WooTober異世界に立つ

石の森は近所です。

第1話WooTober異世界へ行く

 残暑厳しいこの季節、俺は大阪城に来ていた。観光客で賑わう場所を、ノートパソコンを持って歩く。頬を伝う汗を袖で拭いながら、五年前の出来事を思い出す。




「おい、長田おさだ。社長室にこい」


 直属の上司である課長に呼び出され、俺は社長室に向かった。俺は最初、異動か何かの話だと思ってた。だが、入室した俺に待ち受けたのは――。


「君が長田君かね。君の話は佐竹君から聞いてるよ。何でも入力が早くて優秀なんだって」


「いえ、それ程でも――」


 就職氷河期の昨今、何とか入社できた会社は中堅の商社だった。俺はそこの業務部に配属された。高校の時にゲームのチャットで鍛えたブラインドタッチは、入社してすぐに効果が現れる。搬入されてきた商品の伝票を入力するのが俺の役目。

 商品の入荷は遅くとも午後三時には終わる。それから入力しても四時には手空きになった。それの事を言っているのだと、この時、俺は思ってた。


 だが違った。


「で、本題に入ろう。仕事が早く終わったからと言って、空き時間にゲームはないだろ。ネットワーク管理室から報告があったよ。君は、毎日一時間は社内でゲームをしているとね」


「えっ、それなら――」


「まぁ、聞きたまえ。君たち業務部の給料は、営業部がコツコツ契約してきたおかげで成り立っている。それは分かるかな?」


「はぁ。わかります」


「なら話は早い。君は会社に損害を与えている。よってクビだ」


 こうして、俺は一八歳の夏に、就職して四カ月でクビになった。

 俺にも言い分はある。そもそも、俺に定時までの時間つぶしでゲームを教えたのは同じ部の先輩だ。今から考えると、入社間もなくチヤホヤされた俺に嫉妬したんだと思う。そんな先輩に慕われていると、下心も知らずに思い込んでた。学生時代は、こんなに人間関係が複雑だなんて考えもしなかった。

 就職が決まった時、大喜びしてくれた親も、今では厄介者扱いだ。当然だな。職を失った俺は、五年間自宅に引きこもった。そんな俺を近所では、ゴミ扱いしてた。


 五年間引きこもって、俺は決心した。見返してやろうと。

 だから、俺は子供がなりたい職のナンバーワン。WooToBerになった。


「やぁ、WooTobeを見てくれてるリスナーの皆、今、俺が居る場所は大阪城だ。もうすぐ秋だから大阪秋の陣って訳だ。今日はここからLIVE配信するぜ。じゃ、行ってみようか、ふぅぅぅぅWooTobeイエス、イエス、イエス」


 俺は長田武郎おさだたけお二十三歳。リスナー十三億人のWooTobeの配信者だ。

 常に同じ服、伸びきったボサボサの天然パーマが不潔感を醸し出す。リスナーたちは、俺の動画をクリックしても、すぐに他へ飛んでいく。

 業界で、俺のような配信者は珍しくない。俺たちは底辺配信者と呼ばれる。

 だが、自己満足だけでやってる訳じゃねぇ。似たような動画でもヒットすれは稼げるからな。ヒットするためなら奇抜な行動だってやってやるさ。


「ふぅぅぅぅ。今日は大阪城の堀に飛び込んでみるぜ。なんせ暑いからな。ふぅぅぅぅWooTobeイエス、イエス、イエス」


(※ 公用地、私有地であっても許可なく行うことは犯罪です、よい子はマネしないようにね)



 俺は配信用のノートパソコンを、堀の縁に置いた。そして、服を脱ぎだした所で、巡回中の警察官に見つかった。そのまま、二人の警官に両脇を囲まれ近くの交番に連れて行かれる。事情聴取の後にこってり絞られ釈放された。


「いやぁ、大変な目にあったぜ。でも、まだまだ、い・け・る・ぜ。なんたって俺はWooToberだからな。イエス、イエス、イエス」


 俺はめげない。大阪城へ戻ってくると、また許可も取らずに植木に忍び込む。

 すると、突然地面が崩れ――穴の中へ落ちた。


「うぉぉぉぉぉぉぉーーーーッ。いってぇぇぇぇ」


 強く打ち付けた尻を揉む。そして、俺は気づけば林の中にいた。


「あ、何だってこんな所に――」


 そうだ。ノートパソコンは大丈夫か?

 見たところモニターも本体も壊れた様子はない。よし、電源もちゃんと入ってる。ネットはッと……おっ、無事じゃん。ていうか、LIVE続行だな。


ゲスト:なんだよ。素に戻ってんじゃねぇぞ。タダでさえクッソつまんねぇんだからよ。しっかりしろよ。

ゲスト:ソコどこだよ。大阪城じゃねぇじゃん。


 リスナーからのレスが流れる。が、ここがどこだって、俺が知りてぇよ。

 俺はLIVEを続ける事にした。リスナーの期待は裏切れねぇからな。


「ふぅぅぅぅ、WooTobe。イエス、イエス、イエス。どうやら俺は異世界へ来ちまったみたいだぜ。これからガンガン配信するんで、皆、よ・ろ・し・く・な。ふぅぅぅぅ、WooTobe。イエス、イエス、イエス」

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