桜庭梨花編

第10話 変わり行く戦闘兵器

【火星:訓練施設】

《戦闘訓練:第3期生》


 梨花りかに話があると言われ5人は、先ほどより少し離れた洞窟の中へ一時避難した。移動中、美大みとは、怜雄れおの強化の能力の付与により痛みを軽減できたようで、今では話せるほどになっていた。

 洞窟の中で腰を掛けるのに良さそうなところを見つけると5人は各々好きな場所に座り始めた。


 「ふぅ~、痛かったー☆」

 「まだあんまり動かすな、また痛み出すぞ」


 美大が右肩をくるくると回していると、怜雄に軽く叱られ、また強化の付与を始めた。強化の付与は永続的ではなく、一時的なものなので効果が切れる前に追加で効果を与えているのだろう。

 すると梨花が近くにあった石をとり光源の能力で灯りを作った。それを自分の近くに置くと話し始めた。


 「先ほどのお話したいことについてですが、恐らく訓練機の中に人が同期している機体がいると思われます。それだけではなく、戦闘兵器自体に高度な学習能力があり、色々なタイプに変形・適応しているようです」

 「えっ……!!?」

 

 梨花から衝撃的な一言は聞いていた全員が驚くものであった。怜雄とじゃれ合っていた美大まで梨花の方を向いて無言になるほどである。だが、単なる訓練ではないとは分かっていたものの、いきなり対人訓練になるとは思っていなかった。

 固まったまま動かない4人を見て梨花が慌てる。


 「あっ、すいません。話が急すぎましたね!! とりあえず私が何でそう思ったかの経緯を説明しましょう」


 そういうと梨花は、えんじゅたちと離れた後のことを語った。



【火星:訓練施設】

《戦闘訓練:桜庭梨花》


 獣型を速攻1機撃破した梨花は、自身の闘争本能をむき出しで光の速さで走っていた。


 「アハハハハハハァ!! やっぱ戦うのは気持ちいいわね~」

 

 敵を探すため岩という岩の間をジグザグに走り回る。すると、大きく開けた場所に獣型を発見した。直ぐに撃破しようと思った梨花だったが、その獣型が奇妙な動きをしていることに気づき、近くの岩へ身を寄せた。

 その獣型は初め倒した獣型と似た形をしていたが、ギシギシと音を立てながら形を徐々に変えていた。


 「(何アレ。変形しているの?! それに、偏っているわ)」


 変化し終えた獣型をまじまじと見ていると、獣型が何かを察知した様子を見せる。すると、梨花の方を首だけ動かしゆっくりと見た。


 「うそっ、気づかれた」


 獣型は梨花よりも一歩早く踏み出して一直線に接近してきた。梨花も欠かさず光源の能力を使い真横に回避する。そのまま獣型は岩に激突し体勢を立て直そうとする。


 「(私の動きをまねてきた?? ……まさかっ!!)」


 この時、梨花の脳裏に浮かんだ結論は、学習能力のある戦闘兵器かつ成長スピードがとてつもなく速いこと。

 幸い、梨花の光源でのスピード特化のところしか真似している様子はなく、守りし者の方は真似されていない。


 「(なにがともあれ、速攻けり付けた方がいい感じかな)」


 すると梨花は1機目を撃破した方法で倒しに行く。だが、それを察知した獣型は敢えて梨花の方に接近し、衝突しそうになる。梨花は守りし者の展開のタイミングをずらされ獣型の腰あたりで展開してしまう。


 「クソォガァァァアア!!」


 梨花は勢いだけで反転し獣型の後ろに衝突する。空中でバランスの取れない獣型は必死に両手でどかそうとしたがもう遅い。獣型が後ろに手を伸ばした時には、守りし者は再展開され右首から左腰まで両断されていた。

 悲しくも体が2つに引き裂かれた獣型は地面に転がり部品が飛び出、スクラップと化した。


 「残り8機。撃破者・桜庭梨花」


 近衛このえ先輩のアナウンスが静かに入る。


 「はぁ、久しぶりに焦った。フフッ、でも少し楽しかったわ」


 スクラップを尻目に梨花に芽生えた久しぶりの高揚感。それも手ごたえがあればあるほど彼女は舞い上がる。戦闘は彼女にとっての快楽なのだ。

 

 ズドンッ……


 不意に彼女の背後に1機。他の獣型とは違った機体がどこからか上から降ってきた。それは、機体が黒く両手に赤を基調とした刀を持った、人に限りなく近い形の二刀流使いの獣型だった。


 「成長しすぎなんじゃないの」


 梨花は呆れつつも戦闘体勢に戻る。




【解 説】

〇模擬戦闘兵器:獣型

 バランスに優れた基礎の戦闘兵器。あらゆるものに対応できるが、それ故何にも特化していないのが弱点。

〇模擬戦闘兵器:獣型α(アルファ)

 梨花の攻撃を受け、学習した機体が変形したもの。従来の獣型よりも速さに特化しているが、加速すると何かに衝突するまで止まれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る