序「ある少女の、ある日の日記」5
「なに」と尋ねると、受話器を持たされる。
「お前、出てみろ」
「えっ、なんで……嫌なんだけど」
本心だった。意味がわからない。
「嫌だ嫌だっていつまでも子供みたいなことを言っていたら、お友達に嫌われるぞ。中学生になったんだから、少しは社会人の感覚を身につけないとな」
嘘だ。絶対今考えただろう。そのつもりなら、電話が鳴る前に言うはずだ。それに……私には、とっくの昔に心の許せる友達などいない。
「なにそれ。意味わからない。わけのわからない電話が来たから、私に押し付けようとしてるだけなんじゃないの」
「そんなわけないだろう! お前は親をそんな風に思っているのか」
「……」
なんだそのふざけた喋り方。
「まあ、仕方ないかぁ。反抗期だもんな」
「……」
クラスの男子の方が、まだ脳味噌が入っている。
「……反抗できるくらい立派な親なら、ぜひ反抗してみたいけどね」
だから、つい、そんな言葉を口走ってしまっていた。
言ってから、これはまずい、と思った。案の定、父と母は無表情で、こちらに受話器を突きつけている。
「……出なさい」
「え……いや、だから、嫌だって」
「出なさい!」
怒鳴られた。ドラマやテレビでしか見ないような、野太い声だった。
恐ろしい、殺される、どうして私がこんな目に、いつも私ばかり、とそのときはさすがに思ったが、その反面、「電話の音が小さかったというだけのことで、どうしてこんな世紀末のような悲劇的な展開になっているのだろう?」と普通に呆れ返る気持ちもあった。
「わかったよ」
怒鳴ったら怒鳴ったで、別にそのあとためになる説教とか、そういうのはないのだ。
ただ、言うことを聞かせたいだけ。それだけ。
「はい」
仕方なく、私は受話器を耳に当てる。
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