本編⑨ 某国・某所

 ギンヤ達の合宿が始まる二週間ほど前。

 薄暗い部屋の中、男はカチャカチャと音をたてながら、皿の上の肉を切り、口に運んでいた。

『ピー、ピー、ピー、ピーッ』

 突如、脳内にシナプス通話の受信音が鳴り響く。

 唐突な呼び出し音に、男は少し不愉快な表情をしながらも食事の手を止めた。呼び出しは男の秘書からだ。

 フォークとナイフを食器の上に置くと、口元をナフキンで拭きとり、水で軽く口をすすぐ。男は、襟元のRデバイスをオンにした。

『なんだ。』

『はっ、先ほど国立研究室のペク・ナムソン博士から報告が入っております。』

 男の不機嫌そうな声に、秘書は少し臆しながら答えた。

『【ウルフ】が完成したとのことです。』

 その連絡を聞くと、男は満足げに口角をあげた。

 男にとって、それは大いなる復讐のための狼煙であった。

 第三次大戦後、一族が受けてきた屈辱を晴らすことだけが男の生きがいであり、そのために今までの半生を捧げてきた。

『わかった、取り急ぎナムソンに百五十人分、準備を進めておくように伝えろ。』

『かしこまりました。しかし【ウルフ】とは何のことですか。』

『お前が知る必要はない。』

『はっ、かしこまりました。ナムソン博士へ伝えますっ。』

 秘書は焦りながらそう言うと、はすぐに通信を切った。

「同盟四国。そして土壇場で裏切った中国とロシア。これで報復が始められる。

 みていろ無知な者ども、またわが一族が世界の中心に返り咲いてやる。」

 男はうすら笑いうかべながら、襟元の端末を操作し、諜報部を呼び出した。

 呼び出し音が二度と鳴らない内に通信は繋がる。

「準備は整った。さあ、ゲームを始めよう。」 

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