魔法のパラムと無限の財宝

あぼのん

プロローグ 炎の記憶、失われた我が家

 眼下に見える赤い光を見つめながら、俺はもう普通の日常には戻れないのだろうと思った。見上げれば満天の星空、普段は街の明かりに紛れて見えなかった星達も、今確かにここに存在していたのだと気づかされる。そんな星々達に比べれば俺なんて広い宇宙の中に存在する無数の惑星、その中の一つ地球という青い星に生まれたちっぽけな存在にすぎないのだと。

 遠くから聞こえるサイレンの音、パトカーに消防車に救急車の赤色灯が見える。それらが集まる先にあるのは燃え上がるアパート一棟。俺の家だ。いや、元俺の家。そう、俺の部屋が火元だなんてことは鎮火後の捜査ですぐにわかるだろう。そう言う場合の賠償はどうなるのだろうか? 火災保険で全て賄えるものなのか? その前に大家さんになんて謝ればいいのか?


 そんな感じで途方に暮れていると話しかけてくる人物。


「なにをぼーっと見つめているのですか?」


 俺の顔を不思議そうに覗きこみながら聞いてきたのは十代の少女。赤い瞳に黒いボブショートヘアー。とんがり帽子を被ったイタい奴だ。そう、こいつの所為で俺は何もかもを失った。と言うか、火元は俺の部屋じゃなくてこいつじゃないか、この爆炎魔法少女が部屋を吹き飛ばして、アパートを全焼させたんだ。


「大丈夫ですか? 気分でも悪くなったのですか?」


 心配そうに見つめてくる少女。きっと本気で俺のことを心配しているのだろう。ああ、気分は悪いですとも、この状況で清々しい気分でいられるとでも思っているのですか? 一歩間違えれば犯罪者ですよ? 今後の人生を考えたらそりゃ気分も悪くなるってものですよ。

 魔法の杖に跨り、二人乗りで空を飛んでいる俺と魔法少女。なにも答えない俺に、少女はどこか痛いところがあるのか? 空を飛んで気持ち悪くなったのか? あれこれと聞いてくるのだが、俺は少女を睨みつけるとぼそりと呟いた。


「……おまえの所為だよ」

「え?」

「おまえの所為で最悪の気分になってるんだよおおおっ!」


 絶叫する俺のことをきょとんとしながら見つめる少女は、ハッと我に返るとへらへらと笑いながら答える。


「またまたぁ、なんで私の所為なんですかぁ?」

「はあああっ!? 夜中に突然、人ん家の窓突き破って侵入してきたと思ったら、来月の誕生日におまえは死ぬから私のことを孕ませろとか言いだす頭のおかしい奴の所為で家が全焼したんだろうがああああっ!!」

「ちょっと待ってくださいっ! 頭のおかしい奴って誰の事ですか? もしかして私のことですかあっ!?」

「おまえ以外に誰がいるんだよこんちくしょうがあああっ!」


 少女は信じられないといった表情をすると、涙目になりながら反論してくる。


「私が魔法使いだって言ったら信じてくれなくて、だったら証明して見せろって言ったのはかずきさんじゃないですかっ! ほら、こうやって空も飛んでいるし信じたでしょう?」

「いやいやいや、もうおまえが魔法少女だろうが宇宙人だろうが異世界人だろうがなんだっていいよ。そんなことよりあれなんとかしろよっ! アパートが燃えてんだぞっ! 大事件じゃねえか、どうすんだよマジで? サ○ーちゃんだって最終回で燃えた学校を元通りにしただろう? おまえもその魔法でなんとかしろよおおおっ」


 すると少女はやれやれといった感じで首を横にふるふるっと振ると、なんだか酷く人のことを馬鹿にしたような表情で言い放った。


「魔法が万能であると勘違いしているのが一般人のダメなところなんですよね」


 あ、こいつマジでムカつく。


 まるで反省の色を見せない魔法少女に制裁を加えてやらなくてはいけないと、俺は少女のほっぺたを摘まんで両方から引っ張ってやった。


「いふぁいいふぁいいふぁいっ! なにふるんですか、ぼうりょくはんふぁいですうううっ!」

「この口かっ!? そんな舐めたことをぬかすのはこの口かああああっ!」


 ひとしきりほっぺたを捩じり上げてやったら、少女は泣きながら謝ってきたので許してやることにした。まあ俺が許しても法律は許してくれないだろうけど。こうなってしまった以上、もう自首するしかないだろう。魔法少女が爆炎魔法で部屋を吹き飛ばしましたなんて言っても信じてもらえないだろうから、ガスの元栓を閉め忘れたとでも言うしかない。そして俺は残りの人生を、この火事における損害賠償を支払う為だけに生きていくことになるのだろう。


「なにを暗い顔しているのですか? これから妊活をするってのに、ムードもへったくれもないですね」


 いきなりムードをぶち壊したのはおまえだろうが。


「まあいいです。これから私の生まれ故郷である魔女の里に行きますので、あそこなら普通の人間の手が及ぶようなことはないので安心してください」

「は? 今なんて言った?」


 俺の問い掛けに少女は笑顔で答えると魔法を唱え始める。


「ポッピヌ・パラム・ピア・プリムっ!」


 上空に広がる光の円、少女がそこへ向かって跨っている魔法の杖の先を持ち上げると、吸い込まれるように進みだした。


「ちょちょちょっ! どこへ行くんだよっ!? て言うか、おまえ誰なんだよっ!!」


「私はパラム! パラム・ピア・プリムっ! あなたの婚約者フィアンセですっ!」



 一ヶ月後に誕生日を迎えようとしている初夏のある日。

 俺、田中かずきはパラムと名乗る魔法使いの少女と出会い、二十歳の誕生日にあなたは死んでしまうので子孫を残す為に子作りをしようと迫られたのであった。

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