意打ちとは卑怯な……」
「あんたも最初は不意打ちでご自慢のユニークスキルを使って来たじゃないのよ……私にあっさり抵抗されたけどねっ」
「くうっ……無念」
元よりミリアムが一対一でフィーナに勝てることはないとわかっていたマサユキは状況を察し、これ以上の抵抗を諦めた。途端にライラが解放される。
マサユキの『影縫い』は、マサユキと同程度以上の魔力を秘めたものが光魔法によって抵抗してきた場合は解除されてしまう。フィーナは正に天敵と言えた。
その後動けなくなったミリアムとマサユキを放って、最初の戦闘開始地点にフィーナとライラが戻ると、ボブとモルグスがフリースタイルによるバトルを繰り広げていた。地味に観客も集まっている。
モルグスは、メアリーの付き添いでマダラシティに行った際にヒップホップミュージックの文化に触れ、それ以来誰知れずラップの腕を磨いてきた。そして今ようやく、その実力を惜しみなく発揮できる機会を得たのだ。モルグスの顔は、今日死んでも構わないと言わんばかりの輝きを帯びている。
地面に置いてあるボブのスマホから軽快なリズムトラックが流れ、それに合わせて体を上下させながら交互にラップをぶつけ合う。そんな外の世界では中々お目にかかれない光景に、観客たちは不思議なまでに興奮しているようだ。
「何やってんのこの人たち……」
「もう放っておきましょう」
そのときやや離れた中央広場付近から、稀に見る名勝負に、こことはまた違った興奮に沸き立つ人々の歓声が響いてきた。フィーナとライラがそれに気づくと、そちらの方を向く。
「あれ、お兄ちゃんとメアリーちゃんだよね」
「恐らくは」
「行ってみよっ!」
二人は、ボブを置き去りにして中央広場へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます