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リンの経営するホストクラブとキャバクラが入ったビル。そこには特別室があってお客様がキャストと個人な時間を楽しめる部屋が用意されている。そこにはバックバーとバーカウンターも設置されていて専属のバーテンダーが酒を作るシステムだ。店とはまた違う緊張感があって、これはこれで楽しかったりする。バイト代もそれなりに良いし。
けれど、俺はこの部屋の使用料がいくらなのかは知らない。何か訊くのも怖いし、知らなくても仕事は出来るから。この店自体高級仕様だし、特別室を使うお客様も明らかに金持ちって感じだし、きっと俺が一生飲み屋で払わないような金額なんだろうな、とは予想できるけど。単純にすげぇ。
「伏倉様、お待たせいたしました」
「ありがとう、待っていたよ。これはどんなカクテルかな?」
さっきの話ではないけれど、サーブしたショートカクテルを少年のようにキラキラした瞳で伏倉さんは訊いた。
「X・Y・Zでございます。ラムベースのカクテルでこれ以上のカクテルはない、と言う意味が込められております」
「そうか、だからXYZなんだね。面白い」
「すごーい、そんなカクテルがあるんだぁ」
「ねー! 知らなかったぁ!」
きゃっきゃうふふ、と楽しそうにする三人を見てこちらもつい微笑んでしまう。だって自分の作ったカクテルで楽しそうに笑ってくれたらこっちだって嬉しくなるに決まっているじゃないか。ベテランバーテンダーの代わりを務められるくらいになったとしても、嬉しいものは嬉しい。単純なのは重々承知だ。
「わぁ美味しいねぇ。すっきりしていて飲みやすいよ」
「ありがとうございます」
アルファベットの最後の三文字。“これ以上ない”ってのは“カクテル”と“時間”両方かけてある。“これでおしまい”ってことでラストのカクテルとしてオーダーされることも多いものだし。俺はキザったらしいからしないけどね、なんて。
「今度来た時も君でお願いしたいんだけど、いいかな?」
帰り際、ハットを手渡した時に伏倉さんが訊いて来た。残念、俺は臨時バイトだから。
「そう、それは残念だな。僕はあまりカクテルは飲まないのだけど、君の作るカクテルは凄く美味しかったから。連絡すればまた来てくれるかい?」
「ありがとうございます。しかし、今日は代わりで担当させていただいただけでございまして・・・」
「どうすればまた君に会える?」
「え」
「君くらいの腕のバーテンダーさんならきっと、何処かのお店にいるんでしょう?」
ニッと笑った伏倉さんは本当に楽しそうにそう言った。
「どこの店かな? 飲みに行くよ」
なんてこった。今日のバイト代にこんなに素敵なものを貰えるなんて。持つべきものは友だなぁ、なんてな。
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