ネットに棲むモンスター
泡沫恋歌
第一章 ナッティーについて
「アザース!」
嬉しそうに彼女はニッコリと微笑んだ。
僕のパソコンの画面に映し出された彼女はとってもチャーミングなアバターなのだ。
アバターというのはSNSなどでゲームやチャットをする時に自分の分身として、画面に表示される画像ことで、それぞれのSNSでいろんな顔や服装パターンが存在する。
彼女が入っているSNSは、特にアバターが精巧に出来ていて可愛い。アバターには服装や背景を着せ替えできるようになっていて、自分のアバターにお気に入りの衣装をコーディネイトして楽しむ趣味の人たちがいる。――いわゆる『アバ廃人』と呼ばれるマニアで、月に何万円もアバターを買っている人たちだ。
まあ、よくお金が続くなぁーと感心してしまう。
「コンビニでウエブマネー買ったから、今、番号教える」
「良かったぁー、これでまたアバターを買えるわ」
「ほどほどにしなよ」
「だってぇー、アバター命だもん!」
「もう死んでるのに……」
「――それを言うか? 失礼な奴めぇー」
彼女のハンドルネームはナッティー、実はネットの中に棲んでいる幽霊なんだ。……まさか、信じられない? うん、誰だってそう思うよね。
だけど、最近の幽霊はお墓になんか棲んじゃいないのさ。いろんな世界と繋がる異次元空間ともいえる、このネットこそが幽霊たちの隠れ家なんだ。アバターやアイコンでしか存在を示せないネットでは、リアルの肉体を失くした彼らが、幽霊だと悟られずに人間たちとコミュニケーションできる唯一の場所なのだ。
君も気を付けなよ、ネット仲間の何人かに、もしかしたら幽霊が紛れ込んでいるかも知れないぜ。あははっ
――ナッティーも、そんな幽霊たちのひとりなんだ。
彼女に訊いたところ、一年ほど前にパソコンをやっている最中に心臓発作で亡くなったらしい。
ナッティーは超アバター好きの『アバ廃人』で、アイテムバックにはレアアバターをかなりコレクションしているらしく、亡くなった日は欲しかったレアアバターをゲットできて歓喜し過ぎて興奮したために発作を起こしたらしい。
元々、心臓が悪いナッティーは自宅で療養生活だった。――あまり外出できないので、パソコンべったりの『ネット依存症』になったらしく……そのせいか、アバターへの執着とネット依存症で死んでも成仏できず、ネット幽霊としてSNSに棲み着いてしまったのだ。
俗名は菜摘(なつみ)、享年十九歳。それがナッティーの生涯だった――。
しかし、ネット幽霊になってしまったものの、SNSの課金システムは厳しい。
自縛霊のナッティーはネットの外へ出られないので、お金を自分でチャージすることができない、定期的に課金しないとSNSのいろんなサービスを受けられなくなってしまう。
そんなナッティーのために、この僕はウエブマネーを買って、時々チャージしてあげてるってわけさ。
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