それでも彼は、勇者だった

エミヤ

学園襲撃編

プロローグ

「――見事だ、勇者よ」

 数百万の魔物を従えし者――魔王は、自身の胸に剣を突き立てた少年に賛辞の言葉を送る。

「魔王に誉めていただけるとは……光栄ですね」

 対して少年――勇者は、顔色一つ変えず、言葉を返した。

「全力で戦ったのは初めてだ。敗北こそしたが、楽しかったぞ」

「僕もですよ、魔王。本気を出したのは生まれて初めてでした」

「ははは、そうか……お前も我と同じか」

 口から青色の血を吐きながらも、魔王は笑みを浮かべる。

「ならば我からの忠告だ、勇者よ」

「……聞きましょう」

「強すぎる力は、時に自身にすら害を及ぼす。そのことをゆめ忘れるな」

「分かりました」

 勇者には、魔王の言葉の意図を読み取ることができなかった。しかし、それが自分の身を案じてのものということは感じられたので、首を縦に振る。

「では、さらばだ勇者よ。またいつかの世界で会おう」

 その言葉を最後に、魔物たちの王は動かなくなった。

「さよなら、魔王」

 ――後に少年は知ることになる。魔王の言葉の意味を。

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