そうしてあなたは逃げていくのね

成神泰三

第1話

ああ、君はいつも厳しいことを言うね。それとも僕が優柔不断すぎるのがいけないのかな。でもしょうがないじゃないか。こんなことになった手前、ぼくにはどうにもできないよ。


「私くらいよ、ここまで貴方とずっと一緒にいようとするのは。臆病なあなたにずっと合わせてあげるの。なんていい女なのかしらね」


ああ、本当にその通りだ。君は本当にいい女さ。口惜しいが、僕にはもったいないくらいのいい女だよ。でもね、君ほど僕の話を聞いてくれない人もいなかったよ。丁度、今みたいにね。


「私、ずっと夜風に当たっているほど、頑丈な体は持ち合わせてはいないわ。男なら男らしく、私を抱き寄せるべきじゃないかしら?」


そうだね。本当ならそうするべきなんだろうね。でもね、それはできないんだよ。それは君にもわかっているはずさ。ウイスキーをいくら飲み込んでも、君の心は温かくはならないよ。もう、ウイスキーを飲むのはやめたほうがいいんじゃないかな。


「………あくまで無視するつもりなのね。それなら私にも考えがあるわ。そうね、あなたなんか捨てて、あそこの墓守とでも寝てやろうかしら」


それはやめたほうがいいよ。あの墓守さんは、かなり堅実な人だからね。自分の奥さん以外とは寝ないと思うよ。


「………う、うう」


ああ、泣かないで。


「……寂しい、寂しいわ。なんで神様はこんな意地悪をするのかしらね」


いずれ君にもわかる時がくるよ。


「せめて、あなたの最後の言葉さえ聞くことができれば、こんなに苦しまずに済んだのに」


君が早く幸せになれますように。

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