第87話、タケ、LIVE配信をする。
俺が、剛人さんの動画サイトに動画をアップロードしてから一月が経過した。
「すごいですねぇ。もう500万再生いってますよ」
「う、うん。そんなに椅子をくっつけなくても見えるでしょ。麗華さん」
「ふふっ、タケさん恥ずかしいんですか?」
「いえっ、恥ずかしいというか、温かいというか……」
うはっ。やべぇ。麗華さん積極的すぎ。太腿当たってるし。また今晩も××しねぇと眠れなくなるじゃん。タオル洗うの面倒なんだぜ!
剛人さんと連絡が取れてからというもの、麗華さんはよく俺の部屋にくる。
女性経験のない俺としては、心ここにあらずだ。麗華さんは気にしていないように見えるけどね。
「ほらほら、ここ見てくださいよ。金髪の子、カッコいいですって」
「うん、大人気だね」
麗華さんは容姿端麗だから、かなり人気がある。だが、俺へのコメントはむさ苦しい、その髪なんとかしろ。そんなのばかりだ。泣くぞごらぁ!
あの後、テストサーバーを使って、剛人さんともチャットした。麗華さんが打ち込む文字の、一言、一言に剛人さんの喜びようが伝わってきた。そして、剛人さんが運営する会社。パラパラ動画で初めてのライブ配信を、これから行うのだ。
「準備はできたみたいだね」
「私も出演していいんでしょうか?」
少し不安そうな面持ちで言ってるけど、麗華さんの動画は最低でも500万人に見られている。当然、WooTobeにも知られたと思っていい。今更だ。
「うん、大丈夫。何かあったら俺が守るから」
うわぁ、恥ずかしい。ちょっとだけ格好付けたけど、赤面するわ。これから配信だって言うのに、熱よ飛んでいけ!
「はい!」
麗華さんも途轍もなく、期待した目で見てくれてるし。あぁ、一気に顔が火照ったわ。剛人さんから「あれ、タケくん日に焼けたかい?」とか、言われそうだ。
そして、ノーパソの時間が指定時間をすぎた。
「やぁ、いつも動画を見てくれてありがとう。みんな元気だったか?」
ゲスト:元気だったかじゃないよ。タケちゃん。今まで何しとってん。
ゲスト:お姉さん、ずっと待ってたんだからね。
ゲスト:おっ、相変わらずむさい髪形だな
ゲスト:タケなんてどうでもいい。そこのパツキンのねぇちゃん誰だよ。紹介して!いや、結婚して!
タカト:君にはやらん。
ゲスト:なになに、タカトさんとどういう関係?
ゲスト:うっせ、おまえに聞いてねぇよ。タカト
ゲスト:ねぇ、名前教えて! な・ま・え
ゲスト:まったく、男共はどいつもこいつも。お姉さんはタケちゃんの味方だからね。
ゲスト:おいおい、タケちゃんの話が進まねぇじゃん
ゲスト:だからぁぁぁぁぁ、パツキンの名前! 彼氏いるの?
なんだ、これ……。
誰のチャンネルだよ。ここ。
「いやぁ、ごめん。みんな。今から洗いざらい全部話すよ。WooTobeによって異世界へ飛ばされた俺と、ここにいるタカトさんの妹さんの麗華さんの事を」
ゲスト:えええぇぇぇぇ、タカトさんの妹?
ゲスト:マジ? タクシーに乗って消えたっていう、あれ。
ゲスト:どんな巡り合わせだよ。
ゲスト:お兄さん! 妹さんをください!
ゲスト:いや、だから話が進まないだろ。
ゲスト:シャラップ!
タカト:君にはやらんと言っている。
ゲスト:はよぉ、続き、はよぉ。
全く笑っちゃうぜ。チャットの中のメンツは前と変わらない。この感じ、久しぶりだ。郷愁にも似た感覚にとらわれる。帰ってきたんだな。ここへ。
「俺が、WooTobeの運営によってここへ飛ばされたのは、皆も知ってるよな。そして、また、隣にいる麗華さんも、WooTobe の謀略によってこの地にきた一人だ」
ゲスト:えっ。
ゲスト:なんで?
ゲスト:だって、それって犯罪じゃ?
ゲスト:タケちゃん、ここで話していい内容なの?
ゲスト:お姉さん、心配だわ。暗殺とかされない? 大丈夫?
ゲスト:そんな事あるのか?
ゲスト:あるも何も、本人が言ってるんだから。
ゲスト:落ち着けよ。まずタケちゃんの話を聞こうぜ。
だよな。大騒ぎになるのは分かってる。それでも、剛人さんと話して公表する事に決めたんだ。麗華さんの同意も得てるし。って近いです。麗華さん。
「これから話す事は事実だ。プライバシーを考慮した上で、剛人さん、麗華さんの承諾を得て――今回公表することに決めた。事の起こりは数年前。二人のご両親が、謎の変死を遂げたことから端を発する。もっとも、警察は自殺と断定したみたいだけどな。そんな事あり得ないと、何度も、再捜査を頼んでも聞き入れてもらえなかったそうだ」
ゲスト:まぁ、警察が捜査したんなら自殺じゃないのか?
ゲスト:おいっ、自粛しろ。
ゲスト:うーん、警察の捜査もいい加減だからな。
ゲスト:やっぱマズいんじゃないのか。ここで話す事じゃ……。
ゲスト:司法の悪口はな――。
ゲスト:いいから続きを聞こうぜ。
まぁ、そうなるよな。国家権力の捜査を真っ向から否定してんだ。でも、そんな事は端から承知。もう後戻りはできねぇ。
「で、剛人さんたちは自力で犯人を捜し始めた。で、ようやく手がかりを掴んだ矢先――麗華さんは異世界へ飛ばされたんだ。タクシーの運転手さんは、到着してすぐにゴブリンに襲われ亡くなったそうだ。一人残された麗華さんは、紙一重で冒険者に助けられた」
ゲスト:さっすがぁ。冒険者やるじゃん。
ゲスト:最初の頃のタケちゃんとは大違いだな。
ゲスト:でも、麗華ちゃんを送った証拠はないんだろ?
ゲスト:タケちゃんを送った先に飛ばされたことが証拠とか。
ゲスト:状況証拠だけじゃな。
雑音は無視でいいな。で、冒険者の件も掘り下げなくてもいいか。
俺と同じ異世界へ飛ばした事が証拠じゃねぇか。なに言ってんだみんな。世界中探しても、そんな事できる組織は一つしかねぇだろうに。おっと、落ち着こう。隣で麗華さんが見ているしな。
「で、運良く俺と合流したってわけだ。麗華さんの戦闘シーンは皆も見てくれたんだろ?」
ゲスト:すげーかっこよかった。
ゲスト:お姉さんとしてはタケちゃんを応援したいけど、タケちゃんの初期よりも頼もしい感じね。
ゲスト:その足に踏まれてぇ。
ゲスト:羨ましいぜ。俺も異世界へ行きてぇ。
「でだ、ここからが本題に入るぜ」
ゲスト:えっ?
ゲスト:なんでここから?
ゲスト:メインディッシュは最後かよ。
ゲスト:おいおい、もっとヤバい話じゃねぇだろうな。勘弁してくれよ。こっちは明日も仕事なんだぜ。
ゲスト:うーん、聞いていいのか、ダメなのか。
ゲスト:タケちゃんが真面目に話してんだから、とりあえず聞こうぜ。
ゲスト:刺激少なめでよろ。
刺激少なめね……どうだかね。世界中が大騒ぎするネタだからな。でも、もう引き返せねぇ。やるって決めたからな!
「異世界の国は封建制度なんだが、短期間で民主化を成し遂げた国がある。ここからは、この国の陛下に聞いた話だ。その国は革命軍に攻め込まれ、呆気なく落ちたそうだ。攻城兵器には、箱形の乗り物にデカい筒が積まれていたらしい」
ゲスト:良かったじゃん。民主主義なんだろ?
ゲスト:ん? なぜこれが本題?
ゲスト:封建制度は衰退する運命だろ。
ゲスト:えっ、箱形に筒――ウソだろ。
ゲスト:何か気づいたのか?
ははっ。感のいい人はいるよな。俺も、退屈しのぎに王城へ行かなければ、知らなかった情報だ。悪い予感が当たったって凹んだもんだぜ。
「そう。気づいた人も居るようだから端的に話す。戦車だよ。民主化の革命軍が使用したのは紛れもない――戦車だ。他にも、煙を吐く棒も使ってたって話だ。その棒の近くに居た兵士は、何もできずに全滅した。こっからは言わなくても分かるよな?」
ゲスト:マジかよ。
ゲスト:WooTobeが異世界で戦争か?
ゲスト:やっぱ、聞くんじゃなかった。
ゲスト:銃か。それも全滅させる威力ね……機関銃かショットガンか。
ゲスト:おしっこちびりそう。
ゲスト:それ国際問題に発展するんじゃないのか?
国際問題ね。望むところだ。悪行を働くWooTobeに圧力を掛けるのは、こっちからだけじゃねぇ。こっちでいくらつぶしても、次々と送り込まれたら切りがねぇからな。剛人さんを社会的に抹殺しようとしたように――こっちも仕掛ける。
「でだ、民主化されて一月足らずで、俺が住むザイアーク王国にまでちょっかいをかけ始めやがった」
ゲスト:ん? タケちゃんの所にも戦車がきたの?
ゲスト:どっちが勝った?
ゲスト:タケちゃんは民主化に反対なの?
ゲスト:いいじゃん民主化。平和が一番だよ。
ゲスト:そうそう、封建制度なんて金持ちだけが優遇されるんだから。
ゲスト:いや、それ今の日本も同じ。
ゲスト:そんな事はねぇべ。
ははっ、やっぱ日本人だ。この前までの俺と一緒だな。俺も、この世界のヤツらだけで民主化を成し遂げたのなら文句は言わねぇ。けど、アイツらがやっているのは侵略だ。ぜってぇ裏があるに決まってる。
「いや。まだこっちに戦車は来てねぇ。でも銃を持った工作員には会ったよ。発砲されて、捕り逃がしたけどな」
ゲスト:まじかよ。タケちゃんも会ったってんならガチなのか?
ゲスト:ちょっと信じがたいね。
ゲスト:タケちゃんを信じたいけど……ねぇ。
ゲスト:ウソくせぇ。
あちゃぁ。信じられないか……。やっぱ動画とか、証拠ねぇと無理かな。
しばらく様子見か。くそっ。もどかしいぜ。
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