なざりっく魅食《びしょく》鬼行?

トータス

第1話 肴:大鬼の脳髄

 歴史あるリ・エスティーゼ王国には、大鬼オーガまつわるコトワザが幾つかある。


 大鬼オーガの脳味噌 =苦労した割に、全然実入りが少ない事。

 大鬼オーガの頭蓋は途轍もなく分厚く、硬い。ドワーフ達が総出で大金鎚で叩き割ろうとしても、決して割れる事がないと言い伝えられる程には硬い。なので、大昔には金床の代わりにされていたと言い伝えられる程の硬さと丈夫さを誇る。

 大鬼オーガの頭突きは鋼鉄の大剣グレートソードをも拉げさせる。今では魔法全盛期で廃れたが、かつてはその頭突きで城門すら突破した事から、破城鎚の先頭に付けるといった事もなされたという。


 他にも、小鬼ゴブリンの兜を侮るな。

=時として、兜を被った小鬼ゴブリンの群れが冒険者達を一方的に蹂躙した時は、その兜は大鬼オーガの頭蓋だったのだろうと噂される。

 エンリ砦からの情報では。実際、小鬼ゴブリンキングの兜は、大鬼オーガの頭蓋を被る事が習わしとなっているとか。

 人間が何故、その超硬質な頭蓋を兜として使用しないのか。それは、小鬼ゴブリンと誤認された事による不幸な事故が多発した為。あとは、サイズが非常に限られる為、小鬼ゴブリン並みの頭部の持ち主しか、着用不能だったためと云われている。


 ちなみに、自然死した大鬼オーガの頭蓋は大体、他の大鬼オーガが食べてしまって存在しない。


 実際に、力自慢のガガーランが大鬼オーガを倒す時は、頭を狙うのは避けると言う。

 狙うとしても、横から側頭部を刺し潰す様にしないと、先ず潰れないと言い放つ。


 だが、漆黒の戦士モモンにかかれば、唐竹割りに真っ二つにされると言うのだから、その凄さが判ると言うもの。




 さて、話はそれたが、本題はこれから。

 エ・ランテルでも屈指の食通、パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイア曰く。


「ぷひ~、エ・ランテル近郊で、最も美味グルメな食材は大鬼オーガの脳髄とも言われる【オグル・ノア】が最も高価で希少な食材である。ぷひ~」と明言している。


 それを聞いた者は、あんなモノはとても食べられるモノではない。と云われる事の方が多いが、知る者ぞ知る超高級食材として、極々稀に流通している。長い間、エ・ランテルの食料関連の流通を一手に掴んでいるバルド・ロフーレですら、耳にしたのは数えるほど、実物を目にする事でさえ至難の業と言わしめる。過去に一度だけ、口に出来た時の味は、味わいは濃厚クリーミーで比較できる物はない。と言わしめた。

 口にして暫くの間は、何を食べても不味いと感じられたとか。


 ちなみに、パナソレイは一口にして、やせ細ったと言い伝えられている。

 現在のパナソレイは、常に痩せている。



 そんな超高級食材ではあるが、沙羅曼荼羅サラマンダラ鍛冶長は晩酌の肴に、塩炒りロースト大鬼の脳髄オグル・ノアドンブリに山盛りにして一晩で食すと言う。


 レアで食すのも良いと言う話ではあるが、何分にも非常に手間が掛り過ぎる。

 割って中身を取り出す際、ほぼ中身ごとグチャリと潰してしまう事が多々ある為、無事に取り出せるかは、また別の話らしい。

 潰れてしまったソレの使い道は、ハイドネリウム・ピッキーが潰れたソレから欠片を除き、布巾で絞り、髄液を取り出しておいて、様々な用途に用いられる。


 主に、デミウルゴスが工作の仕上げに使う為に取って置いてほしいと要望されるという。

 作品にその髄液を塗る事で、艶が増し、光沢が映え、物持ちが良くなるという。






 ちなみに、勘違いして実際に大鬼オーガを狩って脳を食そうとした豪の者は・・・腹を壊したらしい。取り出すまでに時間が掛り過ぎ、腐敗していた模様。


 実物は、超硬質の殻に覆われた木の実。

 オグルノア胡桃 =フランス語

 髄液 =胡桃油クルミオイル


 クルミの実って、そう見ようと思えば、そう見えない事もないかなと。

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