第11話 クリスマス・イブのディナーへの招待

日曜日の6時、俺は赤白2本のワインとケーキを持って未希の部屋を訪ねた。ダイニングキッチンのテーブルにはすでに料理が何皿か並んでいた。


「今日はフランス料理にしてみました。フルコースとはいかないのですが、ホテルで腕が上がったか食べてみてください」


持ってきた赤ワインをそれぞれのグラスに注いで乾杯をする。二人でお酒を飲めるようになったとしみじみ思う。年が経ったということだ。未希と出会ってもう丸4年になる。


まずはアペタイザーから食べてみる。洒落た味付けだ。未希も食べている。


「おいしい、彼の指導か?」


「そうですが」


「ごめん、また、思い出させることを言ってしまって」


「気にしないでください。もう私は自分の過去を客観的にみられるようになっていますから」


「そうか、未希も大人になっていたんだな。俺は未希をまだ高校生としか思っていないのかもしれない。未希にいろいろ偉そうなことを言っているが、俺の方が未希を大人の女性としてみていないのかもしれない」


食べ終わると今度はコンソメスープを皿に注いでくれる。


「味付けに深みがある。学校に行っていた時よりも格段においしい」


「彼の料理はもっとおいしいんです。だから若くしてチーフになっていました。私はあの領域に達することはできないと思いました」


「料理も芸術も仕事も才能があるかどうかが重要だ。持って生まれた天性には努力してもかなわないところがある。俺は人付き合いが下手だと思っていたが、意外とうまくできることが分かった。だから次長になれたと思っている。何事もやってみないと才能があるかどうかなんて分からない」


「私は彼ほどの才能がないのが分かったので、今の社員食堂の仕事を選びました」


「それが良かったかもしれない、未希には決断力があるから感心する。俺は優柔不断なところがある。気配りのし過ぎかな。A型の特徴だ」


「山内さんはA型ですか、私はO型です」


「やっぱりそうか。俺は血液型による性格は誰にでも当てはまるとは言わないが、そういう傾向はあると思っている。O型は決断力がある。だからリーダーシップがとれる」


「私にはリーダーシップなんてとても」


「B型は芸術家タイプで創造力、企画力が優れていると思う。でも気まぐれで自分本位で気配りができない。これは会社での俺の経験からだけど」


「当たっているかもしれません。彼はB型でした。料理人としては才能がありましたが、気まぐれなところがあって、人の気持ちなど考えないところもありました」


「仕事をするなら、上司と部下はA型とB型、O型とA型、A型とA型の組み合わせが向いていると思う。言って悪いが、B型とO型は合わないと思う。気配りがどちらもできないから」


「夫婦もそうかもしれません。B型とO型は合いませんでした。A型は誰とでも合うんですか?」


「A型は几帳面で気配りができる。だから誰とでもなんとかやっていける。A型にはA型が無難で一番いいのかもしれないが、面白みがない。A型とB型、A型とO型がお互いを補い合って、良いと思う」


「私たちはいい組み合せなのですか?」


「そう思いたいが、信じる、信じないは未希の自由だ」


メインはフィレステーキだった。ソースを工夫したと言った。ソースはすでにできていて、肉を焼くだけになっていた。


「柔らかくておいしい。ソースも良くできている。赤ワインと良く合う。料理が上手くなって、調理師を勧めてよかった。仕事でも家庭でも役に立つ」


「この仕事は食べることに困らないのに気が付きました。職場では賄いがあるし、残り物も貰って来られる。食費が安上がりです。職場に慣れてきたので、夕食は自炊を始めました。ひとり分作るのも二人分作るのも手数は同じです。帰りに夕食を食べに来ませんか?」


「未希のこんなおいしい料理が食べられるのなら喜んで来たいけど、俺の帰りは遅い、早くて8時頃だ。迷惑がかかる」


「私も帰って一休みしてから作るので、そのくらいの時間の方が、余裕があって楽です。お弁当ばかりでは身体によくありませんから」


「できれば甘えたいが、未希の負担も増えるだろうから、1食1000円でどうだろう。まるで食堂のようで気を悪くしないでほしいけど」


「1000円ですか?」


「少ないか?」


「私が初めてここに来た時、山内さんは食事代といって毎日1000円くれましたね。好きなものが買えてとても嬉しかった。それにお釣りもくれて、お財布もくれました。あの財布、今も大切にしています。1000円、喜んでいただきます。それなら気兼ねなく食べてもらえるから」


デザートには俺が下で買ってきたクリスマスケーキを食べた。


「今日は24日でまだ値引きしていなかった。未希が値引きしてもらったケーキを食事代わりに食べたこともあったね」


「昨日のことのようです」


「月日の過ぎるのは早い、一日一日を大切にしないとね」


帰り際、玄関で未希が抱きついて来た。ずっとここにいてほしいと言う意思表示だと分かった。俺は未希を抱き締めてキスをした。ケーキの甘い味がした。メリークリスマス!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る