FantasyBaseball

@yoshiyuki-shinguzi

第1話 7月30日

夕闇迫るバスの中、少年は過ぎ行く景色をぼんやりと見つめていた。


輝藤 恭司、投手の彼は三年最後の大会を終え、家路に向かう最中であった。


万年一回戦負けの母校を地区大会決勝まで駒を進め、あと一息、であった。

彼は自分の持てる全てを出して投げた。とはいえ、相手は甲子園常連校であり、全体の力の差は歴然、恭司一人では限界がある。

結果、最終回で点を取られ、決勝敗退となった。仲間達は力投を讃え、感謝を込めて抱き合った。


「あの球がなけりゃなぁ…」


恨みがましく呟いたこの独り言は、自虐に似た感情を思い起こす。

最終回の投球は、油断も物怖じもしなかった。ただいきなり体の感覚が狂い、失投してしまっただけである。もしも、あの時失投しなかったら、などと今更意味の無い問答を続けても埒があかない。

これからは、将来について、考えなくてはならない。子供の頃は、プロ野球選手などという夢を追いかけたが、いつまでもそう言ってはいられない。大学に向けての対策もしなければいけない。準備しなければいけない。分かってはいる、でも、


「勝ちたかったな…」


ただの一つ、あの試合で勝ちたかった。仲間と甲子園に出たかった。でも、終わったものは仕方ない。そう心に言い聞かせた。


降りる停留所まではまだ掛かる、それまでは休もう。


ゆっくりと瞼を閉じて眠りについた。



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