第4章:素直な偽善
第11話:幼馴染(男の娘)
少しおれの思い出話に付き合ってほしい。
おれと
そもそもおれたちが出会ったのは冬のある日のことだった。
その日は快晴から始まった。それでいて息を吸うと鼻の奥がツンとして。前夜は雪が降っていたのだろう。もっさりと積もっていた。
「行ってきます!」
おれは元気よく出かけた。
男子小学生にとって雪はイベントだぜ、と自己弁護してみる。
と言っても雪合戦をするのではなく携帯型ゲームをしに行ったあたり、実に現代っ子だった。
雪道は冒険だ。歩くだけで大変。
大人たちはみんな除雪で忙しい。
そこへ除雪車がやってきる。除雪車というのは、雪をかきわける機械だ。道路にたまった雪をわきに寄せる。
結果、雪は道のわきにたまってゆく。雪を寄せられた民家の人は除雪のやり直し。終わったころにふたたび除雪車がガーッと。雪を寄せられる。これをまた人力で。(以下ループ)
いや、除雪車に来てもらわないと困るんだけどね。だけどね、という話。
道のわきに積まれた雪はおれの身長を超えていた。ちょうどダンジョンの壁がこんな感じじゃないだろうか。
と思うのは、おれがどっぷりゲームに
そのころ、おれや同級生たちはモンスターを狩るゲームに熱中していた。キャラを育てる要素もある。それぞれのキャラを持ち寄ってハンティングに興じた。
おれたちが集合場所に使ってた寺には由緒正しいいわれがある。なんでも大陸から帰ってきた坊さんが建てたとかなんとか。
たしかに情緒のある境内だった。
木々の枝先には白い梅を思わせる雪の玉がついていた。かじると甘いだろうか、冷たいだろうか。
などと関係ないことを考える。うん、大陸から帰ってきた坊さんが泣くね。
その寺の跡取り息子というのが東也だった。
おれたちが境内で輪になってゲームで盛り上がっていると。
じー。
なにやら視線を感じた。
そちらに目をやる。木立の陰から小さな子がそっと顔を出していた。
目が合った。
ビクッ。女の子はおびえたように姿を隠してしまった。
(かわいい子だな)
おかっぱ頭の女の子だった。珍しいことに着物を着ていた。お寺の子だろうか。
ちょっと話しかけてみることにした。
おれは輪を抜けて女の子にそっと声をかけた。
「ねえ、きみ。このお寺の子?」
近付いてみると、やはり顔立ちの整った子だとわかる。歳は同じくらい。ただ、学校で見かけたことはなかった。
「あ、う」
女の子は赤面したまま固まっている。どうも人見知りっぽい。
ふと、女の子がきつく握るゲーム機に目が留まった。おれたちのと同じ。
もしかして。
「もしかしていっしょにゲームしたいの? 良かったら混ざらない?」
こくこく。女の子は激しくうなずく。無言だが、期待で目を輝かせている。
おれは女の子を連れて輪に戻る。かくかくしかじか。事情を説明した。
えー。不満の声が上がった。
「女子となんか遊べっかよ」
などなど。実に男子小学生らしい。
うーん。おれはちょっと考える。
(なにかきっかけは……)
そうだ、とおれは女の子に質問する。
「いまおれたちさ、めっちゃ強いモンスターに苦戦してるんだよね。トビマグロっていうんだけど。倒し方とかわかる?」
それまでオドオドしていた女の子の態度が急に変わった。
ニヤリ。
そんなの倒せないの? というニュアンスがかなり含まれていた。
それでみんながカチンときた。やってみろよ。おれたちは女の子を交えてゲーム機をオン。いざ狩り場へ。
結論から言うと、女の子はめっちゃ強かった。
女の子の武器は
攻撃回数こそ多いものの、ひとつひとつのダメージはかなり小さい。また、モンスターを麻痺させる効果もあるが、毎回必ず麻痺させられるわけでもなく。運任せなのだった。
「ハズレ武器だろ」
という見解でおれたちは一致していた。
その鞭を、女の子は見事に使いこなしてみせた。
まず女の子は攻撃を入力するタイミングがおれたちとちがう。このゲームでは攻撃したあと、なにも入力できなくなる時間がある。いわゆる死に時間だ。ふたたび入力が可能になる時間を、女の子は見逃さない。ヤバいとすら言える。
この見極めがあってこそ鞭による連続攻撃が可能になる。ハズレ武器なんかじゃなかった。
またモンスターについての知識も深い。
おれたちが苦戦していたトビマグロは群れで行動する。1匹1匹ならおれたちでも倒せる。じゃあ群れだとどうかと言うと、それが難しいのだった。
女の子はトビマグロの群れにコアとなる個体がいると見抜いていた。このコアを倒せば、群れは四散する。あとは一方的に狩るだけだ。
コア、と言われてもおれたちにはどれがどれだかさっぱりだ。それを女の子は正確に狙ってみせる。
群れが四散したあとは一方的に。
おれたちはようやくトビマグロを倒した。
「おまえやるじゃん」
などと同級生たちは女の子の肩を叩く。尊敬のまなざしがあった。
「女子とは遊べないなんて言って悪かったな。これからもいっしょに遊ぼうぜ」
という声もあった。
え。女の子が意外そうに答える。
「ぼく、女の子じゃないけど」
この子が
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