第2話はじめての面接

開店時間から一時間過ぎて、マニュアルを見ながらの仕込みをようやく終える。

 武者震いする膝を叩いて、解錠の魔法を使い入り口の鍵を開けた。

「開店!」

 私の高らかな宣言に続いて入り口の鐘が鳴り、記念すべきお客様第一号がやってきた。 しかしもう不安はない、なぜなら私はーー魔法使いだからだ。



 最終手段がある、ということは時に人の判断を鈍らせ、残酷な結果をもたらすのだということを知った。

 私は魔法使いである。 故に魔法さえ使えば1日くらい一人でもなんとなる、と思ってしまったのが間違いだった。


 今、私の前には阿鼻叫喚の地獄が広がっている。

 喉が渇いたと呻く者があれば、疲れたと座り込む者もいる。 そして子供は泣き叫ぶ。


 罵声を浴びせられながら転移魔法で食事を運び、火魔法でコーヒーを暖める。 応用した風魔法を使えば作業しながら注文を聞くことができる。

 しかし魔法でレジは打てないし、ハンディー(注文を入力する機械)を操作することはできない。 相変わらず魔法は役立たずである。


「早急にアルバイトを雇おう」


 怒って帰り出す客を笑顔で見送り、もう店じまいと看板をしまい込む。

 私には仲間が必要だ。 今日学んだ教訓を胸に刻み私は未来の出会いに思いを馳せた。




 翌日、さっそく一人目の応募者がやってきた。

「よし、君採用!」

 来て早々、アルバイトの面接に来た少女に告げた。

 自己紹介なんて必要ない。 今は猫の手も借りたいくらい人手不足だから、人間で、魔法使いでなければ誰でも即採用だ。 嬉しかろう。

 しかし少女はなぜか申し訳なさそうに瞳を伏せた。

「えーと、他にも面接受けてるので返事は後日でもいいですか?」

「なん、だって」

 これはまずい。 今私が首を縦に降れば、彼女は二度と戻ってこない、そんな予感がする。

 なんとしてでも、どんな手を使っても私はアルバイトを確保しなければいけないのだ。 立派な社会人として。

「鑑定!」

 鑑定魔法が発動し、頭のなかに少女の情報が流れ込んでくる。

 産まれ、違うっ。 名前、違うっ。 スリーサイズ、違うっ。

『悩み』

 これだっ。

 鑑定されたことによって少女ーー百瀬すずかのプライベートが丸裸にされていく。

 百瀬すずか、白浜高校二年生で、勉学優秀な生徒らしいが、家計が厳しいらしく進学費用を稼ぐためにバイトを始めようとしているらしい。 つまり金がない。 これは使える。


「実は今この喫茶店は人手不足のあまり休業せざるおえない状況に追い込まれている」

「はあ、それは大変ですね」

「今なら時給2000円出す」

 他人事のように話を聞いていた百瀬が息を呑んだのが分かった。

 これは落ちたな、もう一息。

「ただし、即決すれば」

「私をここで働かせてくださいっ」

 百瀬は体を前のめりにして叫んだ。 必死である。

 これでやっと喫茶店を開くことができる。

「じゃあ明日朝一からこれる?」

「はいっ、土曜日は学校ないので大丈夫ですっ」

 土曜日、学校。

 不穏な言葉だ。 しかし私にもう不安はない。 なんたって私はアルバイトという心強い味方を得た魔法使いなのだから。

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