終局

 当作品は今回をもって完結します。

 この後に設定資料の付加や、希望があれば合衆国での出来事を書きます。

 では、最終話 終局お楽しみください。


帝国side

「鈴木から青木、迂回して上昇中そちらの上にいます」


「青木から鈴木、バカ野郎!どこに離艦ロケットをあんな使い方する奴がいる」


「敵に当てはしたんで勘弁してください」


「そいつはまだ元気に飛んでるけどな」


「そんなぁ」


「押さえておくから早く来い。隊長が墜ちてやばいのが来たせいで状況が崩れた」


「任せてください」


 鈴木は集中を始め、遥か下方にいる敵機を視認する。

 狙いは何となく同じニオイのする翼端が欠けた新型機。

 会敵して真っ先にこちらをかき回し岡崎と岡村を食って更に隊長機までも墜とした……恐らく敵のナンバーワンパイロット。


「面白いじゃないですか」


 鈴木は降下を始めた。



合衆国side

 オスカーは降下増速、再上昇で、敵機の真下から射撃した。

 20mmの速射機関砲が火を噴く。


「おっと、流石に簡単には当てさせてくれないか」


 オスカーが放った弾丸は標的には当たらず飛び去ってしまった。

 オスカーの機体は右翼端が欠けてしまっているためロール軸が不安定になっている。

照準を合わせにくいのは仕方がないと言えよう。

 そのまま離脱、後ろにいる隊長が追撃する。下方から連続して射撃を受けた敵機は弾幕から逃げるようにして降下している。

 スパローは重量の大きい壱式艦戦に降下離脱をされると追い付けない。しかし


「先に降りておけば良いだけの話なんだなこれが」


 いつの間にか先回りしたオスカーが再度射撃する。

 完全に予想外の場所から射撃を受けた敵機は成す術もなく墜落した。


「フランクは見えている方のルークを頼む。俺は降りてくる方をやる」


「エンジンが焼き付くまでに何とかしてみよう」


「それで充分だ。フランクはエンジンがダメになる前に帰ってくれ。後は俺がぶっ潰す」


 二人は散開し、それぞれの相手へと向かった。


「さて、来たな」


 オスカーの後ろ、上方数百メートル、降下中のルークを感じる。

 異常な加速はしていないことからさっきのあれは連続して使えない、もしくは一回コッキリの切り札なのかもしれない。

 敵機の射撃が始まる。

 左右に揺らして回避するが、数発の12.7mmが主翼を掠めて火花を散らした。

右ロールを押さえ付けながらの操縦は慣れるのにもう少しかかりそうだ。

 襲ってきた敵機と逆方向に舵を切ってブレイクする。

 速度が無いので追い付けはしないが、多少安全な位置につけるはずだ。

 それから高度を上げて追い詰めよう。それに


「基本一撃離脱は効かないしなッ!」


 しかし、敵は予想外の行動に出た。

こちらを狙って降下してきた敵機は急減速し、エネルギー有利を捨ててまで格闘戦に持ち込んできた。

 万全の状態であればこちらが圧倒的有利なのだが、オスカーの機体は右翼端が欠けている。

 壱式艦戦ルークは左旋回が得意なので左旋回に持ち込まれると少々危険である。


「思った通りだ。普通のやつは降下射撃から無理やり格闘戦に移行しようなんて考えねぇ、クハッ最高の気分だ。良いねー、俺の能力を理解しているのか?だとしたら最高だ!」


 戦闘狂であるオスカーはますます燃え上がる。

 彼はとある能力によって一撃離脱や多対一は通用しないが、ドッグファイトは別だ。一対一では発揮できない。

 それゆえ死闘は確実だ。


「勝つのは俺だ」


 上空10,000mの戦闘は最終局面を迎えた。




帝国side

「青木から鈴木、中山が墜ちたらしい。無事なら合流したい」


 鈴木機の無線が鳴る、青木副隊長からの通信だがそれどころではない。

 敵機を追って急旋回中だ。

 必死で下半身に集まろうとする血液を脳内に戻している。


「……」


「鈴木、無事なら応答しろ」


「戦闘中、暫く待ってください」


 どうにか返答したが、血が下がりブラックアウトしかける。

 これ以上の応答は無理だ、無線を切る。

 すると、鈴木の感覚は前方にいる敵機だけを捉える。

 唸るエンジン音も風を切る音も不規則に放つ機関砲の音も消えてなくなり、世界は青黒い空と淡青色の敵機だけになった。

 鈴木は静かに引き金を引く。

 無音の発砲、恐ろしく現実感のない射撃だが、確実に敵機を捉えているのは直感で分かる。

 敵機は逃げる、まるで射線がどこにあるのか分かっているように。

 敵機は無数の弾丸を避け、自分の後ろをとろうと旋回する。

 壱式艦戦の苦手な右旋回、ここへ来て初めて空戦フラップを使う。

 グッと旋回半径が小さくなった。

 それと同時に今までより更に強烈なGがかかる。


 頭から血が抜ける。

 視界が狭まる。


それでも鈴木は追い続ける。

敵機に銃弾が当たる。

しかし、まだ動けるようだ。

速度が限界に達し、高度が落ち始めた。

フラップを上げる。

機首を下げる。

逃げる自機を見逃すはずはない。

敵は後ろにつけた。


「おぉぉぉぉぉ!!」


 鈴木は雄叫びを上げながら降下する。

 後ろに敵機、20mmは容赦なく機体を叩く。

 しかし、そんな音など聞こえない、聞こえるはずがない。

 速度を得た鈴木は操縦桿を引き、上昇する。

 さっきは見破られた釣り上げ、今なら効く気がする。

 機体は空を走る、頭上には海が見える。

淡青色の点が追ってきた。


釣れた!


 重量の大きい自機の方が慣性上昇は伸びる。

 縦長のループの途中で速度を失った敵機の後ろに付いた。

 不意に、自分と敵しか居なかった空に無数の影が映る、何かが接近している。

 音が戻る、自分が出血していることに気付く。

 鈴木は無意識に無線の電源を入れ直した。


「おい鈴木応答しろ!本隊が来た」


「鈴木から青木へ、直掩ちょくえん任務として戦闘を続行します。暫く無線を寄越さないでください」


「話を」ブツッ


無線を切った。


 下方の敵機にもう一度集中する。

 真下に広がる海を背景に曳光弾の射線が走る。

 逃げる敵機に弾が収束してゆく。

 しかし、それは思いもよらぬ横槍によって中断させられた。

 敵機に噴進弾が迫っている。

 空中で通常の噴進弾は役に立たない、ならあれは試製四式対空誘導弾だ。

 鈴木は怒りを感じた。


 俺の獲物だ!


 メチャクチャに機関砲を撃ちまくる。

 何故か敵機は動きが鈍い。


 諦めたのか? いや、そんな筈はない敵機からは意思が感じられる。


 敵機は数発の銃弾を受け、装甲板の一部が剥がれる。

 すると誘導弾はそちらへ向かって飛んで行く。


 狙ったのか? いや、そんなことどうでも良い。


「最高じゃないか!!!」


 鈴木は勢いのまま機関砲を発射し続けた。

 銃身が過熱して二度と発砲できなくなるまで。

 気付けば8門ある機関砲全てが使用不能になり、敵機を見失っていた。


「……敗けか」


 鈴木は再び無線の電源を入れ、帰還の申請をした




合衆国side

 オスカーは自分の後ろにつけた敵機を振り切ろうと旋回している。


「エルロンの動きが鈍いな。油圧管に損傷があったのか」


 右主翼の揚力不足は右フラップの半展開でどうにかなったが、エルロンの動作不良はどうにもならない。

 かなり厳しい情況だ、フラップの展開で抗力も大きくなっている。

 隊長だけでなく自分の機体も時間がなくなってきたようだ。

 右旋回、スパローはルークと同じ左回転のエンジンを使用しているが、プロペラ径が小さいため、反トルクの影響が小さい。

壱式艦戦ルークは反トルクを利用して左には高速でロール出来るが、右ロールは非常に遅い。

 それを利用した基本的な回避行動だ。

 さらに、オスカーのスパローは右翼端を失っており右へのロールが速い。


 勿論着いてくるだろ?


 当然のごとく後ろのヤツは着いてきた。

 小型のスパローはともかく、壱式艦上戦闘機ルークは主翼が折れかねない速度での旋回だ。

 ましてや追従では相手より旋回半径を小さくしなければいけないため、こちらよりGは大きいはずだ。

 12.7mmが主翼を貫く。

 この高Gの中、正確にこちらを狙う敵パイロットの技量は称賛に値する。


 これで当てるかッ! 良い! が、読み通りだ。


 予想通り、敵機は旋回に耐えきれず高度が下がり始めた。

 オスカーはここぞとばかりに後ろに着く。


「おらおらおらぁぁぁぁ!」


 機関砲を放つ、自機は小型ゆえに残弾は少ない。

 しかし、オスカーは惜しげもなく弾を放出する。


「堅ぇなおい」


 ルークは後部からの射撃をものともしない。

 普段、有利な場所から撃つオスカーが忘れていた壱式艦戦ルークの恐るべき耐弾性能を思い出させた。

 敵機が急上昇する、何故だろう、普段なら追従などしない。

 しかし、オスカーは吸い寄せられるように操縦桿を引く。

 機首が上がり、一度フレームアウトした機体が視界に入る。

 青黒い空に暗緑色、暗く不気味なコントラストを彩る敵機は何故か魅力的に映った。


 ああ、これが俺の敵だ


 昇りきれなかった自機は再び後ろに着かれた。


「最高だ!こんなに一方的に撃たれるのは初めてだ!!」


 急降下、スパローは軽快な運動性を発揮して敵弾を避ける、避け続ける。

 しかし、途中で後ろの敵以外が自分を狙っていることに気がつく。


 ッ! 対空ミサイル! 完成してやがったのか


 一か八か、赤外線誘導だったら効果が無い。

 オスカーは一瞬射線に突っ込み、無数の金属片を飛び散らせる。

 それらは電波を撹乱し、ミサイルの誘導を無力化した。

 敵機は連続して弾を撃ち込んでくる。

 全ての弾は避けきれない。

 幾つもの弾が着弾し、機体に穴を開けて行く。

 必死に避けていると、いつの間にか射撃は止み、無線が鳴っていた。


「隊長よりオスカーへ、敵爆撃隊の阻止は不可能との判断だ。作戦は中止、直ちに帰投する」


「オスカー了解」


 帝国の勝利が確定した。



作戦終了後

 1946年8月3日、合衆国本土に不穏なビラがばらまかれた。

 内容は『8月6日及び9日に南西部の砂漠X地点で新型爆弾の試験を行う。投下予定地点から20kmにカメラを埋めて回収以外で100km以内には100年は入るな』と言うもの。

 当時、合衆国はある島の名を冠した計画で新型爆弾の開発を行っていた。

 帝国の爆撃によって開発には大きな遅れが出ているが、完成すればたった1機の飛行機が敵本土に到達するだけで勝利できる悪魔の爆弾を。

 これは極秘で誰にも知られていないはずだったし、ましてや帝国の連中が同じものを開発しているとは聞いていない。

 しかし、通知された内容は明らかにソレを投下する予告と思われる。

 大統領は決断を迫られた。


「頼みの綱の原爆さえ旭日に先を越されたのか?我々は降伏するべきなのか?」


 誰にともなく大統領は問いかける。

 それが無駄だと分かっていてもそうせずには居られない。

 考え続けていると脳内はぐちゃぐちゃで埋め尽くされ、思考能力を失った。


「当日になれば分かるか」


 結局、大統領は考えることを放棄して時間に身を委ねることにした。




1946年8月6日

 一機の零式陸攻が合衆国の砂漠地帯に現れた。高度13,000m、上昇限度ギリギリの領域を飛んでいる。

 爆弾槽が開いた、落下傘付きの大型爆弾はゆっくりと降下し、高度670mで炸裂する。

閃光、白熱次いで爆風。

 今までの爆弾と一線を画する超威力の破壊兵器が放つ熱線は爆心地付近の砂をガラスに変え、爆風は辺り一帯を破壊し、爆炎は焼いた物全てを汚染し、生命の住めない不毛の地とした。

 事前通告にあった通り爆心地付近に人は居なかったが、そこに住む生き物はことごとく絶滅した。

 この事件を受けて合衆国は降伏を申し出た。

 太平洋を挟んだ大戦はこうして終結した。




戦後

 戦後およそ20年、合衆国に勝利した帝国は勢いに乗りそのまま旧大陸の国々をも制圧、統一した。

 陛下の意志によって各国の文化の破壊や産業の独占が行われることは無かったが、未亡人の後追い自殺の様な悪習の排除は行われた。


 世界が一つに統一されたことにより、国同士の戦争が発生することは無くなったが、少数の過激思想を持つ団体によるテロが少なからず発生している。

 陛下は世界平和を望んでいたが、結局実現することは無かった。

 争いを起こすのは人間の本能による物で、どうあがこうと抑制することは出来ても無くすことは不可能なのだろう。


「本日は、旭日航空ss201便をご利用いただきまして誠にありがとうございます。私は今回のフライトで機長を担当させていただいております赤城と申します。現在、当機は太平洋上空高度17,500mを時速990kmで飛行中でございます。そして、現在よりおよそ5分後、当機のメインイベントであります超音速への遷移せんい飛行を行います。オグメンタを点火いたしまして、時速3,160kmまで加速し、高度26,500mへ上昇します。どうぞ皆さんご着席いただいて、頭上の速度計をご覧になってお待ちください。なお、オグメンタを点火しますと、非常に強い加速をしますので、シートベルトのご着用と、お持ち物の固定をお願いしております。ランプが消灯しましたらどちらも外していただいて結構ですから、必ずご着用いただきますようお願い申しあげます。1分前になりましたら同様のアナウンスをいたしますので、それまでにご準備ください」


「いやー、赤城さん来れないとは聞いていたけどまさか俺達が乗る飛行機の機長をしているとはね」


 戦争が終結し、青木と鈴木は元合衆国から連絡を受けて、ある人物を訪ねようと旅客機に乗っている。


「そうですね。流石に想定外ですよ」


「昔の相棒と一緒に行けなくて寂しいか?」


「まあ、出来れば一緒が良かったですね」


「そうだよな。俺の指示は全然聞かなかったし」


「悪かったとは思っていますよ」


「あの時は本気で殺意を抱いたけど今となっちゃ良い思い出だな」


「そうですか」


「オスカーとフランクリン、ニクソンか。一体どんな人なんだろうか」


「やっぱり興味ありますよね」


「20年越しの再会だからな。しかも殺し合った相手と」


「なんだかんだ統一政府が出来てからも各国の文化はしっかり残っているし、反応が心配ですね」


「なーに、緊張することはない。もう戦争は起こらないんだからな」


「個人的に恨まれてたら死ぬかもしれないですよ」


「ま、大丈夫でしょ」


「楽観的過ぎませんか? そう言えばシートベルト」


「そろそろだったな」


~アナウンス省略~


「おおー、凄い加速だ。あ、音速超えた」


「音速を超えた実感は無いな」


「だから速度計なんですね」


「思ったより静かだから少し寝ておこうか」


「そうですね」




Background

「のう、葉山祐三よ、いや定方哲二と呼んだ方が良いかのう。これで満足か?」


 部屋で眠っていると突然、和とも中華ともつかない着物を着た女が目の前に現れる。

 顔だけ見れば13~15歳程度だが、長身でその胸には豊満な双丘を湛えている。

 一見バランスが悪く見えるが、ギリギリで釣り合いがとれている。

 超自然的なプロポーションは彼女の存在を象徴する特徴の一つと言えよう。

 彼女の正体は背反事象を同時に起こし、因果の破綻すら自然に見せる全能の存在だ。


「なんだお前か。40年以上見なかったのにあまり久しぶりな感覚が無いな。んー、見てみたいものは見られたかな。ただ、期待外れではあったよ。というか、に落したのは嫌がらせか?どう考えてもに落としてもらった方が楽だっただろう。面白くなると思ったからやったのか?」


 定方はそんな超常の存在に何でもないように文句を言う。


「当然じゃ、そうでもしなきゃここではやっていけんからのう。まあ良いじゃろう、本題に移るぞ。少し過剰なくらいの能力を与えたのじゃから、これで少しは神様の気持ちが分かったじゃろう。その上でわりと楽しそうじゃったな。やはり貴様には神としての才能がある」


「良くない、そしてやだよ面倒くさい。一人遊びの趣味はないっつーの」


「別に一人じゃなくてもよい。わしは何でも出来るのじゃから貴様の相手になるのも容易いぞ」


 彼女は着物の帯を緩めて肌を曝す。

 最近ご無沙汰だった反応が股間に来たが、定方は妻子持ちなのでぐっとこらえる。


「どういう意味だよそれ」


「そう言う意味じゃよ。まあよい、貴様がここへ来る、これ自体は決定事項じゃ。その上で選択肢をやろう。その一、下に残って人生を全うした後にここに来る。その二、今すぐここに来る。どちらを選んでも下に残るものの幸せは保証しよう。どちらが良いか?」


「三の寿命で死んでお前とも永遠にさらばかな」


「馬鹿なことを言っているでない。まあよい、それなら一でよいな?」


「選ぶならな」


「では56年5ヵ月12日3時間12分56秒75後にまた会おう」


「サラッと寿命宣告すんじゃねー」


「さて、次はオスカーの奴じゃの。尤も、奴はこの仕事に向いてなさそうではあるが」



あとがき

 オーバーテクノロジーな超音速旅客機です。はい、マッハ3です(高高度では気温の影響で音速が遅くなる)。

コンコルドよりはっやーい。

 原爆の炸裂高度が高いですが、広島型より僅かに威力が高いためです。

 以降の更新は機体の設定と、希望があればもしかしたら続きを書きます。

 気が向いたら別の作品を投稿いたしますのでその時はまたお付き合いください。

 愛読ありがとうございました。

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