第二十四章 二次元の友情は永遠に

 どれくらい時間が経ったのだろうか――――。

 自分の部屋のベッドの上で意識を取り戻した。あの後、深野の肉体から離脱した僕の霊魂は、持ち主の肉体を探して戻ってきたのだろうか?

 机にうっぷしていたはずなのにベッドに横たわっているということは、一度、意識を取り戻して、再び、眠ってしまったのかもしれない。他人の肉体に入るということは想像以上にエネルギーを消耗するようだ。


 ハッと気付いて、飛び起きて僕はパソコンを起動させた。ずいぶん時間が経っていたので電源が落ちていた。

 ナッティーと秋生はどうなったんだろうか? 

 パソコンは普通に起動していたが、モンスターランドにいっても、マイページにいっても……いくら呼び掛けても、ナッティーも秋生もこたえない。

 ふたりともどうなったんだ!? 

 もしかしたらあの戦いで疲れ果てて倒れているのかもしれない。今日は様子をみることにして、僕はパソコンを落として、再びベッドに倒れこんで泥のように眠った――。


 翌日、学校にいったら大騒ぎになっていた。

 生徒会長の深野が、昨夜、自宅で倒れて救急車で運ばれたが意識不明の重体になっているそうだ。部屋の中に粉々になったパソコンがあったので、爆発、感電した可能性もあると言われている。まだ、意識が戻らなくて、ほぼ植物人間状態らしい。

 学校中がその噂で騒然としていた。


 あんなひどいことをしていた深野とはいえ、ずっと植物人間のままだと、ちょっと可哀相だと僕は思った――彼の秋生へのおぞましい嫉妬心が、あの悪霊たちを召喚してしまったのだろうか?

 自業自得といえば、そうかもしれないが……人は誰でも弱い心を持っている。きっと深野は人を信じることができなくて、孤独や挫折感など鬱積した感情が誰を攻撃するというネガティブな行動に駆り立てたのだろう。

 3ちゃんネルの匿名掲示板では、自分自身の正体を隠して相手を攻撃できる。そのことが深野の人間性を歪め、ネットとリアルを使い分ける、二重人格『ジキル氏とハイド氏』へと変貌させていったのだろうか?

 そして、ネットという匿名の世界で『良心』という大事な心を失くしてしまったのかもしれない。――彼もまたネット社会の犠牲者ともいえる。


 その日、急いで家に帰った僕は、パソコンを開いてナッティーに呼び掛けた。

「おーい、ナッティー!」

 しばらくすると、

「ツバサくん、乙カレー!」

 いつもの元気なナッティーの声が聴こえた。無事で良かった、僕は胸を撫で下ろす。

「あのね、ツバサくんに紹介したい人がいるの。ウフッ」

 意味深なナッティーのウフッと共に、パソコンの画面にイケメンのアバターが現れた。

「新しい彼氏だよーん」

「ツバサ、ぼくだよ。秋生」

「おおー! そのアバター、カッコイイなぁー」

 それは〔青い貴公子〕と呼ばれる。超レアアバターのフェイスではないか!

「うん。アバター燃えちゃったから、ナッティーが新しいのをくれたんだ」

「このフェイスはナッティーのお気に入りなの。いつか彼氏ができたら付けて貰おうと思って、ずっと持っていたのよ。秋生くんに使ってもらえて嬉しいわ」

「秋生だけ、イイなぁー」

 ちょっとイジケてみたりして……。

 あの後、モンスターランドで大魔神深野はパソコンが壊されたと同時に消えてしまったらしい。ナッティーは自分と同化している秋生の霊魂を取り出して、新しいアバターに移したが、深野の黒いオーラで穢された霊魂を浄化するのに丸一日かかったということらしい。――とにかく、ふたりとも無事で良かった!

 そして、このふたりに学校で聞いた深野の様子を説明した。

「――そうか、深野さんの霊魂は悪霊どもに持っていかれたのかもしれない。あんなすごいパワーを与えられた換わりに、自分の『魂』を捧げると契約した可能性がある」

「どうして、あんなバカなことをしたんだろうか……」

 植物人間になってしまった深野のことを考えて、僕と秋生はしんみりとしてしまった。今にしてみれば、すべて深野の心の闇が造りだした幻影でしかない。

「それにしても、あいつはメッチャ強かったわ」

 いきなりナッティーが言い出すと、秋生も話を繋いて、

「そうだね。三人で協力しないと絶対に勝てない相手だった」 

「何度も殺られそうになったけど、ナッティーは秋生くんとなら死んでもイイと思ったんだよ」

 嬉しそうにウフッとナッティーが笑う。その言葉に秋生はテレている。――そんなふたりの空気にムッして、

「だ~か~ら~、おまえたちはもう死んでいるだろうがぁー!」

「うっさい!」

 ナッティーと秋生ふたりして言い返しやがった。クッソー!

 そして三人で笑い合った。

 二次元の幽霊ふたりと三次元の僕の不思議なトリオの誕生なのだ。

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