第十四章 二次元の戦い
そのモンスターは、恐竜のステゴサウルスとティラノサウルスを合体させたような奴だった。剣竜と呼ばれるステゴサウルスは背中に剣のような骨質の板がある。しかも、そいつはティラノサウルスのように二足歩行で、もの凄いスピードで迫ってくるのだ。
大きな頭には耳まで裂けた口があり、鋭く尖った牙が異様の大きく、あれで噛み付かれたら一溜まりもない。
そいつを見た瞬間、恐怖で僕の身体は硬直してしまった――。
「ツバサくん! なにボーとしているの!」
ナッティーの叫び声で、ハッと我に返った。いきなり戦局は大いに不利だった。目前にモンスターが迫ってきている。
「戦うのよー!」
「おうっ!」
「うりゃああああぁ―――!!」
奇声を発しながら、ナッティーはモンスターに向けてバズーカ砲を乱射している。それに対して炎の球を口から飛ばしてモンスターが応戦してくる。バズーカ砲と炎の球がさく裂して、あたり一面は炎と白煙、そして爆風が吹き荒れた。
ヤバイ! 僕も背負った『無敵の剣』を抜くと、モンスターの頭部に一撃を与えたが敵はビクともしなかった。今度は目を狙って斬り込んだが、口から吐く炎の球に阻まれて近づくこともできない。ナッティーは手榴弾のようなものをモンスターに投げつけて応戦していたが、まったく歯が立たない。
――な、なんて、強いモンスターなんだ!
モンスターの巨大な尻尾にはらわれて、僕らは跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられた。hpがどんどん下がっていく……このままでは回復できないまま死んでしまう。
ナッティーも僕も満身創痍でほうぼうの体だった。地べたにうっぷし、這いずり回って逃げる。
……そんな僕らに笑い声が聴こえてきた。
「あははっ、なんだ、だらしがないなあー、おまえらの戦力はその程度か?」
見上げると真っ黒な魔術師の衣装を付けたアバターが立っていた。そいつはまさしく秋生が使っていたキャラだった。
「おいっ、虫けら立ち上がって俺と戦え!」
そういった瞬間、僕の身体はふわりと起き上がった。
「お、おまえは誰だ!? なぜ秋生のキャラを使っているんだ?」
「ふん! 屑どもめ、俺が叩き潰してやる!」
そいつのレベルを見て驚いた、280もある。このゲームのレベル上限は100のはずなのにどういうことだ? ゲームの仕様を変えるほど強烈なパワーをこいつは持っているというのか!?
「今から仲間のいる所へ送ってやるぜ! おまえの行き場所はHell(地獄)だ!」
そいつは魔法の杖を天にかざして呪文を唱え出した。
僕の身体は金縛りにあったように動けない、魔術師の身体から真っ黒なオーラがうねる蛇のように発散されている。たぶん、そのオーラに包まれたら、間違いなく僕は死んでしまう――。
「ああ、もうダメだ……」
観念して目を瞑った瞬間、もの凄い力が僕を弾き飛ばした。
「ツバサくん、逃げてぇ―――!!」
必死の形相でナッティーが僕を二次元の壁に放り投げていた。ナッティーのさく裂ボンバーに魔術師も一瞬ひるんだようだ。
「自分のパソコンへ帰るのよ! 早くー!!」
僕のhpは低過ぎて、これ以上は戦えない――。
あたふたと二次元の壁を這い上がって、スルリとパソコンの画面を抜けると、僕はリアルの世界へ戻ってきた。
『モンスターランド』では、たった一人でナッティーがモンスターと戦っている。
「スマナイ……ナッティー……」
自分の無力さに僕は涙が込み上げてきた。
その時だ、ゲーム画面のナッティーがモンスターに掴まれた!
そして頭から噛み付かれて、鋭い牙にナッティーは挟まれていた。モンスターに咥えられた無残なナッティーを映したまま、急にパソコンの画面がフリーズして動かなくなってしまった。
もう一度『モンスターランド』に戻ってナッティーを助けたいが――それもできない。
「ナッティー! ナッティ――――!!」
僕はパソコンの画面に向かって、叫ぶことしかできなかった。
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