第2章 絶凍天灼 バベルハイズ -The Fiery Angel in the Frosty Kingdom-

Prologue 王女と魔人 -Like attracts like-

 暗き夜空を照らす白銀の月。

 煌めく星々を従えたそれを、とある王城の窓から見上げる女性が一人。

 彼女は月と同じ銀の髪をなびかせ、ふとこう呟いた。



「あら、珍しいお客さんね」



 夜空から視線を落とすと、そこには魔人がいた。


 御伽話おとぎばなしの魔女のような鍔広の帽子。

 人とは思えぬ生気の抜けた灰色の肌。

 そして左目を覆う黒い眼帯。


 の者は、世界の秩序を根底から破壊し得る存在。

 魔人ヴェンディダードの首魁――ザリク。


 彼女は宙に浮いた状態で、窓の外からその女性を見ていた。


「ライラエル・クリシュラ・バベルハイズ……貴様に聞きたいことがある」


 ザリクはライラエル――に向かってそう言った。

 しかし、


「まぁ、いけないわ。早く中にお入りになって? この国でそんな恰好していたら死んでしまいますよ?」


 王女は一切怖れる素振りを見せず、むしろ逆に黒鎖が巻き付けてあるだけで裸同然のザリクの身を案じた。

「……」

 次の瞬間、ザリクの右目が見開かれ、何もない空間から複数の極光が生まれた。一つ一つが極小の太陽と遜色のない莫大なエネルギーは一瞬で収束し、三本の撃槍へとその形状を変え、王女を囲むように展開される。


「……あら」

「その気になればいつでも殺せる。この国と共に塵も残さず消えたくなければ、聞かれたことだけに答えろ」


 魔人に命を握られているというのに、それでも王女は溜息をつくだけだった。


「……いいでしょう。で、私に何を聞きたいの? 可愛らしい魔女さん」


 変わらぬ王女の態度は無視して、ザリクは本題に入る。

 彼女の問い掛けはこうだ。




「貴様の目に、私はどう映る?」




 たった一言、それだけ。

 しかし、その一言で王女は全てを理解した。何故なら――



「そう…………あなたも



 どこか悲しそうな瞳で魔人を見つめる王女。

 そしてその口から、『答え』は紡がれた。

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