第6話 自己紹介 異次元胃袋のゆるふわガール、“鳴海櫻子”
北本への質問も終わり、次のアイドルの自己紹介に移る。
「よしじゃあ次は鳴海」
「はいー。
「おうよろしくな」
手元の甘崎社長特製プロフィールの鳴海櫻子のページに目線を向ける。
あれ? 今回は注意書が大きく書いてある。
『鳴海櫻子。19歳。
桃色のセミロングヘアでAntoinetteの中で一番年上でもあり、一番グラマラスなボディの持ち主でもある。抱き心地がとても気持ち良さそう。
チャームポイントは右目の下にある泣き黒子。なんで目の下の黒子ってあんなにセクシーに感じるのだろうね。
趣味は食べ歩き、特にスイーツがあるお店の。スイーツを食べる女子って映えるよね。
最近の悩みは実家の体重計が新調され、より細かく体重を計れるようになってしまったこと。
体重計なんてもう何年も乗ってないよ。だって私太らないからっ! だって私太らないからっ!! 大事なことだから二回書いたよ。
取っつきにくくないよ、ふわふわしてるよ。思い切って下の名前で呼んじゃえよ、You!』
『注意! 一回でいいから……揉みたい。どことは言わない。ただ揉みたい』
もはや注意書ではなく、甘崎社長の願望が出てるな。
グラマラスなボディって一体どういうことなんだろうなー。俺バカだから見てみないとわからないなー。なので仕方なく仕事のために鳴海の全体をしっかりと観察してみる。
…………なるほど、確かに
「……………………」
……おっと神領から槍のような鋭い視線を感じる。名残惜しいが止めておこう。
「えーと鳴海は趣味が食べ歩きなのか」
「そうなんですよー。私、甘いものが大好きでよく食べ歩きをしたり、甘味処を探して食べに行ったりしているんですー」
「へえー最近だと何を食べたんだ?」
「最近だとーそうですねー。うーん…………あっ! そうだ。確か写真に……ありましたー」
そう言うと鳴海はスマホを取り出し、写真を一枚を見せてくれた。
そこに写っていたのは、鳴海の顔と同じ位の大きさの皿にバニラ、抹茶、チョコ、ミントなどのアイスクリームと色鮮やかなシャーベットがピラミッドのように乗っているものとその隣で満面の笑顔でピースをしている鳴海だった。
「ほうほう。これは写真映えするスイーツだな。この店には友達とかと行ったのか?」
「はいー。大学の友達と二人で行きましたー」
「そうなのか。まあでもこんな量のアイスなんて二人じゃ食べ切れなかっただろ」
「それが美味しくて、一人で食べ切っちゃいましたー」
「そっか一人で食べ切ったのか………………一人っ!?」
写真のアイスはどう見ても一人で食べる量のものではない。
こんなの一人で食べたら絶対お腹の調子が悪くなるし、全身から冷気が出てくるだろ。
「こ、これ本当に一人で食べ切れたのか?」
「もちろんですよー。でも三十分くらいかかっちゃいましたけど」
「さ、三十分!?」
「はいー。こんな感じの写真なら他にもありますけど、ご覧になりますかー?」
「見たい見たい」
鳴海はスマホの写真をスライドしていき、次々とスイーツの写真を見せてくれた。
何故倒れないのか不思議に思うほどタワーのように積み重なっているパンケーキ、鍋にいっぱいに入ったお汁粉、本物の鯛の大きさくらいあるたい焼き、中身がいっぱいで巻けていないクレープなどサイズが大きめなスイーツの数々。そしてスイーツの隣で満面の笑顔でピースをしている鳴海。
見ているだけでもお腹が一杯になってくる。鳴海はブラックホールの胃袋を持ってるな。これが本当の腹黒………………なんつって。
俺の面白ジョークはさておき、写真を何枚か見せてもらって不思議に思うことがあった。
「デリケートなこと聞いちゃうけど、こんだけ食べて太らないのか?」
女性にこんな質問を聞くのはいけないとわかっているが、今日から鳴海は俺の担当のアイドルで健康面に関係することなので聞かないといけない。すると鳴海は頬を赤らめ、先ほどより少しボリュームを落とした声で話す。
「えっとー……恥ずかしいんですけど、それが私がアイドルを目指したきっかけと言いますかー」
「ん? どういうことだ」
「はいー。私痩せるためにアイドル始めたんです」
「そうなのか。俺は全然恥ずかしくない理由だと思うぞ。何もしないより立派だ」
一歩踏み出すことは誰にもできるわけじゃない。それがどんな理由であれ、鳴海はできているのだからそれは立派なことだ。
「ありがとうございますー。そう言ってもらえると思いませんでしたー」
「それでそのー聞きにくいんだけど……成果のほうは?」
「はいー。お陰様でベスト体重をキープしています。…………お正月とかは別ですけど」
最後に危険な言葉が聞こえた気がするが鳴海のためにスルーしよう。
「そうだー。よかったら今度楢崎さんも一緒にどうですか、食べ歩き?」
「いいぞ。鳴海ほどは食べられないけど」
「やったー約束ですよー」
ふわりとした鳴海の笑顔が俺に向けられた。この笑顔は多くの男子大学生たちを落としてきたに違いない。
まだ時間があるので他にも質問をしてみよう。
「鳴海は食べ物だと何が一番好きなんだ?」
「一番ですかー。うーん……いっぱいあるから決められないですねー」
「好きなものがいっぱいあるのはいいことだと思うぞ。じゃあ嫌いな食べ――」
「ピーマンですー」
「これは即答かよ」
「ピーマンは無理ですねー。だって苦いじゃないですかー」
そこらへんは子どもっぽくて可愛いな。まあそこ以外も可愛いが。
「じゃあゴーヤとかも苦手なのか?」
「苦手ですー。苦いものを食べたら……そのー汚いんですけど、おえってなっちゃいますー」
「吐くのか」
「吐きませんー。おえっですー」
「いや吐くんだろ」
「ちーがーいーまーすー。おえっなんですーおえっなんですー」
「わからん。何が違うんだ」
吐く時はおえってなるんだから、おえっは吐くことだろう。しかし鳴海は頑固としてそこは譲らない。
「吐くはおぅえーですー。おえっはおえっなんですー。わかりますかーおえっはこんな感じで――」
「オッケー。わかったからジェスチャーは止めような」
「…………じゃあ楢崎さんもおえっやってくださいー」
「えー嫌だよ」
「……………………おえっ」
「わかったやります。やらせてくれ。いくぞ…………おえっ」
「うーん何か違いますねー。もうちょっとこう」
「勘弁してくれ」
この後も質問を続けていき、鳴海は落ち着いた口調で答えてくれた。
鳴海との会話はふわふわした雰囲気した感じで進み、気づいたらちょうど良い時間になっていた。
「質問は以上だ。ありがとな鳴海」
「ありがとうございましたー」
鳴海との食べ歩きは苦いものは避けて、吐かないように胃薬が必須だな。しっかりと準備しておかないと。
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