第18話 怜雄の猛攻

【火星:訓練施設】

《戦闘訓練:鴻崎 美大こうさき みと


 「怜雄れおくん、なんで……。」


 俊足の獣型から守った者の正体は怜雄だった。


 「餓鬼一人で置いとけるわけねーだろ」


 俊足の獣型を真正面から食い止めた怜雄は、左肩を噛まれ、今にも砕かれてしまいそうだ。両手は俊足の獣型の腕をガッチリ掴み、両者拮抗状態にあった。


 「美大!! 今のうちに止めを刺せ!!」

 「わ、わかった」

 

 美大はすぐに創造者の能力を再展開する。すると、俊足の獣型の後ろに岩棘の縄を生成する。そして、岩棘の縄を俊足の獣型の両足に棘を食い込ませながら上半身へと絡めていく。


 「怜雄君。そろそろ離れても大丈夫だよ」


 岩棘の縄が腕まで到達するのを確認すると、怜雄は掴んでいた両腕を離し、ずっと噛みついていた俊足の獣型の顎を砕く。肩から離れると怜雄は一歩後ろに下がり、腰を低くし構え始める。


 「覚悟しろ……」

 

 殺気を表に一気に出した怜雄から放たれる連撃は、俊足の獣型の胴と頭中心に放たれ、一発一発が重く鈍い音がした。身動きが取れない俊足の獣型は必死に岩棘の縄から脱しようと抵抗しているが、それで逆に棘が食い込み体がどんどん傷く。


 「これで最期だ」


 そういうと怜雄は、今にも壊れそうな俊足の獣型の懐に入り右手に力を込め、アッパーカットを決めた。今までの中で一番威力の高かったであろうその攻撃は、俊足の獣型の頭を空高く飛ばした。


  「残り3機。撃破者・ガルアン・怜雄」


 右腕を挙げたままの怜雄の姿は、まるで初撃破を喜んでいるように見えた。そして、右手をゆっくり下した怜雄はそのまま地面へ座り込む。

 そこに美大が左腕を挙げ、喜びながら走ってくる。


 「やったね怜雄く~ん☆」


 そのまま美大は怜雄に後ろから抱き着く。そして美大は忘れかけていたものを見る。それは、俊足の獣型に噛みつかれた怜雄の左肩だった。そこには、歯形がくっきり残っており、所々砕けていた。


 「いてぇから離れろ。強化中だ」


 怜雄は戦いが終わり、座り込んで美大の右腕の時のように、左肩中心に特殊な強化治療をしていたのだ。


 「あー、ごめんごめん」


 申し訳なさそうに美大は怜雄から離れると、左隣へ座った。無言のまま、怜雄の左肩を見ていると、怜雄が強化を止め、左腕を回し始める。


 「こんなもんか。まだいけるな」

 「んじゃ私も私も~。そろそろ強化切れちゃいそうだし」

 「まだお前のは大丈夫だ」

 

 怜雄は強化を強請ってきた美大に左手でチョップをかまし、自分の腕が大丈夫なことを再度確認する。美大がぶつぶつと文句を言っているようだが怜雄はそれを無視して立ち上がる。

 そして先ほどの近衛このえ先輩のアナウンスのことを思い出す。


 「さっきのアナウンス。残り3機っていうことはもう誰かが1機撃破してたってことだよな」

 「確かにそうだよね~。戦闘中だったから聞き逃しちゃってたのかも」


 怜雄は、あらかじめ全員の支援のために玲一れいいちから観測者の共有を受けているため、現在の映像を確認する。そこには、特にこれと言って変化はなく、一カ所で激しく戦闘が行われているのを確認した。


 「やはりまだ戦っているのはえんじゅと玲一だな」

 「大丈夫そうなの??」

 「この共有が切れてないってことは大丈夫だろう」

 

 その言葉を聞き安心する美大。そして怜雄は戦闘が終わったであろう梨花を探す。だが、どこにも見当たらず不思議に思う。


 「梨花りかの姿がどこにもないな……」

 「私はここですよ」


 怜雄と美大の後ろからやってきたのは梨花だった。全く気付かなかった2人は驚きながら振り返る。


 「梨花ちゃんっ!!」

 「驚かせるんじゃねぇよ」

 「あら、ごめんなさい」

 

 梨花は2人の驚く姿をみてクスッと笑う。これで撃破組は合流できた。3人は今までの経緯を簡潔に話し、現状を確認する。


 「ならば早く2人の援護に向かいましょう」


 梨花は光源の付与が切れた2人に再度付与する。そして3人は怜雄のナビに従い走り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る