僕と歯車と賢者の石

@kamishiroyaiba

騎士と少年

勇気ある騎士たちの朝は早い。




男は、燃え盛る炎を前にしても微動だにもしなかった。そして、天から迸る雷鳴の如く、その炎を掻き消していった。

「走れ雷鳴‼穿て闇夜を‼貫け虚空‼ソアー・アンガー‼」

彼が魔法を放った刹那、炎と、その炎を作り出した獣人すらも穿ち、貫いた。誰もが彼をこう呼ぶ。

[雷神の守護兵ソアー・ガーディアン]と。




「今回の任務凄かったじゃねえか、ガルジュ」

「いや、そんなこと有りませんよ。先輩方が、俺が攻撃しやすいようにサポートしてくれたお陰ですよ」

「あまり謙遜するなよ。それはお前自身の実力だ。サポートされずに一人でなんて誰もできねえよ」

「そうですね。ところでアスロア先輩、俺の次の任務は何でしょうか?」

ガルジュと呼ばれているこの男は、この国で唯一の雷系統の魔法が使えるエキスパートだ。そしてこの国での最強とも称される、雷神の守護兵ソアー・ガーディアンなのだ。

そして、そのエキスパートがしたうこの男は、アスロア。炎系統と水系統の二種類の魔法を扱う[ブリザード・エクスプロージョン]という珍しい魔力の持ち主だ。

「次の任務か。随分はえーなあ~。急ぎすぎるのは体に悪いが、国民の役には立っている。いい心がけだ」

「ありがとうございます」

アスロアは滅多に人を褒めない。それは、騎士を育てるための厳しさだ。だから誰であろうが、アスロアに褒められれば、実力を認められたとすぐにわかる。

「まあそうだな~。一つだけ入っているようだが、お前一人を指定している任務だぞ。それでもやるか?」

この国、リミオスで、たった一人を指定する任務は滅多にない。たとえそれがどんなに簡単な任務だろうとそれは変わらない。それは、人間誰しも、一人で行動することに恐怖や不安を持つからだ。

「それでも......。それでも俺はやります‼絶対にこの任務を成功させて見せます‼」

「そうか。わかった。頑張れよ。この任務は最も危険とされる未開拓地の調査だ」

「わかっています。だから単独行動の方が適任という訳ですね」

「ああそうだ。そしてその未開拓地というのは、今政権でも重要視されているあの貧民街、ファシシュの調査だ」

ファシシュとは、この大陸の中で、いや、この世界で最も発展が乏しく、資源の少ない街だ。だがその貧民街である事件が起きたのだ。それは、[ブラッディ・スラム]。何者かによって、街が血飛沫に染められてしまったのだ。それがたったの一日に行われたのだという。つまりその何者かは、全世界を危険に晒す可能性をもっているのだ。だから国が任務を出した。

「ファシシュ......ですか。......先輩、を持っていってもよろしいでしょうか?」

か......。いいだろう。ただし、絶対に力を解き放つなよ」

「はい。肝に命じています」




「ここがあの、ファシシュか」

彼は驚嘆と共に失望した。血飛沫といっても、これはもう血の塊そのものだ。

「とりあえず、生きている人がいるかもしれない。探そう」

彼は地形も知らない街をただただ歩いた。

(少し広いところに出たな。ん⁉あれは......。)

そこには、少女の死体と、その横にうずくまる少年がいた。

「君は誰だい?」

ガルジュは突然にも問に出た。少年は口を開いた。

「俺......は......。エリック。この街に住んでる」

少年の声はかなり小さくかろうじて聞こえた。エリックは痩せ干そっており、少女の死体は腐っていた。きっと死んでから時間が経っているのだろう。

「そうか。俺はガルジュ、リオミスの騎士だ。とりあえず話を聞きたいんだが、着いてきてくれないか?」

エリックは、静かに頷いた。

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