21.遠征任務-Ⅲ
出発から三日経ち、現在ソフィア達はカラハダル大森林の前にいる。
辺りは既に暗闇が広がりはじめており、夜の森に突入するのは危険だという判断から探索開始は明朝からということになった。
これから五人で火を囲み、明日からの探索に向けて打ち合わせを行うところだ。
ソフィア達は旅の道中で魔物と遭遇することはなかったが、途中宿泊のために立ち寄った町や村で、既に魔物との戦闘を経験した班もいるという情報を得ていた。
目を遠くの方に向ければ、恐らく同じように探索開始を明朝に回した班が火を焚いているのが確認できる。
薪が燃えて弾ける音だけが響く中、モブロスはふんぞり返って特に何も話そうとしないため、折を見てソルが話を切り出した。
「ここに来るまでも何度か話したが、今一度今回の試験について確認しておくよ。聞き逃しのないように」
「はい」
「まずこの試験の目的は数日間に及ぶ遠征をこなし、無事に帝都へ帰還することだ。そして一番の評価部分は、魔物と遭遇した時の対処だ。良いかい? 魔物の"討伐"ではなく"対処"だよ」
ソルが一息ついたタイミングでモブロスが無理矢理説明を引き継いだ。
「まあまだ君たちは高等学院生だからな! 私たちの指示に従って動いていれば何も心配することはないぞ!」
モブロスの態度に辟易しながらも、ソルは話を続ける。
「……次に探索中の事について説明をするよ。まず、魔力拡散による魔物の探知は各自で行い、発見時は報告すること。これは絶対に忘れないようにね。ポジションについては、サキト君、君は確か身体強化が得意だったよね?」
「はいッス」
「中々の強化練度だと聞いているよ。しかし知っての通りだとは思うが、中型種以上の魔物は強固な外殻を有している上に、強力な呪いもある。そうなってくると接近戦は非常にハイリスクであるから、君の役目は前線での陽動になる」
「了解ッス」
続いてソルはアイラを見やる。
「その次にアイラ君、君は混合魔法を得意としているらしいね?」
「はい。特に風と他との組み合わせが得意です」
「確か既に上級魔法を三つも修得しているとか。実に優秀なことだね。しかし使い所を間違えれば奴らの餌になるだけだというのは知っているよね?」
ソルの問いにアイラが戦闘学の授業で習ったことを思いだしながら答える。
「"魔力を捕食する口や、魔法が分解されてしまう牙や爪などのような特殊部位のある側に撃てば魔力の無駄遣いになってしまう"ですよね?」
「その通り。君にはしっかりと敵の体に攻撃を当ててもらわないといけないから後衛をしてもらおうと思う」
「了解です」
アイラの了解を確認したソルは次にソフィアへと目を移した。
「ソフィア様は確か魔法は治癒特化で、風の精霊の魔力を銃から撃ち出すことで攻撃を繰り出す精霊使いで……したよね?」
「は、はい。そうです」
普段であればソルのような兵士がソフィアに対してこんな中途半端な敬語を言えば不敬にあたる。
しかし今は上司と部下のような状態であるからと、ソフィアから敬語をやめるようにお願いして、なんとかこの段階まできた状態なのだ。
どうするのが正解なのかわからないようで、頻りに眼鏡のブリッジを押し上げながら汗を流している。
「精霊の放つ魔力は魔物に捕食されないうえに、より効果的になった昇華された魔力です。なので、本来なら外殻が硬く、通常の魔法でも物理攻撃でも倒せないというような魔物に対しても、立ち向かう事ができる場合もあります」
頷きながら話を聞くソフィアに対してソルは話を続ける。
「そしてソフィア様は治癒魔法の名手であると聞き及んでいます。誰かが傷を負った際や、呪いを受けた際にその対応にも回っていただきたいので今回は遊撃をお願いします。自分もフォローに回るために遊撃を勤めさせていただきます」
「はい。わかりました」
結局敬語になってしまっているソルであるが、ソフィアは気にせず返事を返した。
すると、夜の静かに澄んだ空気を騒々しい声が引き裂く。
「そしてこの私モブロス・ルナス・エスロイドが! 無属性最上級魔法『ラウガの防壁』をもって君たちを守ってあげようではないか!」
三日間の旅の中で、幾度となく聞かされた言葉だ。
アイラがうんざりとした様子で口を開く。
「『上級以下の全ての攻撃魔法を防ぎきるこの防壁の前にはどんな魔物も無力』……でしたっけ?」
「その通りだともアイラ君! この私の防御を突破したければ、大型種の魔物でも連れてくるのだな!」
高笑いを始めたモブロスに対してソルもまたうんざりとした様子で言葉を返した。
「大型種なんて来た日には、こんな少数のパーティなんかすぐに壊滅しますよ……」
その言葉にソフィアが続く。
「正直私……中型種相手でも勝てるのか不安です……」
「ソフィア様の魔力銃とアイラ君の上級魔法がしっかりと魔物を捉えれば十分に倒せると思いますよ。今回は自分たちもついておりますから、ご安心ください」
「……はい。ありがとうございます」
相も変わらず自分の魔法の優位性を主張するモブロスの演説にサキトが犠牲となった後、一同は順番に見張りをしつつ睡眠をとるのであった。
余談ではあるが、モブロスは朝まで寝ていたのだった。
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