第170話 強者の集う国 - Law of the jungle-
・1・
「何で、お前がここに……」
膝を付くカインは鋭い目つきで問う。しかし視線の先の魔人は「何言ってやがる?」とでも言わんばかりの呆れ顔でこう返した。
「ハッ、こんな楽しそうな場所に俺が来ねぇ理由があるのかよ?」
「……」
タウルがここにいるという事は、すでに他の魔人もこの国に足を踏み入れたと見るべきだろう。ザリクとシャルバ。そして――
(ドルジの野郎も……)
夢の中の
『アイタタ……何、お仲間登場ってやつ?』
タウルの横槍で盛大に吹き飛ばされたケイトが瓦礫を払いのけながらゆっくりと立ち上がった。
「何だ随分と頑丈なガキじゃねぇか。思ったより楽しめそうだ」
タウルは獰猛な笑みを浮かべる。
『ケイト、あいつはヤバい。君の魔法を強引に――』
『馬鹿言わないでよトレイ。だから良いんじゃん? ゾクゾクしちゃう……ッ♡』
反発力をさらに上回る力。それにより支点が自分から相手に移った。ケイト自身が吹き飛ばされたのはその結果だ。見る限りまだピンピンしているが、それでも服に付いた僅かな焼け焦げた跡。ダメージは通っている。
「……何だよ?」
ふと、ジロジロとこちらを眺めるタウルにカインが気付く。
「いや、見てくれは大して変わっちゃいねぇが、前よりも随分と貧相な魔力だと思ってな。確かドルジの仕業だったか? チッ、余計な真似しやがって」
不満を呟きながら、彼は右腕に
「仕方ねぇから手ェ貸してやる。せいぜい
・2・
『……ッ、行け!』
トレイが虚空に向かって叫ぶと、遥か上空――黄金樹から伸びた枝から無数の
「おいおいテメェで戦わねぇのかよ?」
タウルは右手に収束した焔を一気に振り抜く。解き放たれた煉獄は意思無き兵隊たちをあっという間に炭へと変えてしまった。
「あ?」
だがショゴスたちは次から次へと空より補充される。
『Carnage 2 ... Activate』
トレイの両目が赤く染まる。6枚羽が騒めき、耳障りな音と共に蜂のような小さな羽虫が彼の周囲に群がり始めた。
羽虫はトレイの意思でショゴスたちを針で突き刺し、体の中へと潜っていく。寄生されたショゴスたちはトレイと同じ6枚羽を展開し浮遊し始めた。
カインは
『無駄だよ。ただの寄生じゃない。そいつらには俺の能力も植え付けてある』
「余裕がなくなってきたな。口数が増えてるぜ?」
『……ッ』
トレイの静かな怒りを表すように、羽付きショゴスたちが一斉にカインに襲い掛かった。カインは再度
『ハッハーッ!!』
ケイトはラージメイスに纏わせた斥力の重撃を。
タウルは
それぞれ四方から力と力が激突した。
『アハハ!』
衝突から一秒も経たずに、ラージメイスで爆炎を突き破ったケイトが勢いよく突進する。狙いはタウルだ。
しかし彼女の渾身のフルスイングはタウルの爆焔で呆気なく掻き消された。
『ケイト!? ……ッ!』
全身を炎に包まれながら落下する彼女のもとへと駆けつけるため、トレイはショゴスたちに指令を送る。するとものの数秒で数百を超えるショゴスによる包囲網が構築された。前後左右はもちろん、上空までびっしりと。
「クソッ、また新手か!」
おそらく上空の
「火が入り用か?」
「あぁ……少々癪だがな」
背中合わせになったタウルは振り返らずカインに何かを放り投げた。それは赤いロストメモリー。以前、戦いの中で彼に奪われた
カインは
『Agni ... Loading』
黒鎌とトリムルトの二刀流。
『Rising charge!! Agni ... Exceed Edge』
黒い旋風は炎を纏い、巨大な炎の嵐となって天へと昇る。
・3・
『ケイト! どこだケイト!!』
両手で瓦礫を掻き分け、少女の姿を探すトレイ。
(あいつらがショゴスを相手にしている間に——)
だがそれが甘い考えだと言うことを彼はすぐに思い知る。
次の瞬間、火柱が天を突き刺した。
『ッ!?』
「周りの雑魚を焼き払いながら大樹の枝も焼いて塞ぐ。なかなか考えたじゃねぇか」
「うるせぇよ。敵に塩を送って満足そうにしてんじゃねぇ」
そう言うとカインは先程のアグニと、以前バベルハイズで受け取ったアレスも併せて持ち主に投げつけた。
「今は返しとくぜ。それは俺の手でお前から奪い返すもんだ」
「フッ、律儀だねぇ。まぁ、嫌いじゃないぜ」
『目障りなやつらめ……』
トレイは6枚羽を展開し、光の矢を収束させる。しかし——
『がは……ッ! ……アハ、アハハ!』
彼の後ろで瓦礫の山が爆ぜた。
『ケイト!』
『あー! 熱い、痛い……でも——』
全身を焼かれ、煙を上げてもなお彼女は立ち上がる。まるでゾンビのように。しかし嬉々として。
『楽しくてたまんない!!』
直後、彼女の周囲を異様な空気が支配した。
「「ッ!?」」
斥力の魔法を使ったわけではない。
だが空気が重い。それは決して比喩などではなく、大気中の魔力濃度が飽和した結果。過剰な魔力が渦を巻いている。そして今、その中心にケイトはいた。
『Carnage 3 ... Act——』
さらに上のコードを詠唱しようとしたその瞬間、突如としてケイトは膝から崩れ落ちた。
『ケイト!?』
「あれ……もうおし、まい……?」
彼女が纏う白の鎧が消失し、吐血する少女の姿が顕になる。
『……
トレイは尋常ではない痙攣を見せるケイトを抱えると、光矢を数本地面に突き刺すように射出する。その中の一本を手で掴むと、矢先をカインたちに向けた。
「待て! テメェら、ジョーカーの仲間か!?」
『ジョーカー……あんなヤツ信用できるか。俺は、ただ……ッ』
何かを言いかけるトレイ。しかしその先が語られることはなく、彼は光矢同士を思いっきり叩きつけた。
次の瞬間、眩い閃光が辺りを真っ白に染め上げる。
「……ッ」
「逃げたみてぇだな」
タウルの言葉通り、彼らの姿はもう消えて無くなっていた。
あとに残ったのは激戦による甚大な破壊の爪痕だけ。
「……クソッ!」
強者が集うこの国で、今の自分では圧倒的に足りない。それを改めて実感したカインは右手を強く握りしめた。
こんなところで、立ち止まってはいられない。
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