ただの短編集

柊木緋楽

腐敗してゆくこの世界で

なあ、璃里華。

花火大会行ったとき、お前が告白してきたところから、この物語って始まったのかな。

なあ、璃里華。

お前が告白してくれて、俺、本当は凄えうれしかったんだぜ。

あん時は本当に……ごめんな。

俺……。

ずっと前からお前が大好きだった。

……っつっても、お前には聞こえねえか。

だって……、お前……。

ゾンビになっちまったんだもんな。

……え?

撃たないでって?

撃つわけねえだろ。

お前の後ろに居るゾンビを殺してるだけだよ。

はあ?

殺さないでって?

いやさ、だって、その……。

俺もさ、お前以外のゾンビに食われたくねえし……。


……そんなに照れんなよ。

言ってるこっちまで恥ずかしくなってくるじゃねえかよ。

いやー。

それにしても、まさかこうなるとは、思ってもみな……う……ぐっ!

……かったなー。

が……ハッ……!

お前がまさか、ゾンビになっちまうなんてな。




……え? 心臓も食わせろって?

はいはい。

分かったよ、

心臓も、血も、何もかも、お前に捧げるよ。

そうすりゃ一つになれるもんな。




酷い痛みが、一瞬だが胸部に走る。

そしてその痛みが走った部分からは、これ以上出ないくらいに、紅い液体――血が流れる。

そんな光景を見ながら、俺の視界はゆっくりと、黒い闇に包まれ、沈んで行った。






















ねえ。

瑠璃華がそんな顔で問い掛けて来る。

なんだ?

俺は顔でそう問い返した、

死ぬまでずっと、一緒だよ。

彼女がそんな風に呻き声を出した。

ああ。そうしよう。

死ぬまで、ずっと一緒に居よう。

俺もそう、呻き声で返した。




……つい数分前、人類が絶滅した。

国は廃れ、物も全て壊れている。

凶器もなにもかもが全て。

俺にあるのはこの死なない体と彼女だけだ。

一生、守り続けるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ただの短編集 柊木緋楽 @motobakaahomaker

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る