小説強盗の模倣犯にご注意くださいっ!

ちびまるフォイ

モデルになるのはそれじゃなくても

それは平和な昼下がりに突然起きた。


「全員動くな!! 両手を上げてこっちへ集まれ!!」


強盗団は拳銃をつきつけてほかの利用者を中央へ集めた。

通報されないように連絡手段をすべて奪った。


「い、いったい何をするきだ……」


「このかばんにありったけの小説を詰めるんだ。早くしろ!」


小説強盗は店員に拳銃をつきつける。

ほかの強盗はとらえた利用者の前にもカバンを出した。


「お前らもだ。このかばんにお前らの作品をつめろ」


「そんな! 私たちの小説なんて、たかがしれているでしょう」

「我々の小説を奪ったところで、大した価値にはなりませんよ」


「いいから詰めろ。もし、お前らのせいで俺らが逮捕されたら

 警察に小説も押収されるから、お前らの小説も発表できなくなる」


「それじゃ、あくまで人質ってこと……!?」


「さぁ、早く詰めるんだ!」


強盗の用意したカバンには小説がたくさん詰められた。


「アニキ、やりましたね。ズラかりやしょうぜ」

「いいや、まだだ」


強盗は再び店員に拳銃を突きつける。


「ま、まだ何かあるのか……? 言われた通り小説を出したじゃないか」


「ああ、そうだな。だが、これらはすべて発表後のものだ」

「なにを……」


「あるんだろ? 地下金庫に未発表作品が。そいつを出しな」


「ひ、ひぃ……!」


脅しに逆らうこともできず、しぶしぶ強盗団を地下金庫へ案内することに。

分厚い扉を開けると、未発表の小説がたくさん並んでいた。


「わははは!! これを発表すれば俺らは人気作家だ!」

「やりましたね、アニキ!!」


「ああ……新人賞用に書き溜めていたのに……、

 いいアイデアだと思った会心の作品なのに……」


「ふん、いつまでも書きかけでためておくほうが悪いんだよ」


強盗団は未発表の作品たちを容赦なく回収した。

あとはこれらの名義を変えて出せば、一躍人気作家の仲間入り。

しばらくは更新頻度に悩まされることもない。


「アニキ、ちょっと思いついたんですが……」


「なんだこんなときに。後にしろ、大事なことか?」


「ええ。大事なことです」


そういうと子分は迷わず拳銃の引き金を引いた。

とっさのことだったので狙いは逸れて、強盗の顔のすぐ横をかすめた。


「てめぇ!! なにしやがる!! 殺す気か!!」


「アニキ、俺思ったんですよ。いつも分け前は少ないじゃないですか。

 俺がいないと強盗は失敗するのに、分け前は平等じゃない。

 だったら、いっそ俺だけでもいいって思ったんですよ」


「バカが! 思いあがるんじゃねぇ! お前だけでできるか!」


「それは今回の成功で証明しますよ」


手つかずに未発表作品をめぐって、強盗が争い始めた。

逃げようにも飛び交う弾丸の中を突っ切ることなどできない。


「この小説はすべて俺のものだ!!」


「もうアニキに独り占めされてたまるか!!」


そして、二人は――


 ・

 ・

 ・


と、ここまで書ききったところで、頭を悩ませた。


「オチが……オチが思いつかねぇ……」


何かしら大逆転だとかを考えていたものの、アイデアは降りてこない。

原因はひとつだった。


「強盗って、経験ないからなぁ……うーーん」


小説を書くには実体験があると筆が止まらずスムーズに書ける。

けれど、強盗の経験もなければ見たことも聞いたこともない。

映画とかで見たペラペラの強盗像がやっとだ。


「あーー! ちくしょう! なんで強盗なんてネタで書いちゃったんだ!

 こんな相手の都合も考えずに押収しに来る

 無慈悲なサイコパスな人間のモデルなんているわけないのにーー!!」


何度書いても筆は止まり、何度も何度も書き直してはとん挫した。

とってつけたような安い強盗像ではとても書き進められない。


諦めかけたそのとき、部屋のインターホンが鳴らされた。


玄関の鍵を開けたとたん、扉のチェーンを力任せに引きちぎって編集が土足でやってきた。



「オラ、先生!! もう締め切りが近いんだからさっさと小説出せや!!

 てめぇ、書き終わってなかったら、終わるまでここで書かせるからな!!!」



その姿を見たとたん、強盗の描写が一気に進んだ。

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