間章 碧眼の魔道士 -Starlight Peacemaker-
Prologue EX
――アメリカ合衆国。アリゾナ州。
どこまでも果てしなく続く砂塵と岩壁。その広大な峡谷の一画で夜空を赤く染めんとする炎が上がっていた。
「急げ! あるだけの弾薬をかき集めろ!」
巨大な崖の内部をくり抜いたように作られた通路では銃火器を持った男たちが一心不乱に空に向かって引き金を引いている。
そのさらに奥ではこの戦況を俯瞰する者たちが集っていた。
「く……ッ、何故ここがバレた? 敵の規模は?」
「そ、それが……二人です」
「何だとッ!? そんなふざけた話があるか!」
大声を上げたのはこの地を拠点とするテロ組織のリーダー。現在アメリカ国内で活動する数多のグループの中でも五本の指に入る規模を指揮している男だ。
構成員の青年は報告を続ける。
「狙撃手が一人。もう一人は……先日『
「ジョーカーの言っていた
豊富な人員に弾薬、そして
「
「おやおや、リーダーともあろう者が初っ端から敵前逃亡? そんなんでよくテロリストなんてやってられるね。実は向いてないんじゃない?」
その時、リーダーの背中を何者かが刃物で突き刺した。
「ぐッ……ど、どういうつもりだ、貴様……ッ!」
その人物は先ほどまでリーダーの横で戦況を報告していた青年だった。しかしすぐにその姿は霞のように消え、代わりに明るい長髪を振りまく美女へと変貌する。
「まさか……貴様がこの場所を!」
「ピンポーン♪」
満面の笑みを浮かべた潜入者はパチンと指を鳴らす。リーダーが刺されたと気付いた周囲の構成員たちは一斉に彼女に銃口を向けた。
「あちゃー、大ピンチ。リオ、あとよろしく♪」
『……ラジャ』
潜入者の腰についた無線から声が聞こえた次の瞬間、リーダー以外の全ての構成員が次々と糸の切れた人形のようにその場で倒れていった。
「ッ!? いったい何が……」
堅牢な岩壁には一切破壊の痕跡がない。なのに倒れた者たちの胸にはまるで銃弾に貫かれたような傷が見える。
「どうよウチの超絶かわいい狙撃手ちゃんは? って、狙撃だから姿は見えないか」
『シーマ……うるさい』
「ごめんごめんリオ。帰ったらおいしいもの作ってあげるから。ね?」
『……なら、許す』
そんな風に遠方の狙撃手と明るく会話する一方で、シーマと呼ばれた潜入者はリーダーの両手にしっかりと手錠をかける。
「はい、テロリスト一名確保♪ 本日のお仕事完了ー」
「ハッ、無駄だ。ここにどれだけの戦力がいると思っている? どんな手品を使ったか知らないが、貴様一人で私をここから連れ出すことなど――」
「ん? そのお仲間ならもう全滅してるよ?」
「何……ッ」
シーマが壁の一点に視線を促す。リーダーも釣られてその方向に目を向けると、突然そこに約3m四方の黒いキューブのような塊が現れた。より正確には、岩壁があった場所にキューブが発生したというべきか。
黒いキューブは急激にその質量を収縮させ、やがて跡形もなく消滅する。後に残った外へと繋がる大穴。その先に人が浮かんでいた。
「まさか、あれが……」
「そ、私ら『
白銀の満月を背に、静まり返った戦場を見下ろす少女。
その碧い瞳はこの夜空に浮かぶ星のような強く美しい輝きを宿していた。
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