第99話、タケ、宗っちに説教される。

 王都の外からM1の砲撃音が聞こえる。ついに始まったか。

 デルタはターゲットがいるであろう侯爵邸へと近づいた。門の外には守衛がいる。このM16自動小銃であれば、守衛を皆殺しにするのは容易い。だが、今後の作戦を考えると、無差別な殺傷は控えなければならない。

 デルタはそう考えると、壁に沿って裏側へ回り込んだ。


「ふっ、さすが侯爵家だな。植木さえも切りそろえられ、壁も見事だ」


 サラムンドでは、たいして手柄がなかったからな。だが、ここザイアークでは期待できる。革命を成し遂げた暁には、ここを俺の屋敷にしよう。隈無く屋敷の周辺を探り、潜り込めそうな場所を見つけた。


「よし、ここなら気づかれないように連れ出せるな」


 裏側に、鍵は掛かっているが、守衛のいない門を見つけた。俺は、そこの錠を銃で破壊する。


「ふっ、呆気ないものだ」


 簡単に錠は壊れ、俺は中に侵入した。植林されている木々に、身を隠しながら中を進む。芝生もよく手入れされてるな。良い感じだ。

 屋敷の窓からは、まばらに蝋燭の明かりが見える。ターゲットはどこだ……。

 屋敷を壁伝いに歩く。耳をすまし、中の様子を窺いながら。すると、一つの部屋から物音がした。俺はこっそり中を覗き込む。


「銀髪の女――ターゲットだ」


 デルタは気づかれないように、こっそりと、その部屋から3つ離れた部屋の窓を開けた。鍵は掛かっていなかった。素早く中へ侵入すると、ドアに近づく。


「よし、足音はしない。いまだッ」


 中腰で廊下に飛び出し銃を構える。左右を目視、よし、誰もいねぇ。そのまま、ターゲットの部屋の前に移動する。ドアに耳を押しつけ中の様子を確認。

 人の気配はするな。よし、行くか!


 勢いよくドアを開けると、中へ飛び込んだ。銃を構えて、ターゲットを探す。

 ベッドの上の枕に、腰を預けている女を見つけた。蝋燭に照らされる女は自分の好みだ。思わず舌なめずりする。そして声をかけた。


「ヒュー。こんばんはお嬢さん」


 ふっ、驚いてるな。当然だ。見知らぬ男が侵入すりゃ誰だってそうさ。俺が近づくと、女は顔を引きつらせ後ずさる。ベッドの奥の暗がりに逃げようとするが、逃しはしねぇ。この屋敷と一緒に、後でコイツもいただくとしよう。

 俺は銃を構えたまま、ゆっくり近づいた。すると――。

 ヒュッ。と風斬り音がなった。切られたッ。俺は慌てて飛び退いた。

 切られたのはどこだ、腕か、足か、違うな。そして腹に目をやった時、ようやく気づいた。ボトッ、と床に何かが落ちる。それを目で追う。

 そこには、血に濡れた俺の内蔵があった。


「いてぇぇぇぇぇ! クソあまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 俺は残る力で銃を構えようと思った矢先、また風斬り音がした。

 俺の意識はここで切れた――。



*     *     *


「よう、宗っち。なんでそんなにイキってんだ? 俺がなにかしたのか?」


 漆黒の蛇に捕まった宗っちは、恨みのこもった視線を俺に向けていた。

 他のヤツらは、すでに戦意喪失しているようでグッタリしている。


「これを外せ! 俺にはやらなければいけないことがあるんだ!」


 砂の地面に転がされながら言うセリフかねぇ。何だか拍子抜けしちゃうぜ。

 俺は宗っちを見下ろしながら尚も言う。


「いやさ、外しても良いけど……また攻撃すんだろ?」


「うるさいうるさい! だいたい何でおまえなんだ! 素人配信者の癖に……魔法も使えて、いい女にも囲まれて! だいたい、リスナーにも敬意を持たない癖に。デカい顔しやがって……。下手くそな動画をアップして、異世界だからって再生回数稼いでいい気になってぇ。ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。何もかも気に入らねぇ。何でおまえなんだ。なんで、なんでだよ! 俺がどれだけ苦労して、寝ずに試行錯誤を繰り返してあの座まで上り詰めたと思ってんだ! どれだけリスナーが不快にならないように気を配ったと思ってんだ! リスナーが俺の言葉を理解しやすいように時間を掛けて字幕まで入れて、動画の繋ぎが不自然にならないように苦労して編集してぇ、再生したときに音声が聞き取りやすいように調整して、BGMだってそうさ、バックで流れる音の一つにさえも、視聴者の事を考えてやっとの思いで作り込んでるんだ。俺は――なのに、それなのに、おまえの動画はなんだ! 禄に声も聞こえねぇ。かと思えば、一気に大音量になるし。見てる方の身になって考えたことあんのか! カメラワークだってそうだ! グラグラ手ぶれしまくって、あんなもの見ている方がツラいって分かってんのかよ! そこいらの学生の保護者だって運動会でまともな動画撮るぞ! それなのに、そんな動画なのに――なんでおまえなんだよ!」


 あちゃ、痛いこと言ってくれるわ。さすがプロだわ。ぐうの音もでねぇ。

 そんなこと考えたこともねぇな。ただ動画撮って、ネットにアップして、馬鹿やってれば再生回数稼げるって思ってたからな。あったまいてぇな。おい。

 もしかして、俺の異世界動画の再生数が上がって嫉妬してんのか?


「なぁ、宗っち」


 俺は、宗っちを見下ろすのを止めた。さすがに失礼だからな。で、地面に腰を下ろして真剣な顔で宗っちに声をかけるが、


「うるさい! おまえなんかが気安く呼ぶな!」


 いや、そりゃそうだけどさ。俺だって三流配信者の自覚はあるし。けど、どうしろっていうんだ。俺はザイアークを守るために戦っただけだぜ。


「もしかして、俺に嫉妬してんの? 宗っち」


 あっ、思いっきり顔が歪んだ。やべぇ。さらに怒らせたか?


「ざけるな! 何で僕がおまえなんかに嫉妬しないといけないんだ! そんなダサい格好で、むさい頭して、ヒゲだってそうだ! なんだよそのヒゲは! カメラの前に立つ格好じゃねぇだろ! おまえはダサいんだよ! 格好悪いんだよ! キモいんだよ!」


「だから何だって言うんです! さっきからあなた、見た目ばかりじゃないですか。映りがどう、格好がどう。音がどう。そこに心はあるんですか!」


 思わず声のした方を振り向くと、そこにはサラフィナと麗華さんが立っていた。

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