第6話 大人の味:えるだー・ぶらっく・うーず

【お酒は、二十歳になってから】


 ある日のバー・ナザリック。

 テーブル席に腰掛ける、仕事上がりのダンディな一人の大人。帰途につく前の一時のこと。


「お父さん、それな~に?」


 お子様は何事にも興味津々。


「これですか、これは僧侶の珈琲モンクス・コーヒーですよ」

「ボクも飲みたい!」


 大人のすることは常に真似てみたい。


「これは大人になってからでないと美味しくはありません。なので、リュートがもっと大きくなってから、一緒に飲むとしましょう」

「え~? 今、飲~み~た~い~の~!」


 駄々っ子攻撃アタックは、常に空回り。大人の伸び代リーチにはまだまだ及ばない。


「さて、それは流石にいけません。リュート、貴方が大人になった時の楽しみが無くなってしまいますからね」

「う~」


 子供に正論は納得できない。さて、次の一手に備えましょうか。


「・・・では、リュートにはカプチーノを」

「はい、承ります」


 エスプレッソにスチームHOTミルクと泡立てたフォームドミルクを加えた、ミルクの割合が多めの、いわゆるミルクコーヒー。

 リュートは、店主マスターから出されたカプチーノを手に取り、一口。


「あちゅい!」

「まだ帰るまでには時間があります。冷ましてから、ゆっくり楽しみますよ」


 親子水入らずの時間をたあいない会話とともに、ゆったりと楽しむセバスとリュート。そんな二人を店主マスターたるピッキーは、こんな静寂とは言えない一時もありと、静かにその会話に耳を傾けながら、グラスを磨く。


 コーヒー + ベネディクティン =モンクス・コーヒー

 ベネディクティンはベネディクト派の修道院で、僧侶によって創製されたリキュール。



 また別のある日のこと。


「コクー小父様、なに飲んでるの?」


 カウンターに腰掛けたコキュートスに尋ねられた声。


「ム、コレハオトナガタシナム飲ミ物。コドモデアルリュートニハマダ早ス過ギル」

「そう、リュートにはまだまだ飲ませられないのが残念だな」


 隣席していたデミウルゴスも、譲らない一線を引く。


「ぶ~! や~だ~!」

「ヤレヤレ、シカタガナイナ。店主マスター、同ジモノデ、酒精ヲ抜イタモノヲ」

「はい、ただいま」


 コキュートスの粋な計らいの意図に気がついたデミウルゴスだけは、笑いながら称賛する。


「はっはっは、それは良かったね」

「うん!」


 グラスを磨いていた手を止め、別の形状のグラスをその手にとり、そのままで良いのかを自問自答し、ある提案をすることにした。


「では、せっかくなので、お二人のお力を拝借して。特別な一杯を作ってはみませんか」

「ムゥ。特別ナトイウコトハ、ドノヨウナ」

「ほほう、それはどういった趣向かね」

「それは・・・」軽くどうするのかを説明する。


 コキュートスは<アイス・ピラー/氷柱>で作り出した氷を、スマイト・フロストバーンによる一撃で氷塊を小粒な氷片クラッシュアイスに変え、グラスの上から降り注ぐように詰める。

 そのグラスを、デミウルゴスはサイフォンの中で悪魔のように黒く、地獄の炎ヘル・フレイムで熱く滾らせた珈琲を、熱々のまま氷片の詰まったグラスに注ぎ込み、一気に冷却する。


「おまたせしました。【ノンアルコール】・ブラック・ルシアン(=特製の【アイス・コーヒー】)になります」


 デミウルゴスは、酒精を抜いたブラック・ルシアン=アイス・コーヒーのグラスがリュートの手が届くように、自分の膝の上に座らせ、自分の分のブラック・ルシアンはその長い手で、リュートの手が届かない場所でキープしている。


「わ~い!」


 一口、二口・・・。


m(`Д´)/にがぁ~いぃU~!」


 期待に胸を躍らせる天使のような笑顔が、現実を知って一転。純粋に苦みばしった顔に。恋の甘さを知るにはまだ早く、お子様はほろ苦い経験を積んだのだった。


「甘クシヨウ」とコキュートスがシロップを投入。


 ちょっぴり飲みやすくなったものの、まだまだ。


「まだ苦そうだね」とデミウルゴスがミルクを投入。

「では、さらに」と店主マスターはバニラアイスをコーヒーの上へ浮かべると同時に、キラッキラな笑顔が浮かび上がった。

「んっく、んっく、甘くておいし~!」


 ウォッカ+アイス・コーヒー =ブラック・ルシアン

 ブラック・ルシアン (Black russian) とは、冷たいタイプのロングドリンクに分類される、ウォッカをベースとしたコーヒー風味のカクテルである。

 酒精ウォッカ抜きであるならば、アイス・コーヒー+バニラアイス =コーヒー・フロート。



 また別のある日のこと。

 出来る女キャリアウーマンが並び立ちコーヒーを嗜む様子は、一幅の絵画の様な光景と言えるだろう。・・・だが、それも黙っていられたらのお話。


「だめっ! ダメダメッ! これは駄目なの!」

「だ~めっす! これだけは駄目っす!」


 リュートに対し、ひたすら甘い対応を取るナーベラルとルプスレギナの二人を持ってして、絶対阻止の構えで声を荒らげさせる。


「ぶ~!」

「うっ!」ブ~たれたリュートの表情に胸を撃たれたナーベラル。くじけそう。

「うぅ~、ぅわうっ!」そんな表情されても・・・駄目っす! とついうっかり吠えたルプスレギナ。


 高々と掲げられるカップからは、激しく動かされても一滴の雫も溢れないところはさすがだ。

 流石にそのままでは危ういからか、助け舟が出された。


「あらあら。じゃあ、ボクがカフェ・オ・レを作って飲ませてあげる」

「わぁ~い!」


 名乗りを上げたユリのお膝元へと駆け寄る、現金なリュート。


店主マスター。カフェ・オ・レをセットで」

「はい、おまたせしました」


 展開を予測してか、そうそうに準備万端。

 熱々のコーヒーが半ばまで満たされた陶器のボウルと、程よく暖められた同量のミルク。ちょっぴり大きめのマグ。それに、砂糖壺とお玉レードル

 適度に砂糖を溶かし、ミルクを注ぎ入れながら軽くレードルで撹拌。それをリュートにはまだちょっぴり大きなマグに注ぎ入れる。


「さぁ、出来上がり」


 一口、「あま~い!」程よい温かさにまでなった残りを一息に飲み干すと、「おかわり~!」


「はい、まだあるからね」


 たっぷりと満たされたカフェ・オ・レ・ボウルの中身は、まだまだ満たされている。あ~ん、とケーキを食べさせてもらいながら、カフェ・オ・レをまた一口。


 ナーベラルとルプスレギナが飲んでいたもの。

 コーヒー + ストレガ =魔女のウィッチズ・コーヒー

 魔女ストレガを指すイタリア語。Strega、ストレーガは、イタリア産のリキュールの銘柄。液色は黄色、アルコール度数は40度。製造企業の社名でもある。

 そのため、英語圏ではこのリキュールを英語で【魔女】を意味する「Witchウィッチ」と呼ぶ。



 シズΔは、口元を戦慄わななかせ、困惑している。


「あら、コーヒー風味は失敗だったかしら」

「・・・・・・・・・・・・苦い」


 そのお隣では。


 お婆様ばっかり、ずるいです!

 私ももう【淑女れでぃ】なんだから、ちょっとぐらい食べさせてくれても良いと思うんですけど!


「だぁめ、もっとぉ大きくなってからねぇ」


 て言いながら、独りでちゅるちゅる食べちゃったの!

 そのあと、酔って寝ちゃいましたの! byグリンダ


 えるだー大人なぶらっくコーヒーうーずゼリー



ママソリュシャン、飲んでた。おいし~モノ、ボクも欲しい!」

「だ~め、これはママ専用だから」


 コーヒー・リキュール+ブランデー =ダーティー・マザー



 そんな様子を、クスクスと笑いながら眺めているアウラの手元には、コピ・ルアク風の豆から抽出されたカフェ・ラテ。相対するマーレは、読書に夢中。傍らには団栗ドングリから抽出したドングリ・コーヒーに、生クリームがホイップされたウィンナ・コーヒー。相席しているシャルティアのもとには、ネルドリップのブラック・コーヒー。



 また別のとある昔日。


 セバスは急ぎ、バー・ナザリックの扉を開けた。

 店主マスターから連絡を受けたからだ。


 セバスはバー・ナザリックの扉を慌てず静かに開けると、直に辺りを見渡し、ゆらゆらと揺れるツアレを見つけ、その席へ駆け寄る。


「ツアレ、大丈夫ですか?」

「うふふ、セ・バ・ス・さ・ま。うふふ」


 セバスを見詰め、ふらりと立ち上がるツアレ。


「・・・ツアレ?」

「うふふふふ、セバス様がひと~り、ふた~り、たぁ~くさん? ふふ、うふふふふ」


 セバスの顔を数えるように、右手が左右に揺れた後、クタリと手の力が抜け、セバスの胸に突っ伏してしまった。


「ツアレ、ツアレ?」

「どうやら眠ってしまっているようですね」

「一体、何が・・・」

「ツアレさんは、不安なのだと」

「何がそんなに、不安だと・・・」


 店主マスターは、バーテンダーとして気持ちを橋渡しできる事の喜びを感じながら、言葉を紡ぐ。


「セバス様。我々ナザリックの者達は、アインズ様と共に在ることが出来るだけで、常に満たされています。ですが、ツアレさんには、セバス様の側に居られないことが不安なのではないでしょうか」

「ですが、我々は・・・」

「それは、解っておられると思われます。ですので、今宵だけでも目が覚められるまで共にいて差し上げてはいかがでしょう」

「・・・そうですね。この後は、余程のことがなければ共に居ることぐらいは・・・」

「では、そのようにアインズ様には、ご連絡しておきます」

「お願いできますか」

「はい。では、ごゆっくり」


 両手の塞がったセバスに代わって扉を開け、腰を深く曲げるお辞儀で送り出す。扉の外に【CLOSE】の看板を下げ、静かに扉を締めた。


「さて、これで上手く行くと良いのですが」

「上手くいきそうですね。わん」


 いつの間にか現れたペストーニャが言葉を繋ぐ。


「ええ。ですが、あのセバス様ですから」

「そうですね。朴念仁ではないにしろ、セバス様は・・・」


 どちらも応援する気持ちが強く、なにかきっかけさえ在れば、後は上手くいくと信じている。


「とりあえず、ツアレさんには魔法薬ポーションを一服盛ってみたんですけど」

「あら、わたくし支援魔法バフをそれとなく、ワン」


 どちらともなく、多種多重に魔法が掛けられた場合、同一の術者からの魔法でない場合は、もれなく暴走する可能性が高いという危険性に思い当たった。


「「お互いに聞かなかったことにしましょう」ワン」



 そして、難攻不落と歌われるセバスは、ついに陥落し、暴走しバグったツアレは・・・固有ユニークスキル:夫落幼妻ふらくようさいを習得した! ・・・らしい! 嘘々


 ちなみに、ツアレ(20才)はカルーア・ミルク(HOT)一杯でヘベレケ。不安に思う気持ちと、様々な緊張と、直前までメイド長に相談に乗ってもらっているうち、気持ちが落ち着くようにと店主から差し伸べられた一杯で気持ちのタガゆるんだようだ。

 色々と満たされたその後は、そうそう酔いつぶれることもなかったとか。


 カルーア・コーヒー・リキュール+(HOT or ICE)ミルク =カルーア・ミルク


 ちなみに、混入された魔法薬ポーションは、一度に体内へ吸収しやすくするために調整されている。

 そのため、酒精アルコールよりも魔力による酔いが回りやすくなっていた。・・・のかもしれない。という仮説が立てられている。



【お酒は、二十歳になってから】

【乗るなら飲むな、飲むなら乗るな】

【飲酒運転は、【自転車】にも適応されます】


 飲酒後の【スポーツ】飲料は、【急性アルコール中毒】となりやすく、命に関わるほど【危険】です。水、或いはお茶を飲むことをおすすめします。

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