第二章 僕と秋生について
さて、前置きが長くなったが――。
僕の名前は
このネット幽霊ナッティーとは、半年前に起きた悲しい事件をきっかけに知り合いになった。――僕らはある人を死に至らしめた犯人をネットの世界で探しているのだ。
その事件とは、僕の幼馴染で親友だった、
僕と秋生は同じマンションに住み、小・中・高校とずっと同じだった。看護師をしている母親とふたり暮らしの秋生は。よく僕の家に泊まりにきて、ご飯を食べて風呂まで一緒に入った。まさに家族同然の付き合いだった。
気が優しくて繊細な秋生は人と争うことが嫌いで、ひとり静かに小説を読んでいるような奴で、棒きれ振りまわして暴れてる剣道少年の僕とは大違いだった。――だけど僕らは兄弟みたいに仲が良く、自分にない部分をお互いおぎあい認め合っていたんだ。
高校生になって勉強や塾、部活などで前ほど遊べなくなったけど、スカイプやメールなどで連絡は取り合っていた。
秋生の様子がオカシイなぁーと感じたのは、あいつが自殺する前日だった。
十時過ぎに塾が終わって、僕は自転車で帰宅中、自宅のあるマンションの前にきたら、建物敷地内の児童公園の暗がりに誰かがうずくまっていた。ホームレスかと思って通り過ぎようとしたら、「ツバサ……」と呟くような声が聴こえてきたのだ。
振り返って見たら、それが秋生だった。確か、一週間前から学校を休んでいると秋生のクラスの剣道部員から話を聞いていたが、近所ということもあって、つい見舞いにいくのが遅れてしまった。――言い訳すれば、剣道部の試合と塾の模擬試験が重なって忙しかったのだが……。
心配しながらも後回しにしていたら、まさかこんな所で秋生と会うとは思わなかった。
――だが、いつもの秋生と様子が違う。僕らは会うとジョークを二言三言、飛ばして笑い合うのだが……その日の秋生は蒼白い顔をして元気がなかった。
塾帰りの僕は腹が減っていたので、近所のラーメン屋にいかないかと秋生を誘ったら付いてきた。一緒にラーメンを注文したが、ほとんど秋生は食べなかった。口数も少なく、時々しゃべるとドモッたり、瞼がピクピク痙攣して……なにか、神経性の疾患ではないかと思われた。
「秋生、何かあったのか? いつものおまえらしくないぞ」
目の前の秋生の様子が心配で箸を置いて僕は訊ねた。
「……べつに……」
曖昧な顔で秋生が薄く笑う。
「悩みごとでもあるんじゃないのか? 何かあるなら相談しろよ」
「どうしようもない……」
「えっ?」
「もう……限界だ……」
「なにが?」
「……ジ・エンド」
「秋生?」
その後、秋生は何を聞いてもいっさいしゃべらなかった。
その日は遅くなったので自宅のあるマンションのエレベーターの前で別れた。僕の家は七階で、秋生は最上階の十五階なのだ。
それが――秋生を見た最後の姿だった。
朝方、ベッドの枕もとに置いた携帯が鳴った。着信音がメールだったので後で読もうと開かないで、そのままにして……眠ってしまった。
遅刻ギリギリまで寝ていた僕は、慌てて支度をするとカロリーメイトとポカリを持って、マンションのエレベーターに飛び乗った。そこで気が付いて、早朝にきたメールを僕は開いてみた。
――それは秋生からだった。
『 ツバサ、おまえに残したいものがある。
これは僕の遺産だから
ID:●●●●●●●
パスワード:*******
このHPを守ってくれ!
ツバサ、ごめんな、
おまえはいい奴だった、ありがとう
もう限界なんだ 疲れたから
今から飛ぶよ
さよなら……
秋生 』
こんな冗談とも取れない、意味不明のメールがAm5:10に携帯に送られていたのだ。
僕は悪い冗談かと……首を捻りながらも、昨夜の秋生の様子が尋常ではなかったので、俄かに心配になってきた。やがてエレベーターが階下に着いた、エントランスの自動ドアが開いて僕が見たものは……。
救急車とパトカーが数台、それを囲むように野次馬の群れ、それらの眼は真っ赤な血に染まったマンション前の路上と白いシートに包まれたある物にそそがれていた。
――そう言えば、メールの着信音の後にドーンと何か落ちたような音がしたが、あれは……もしかして……秋生、おまえだったのか!?
僕は言葉もなく、その場に茫然と立ち尽くしていた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます