010:『色の無い花火』

 俺はこの世界が嫌いだ。何故同じ人間同士争い合う。争いのその先に何が待っているというのだ。

 人種の違い、考えの違い、性別の違い、宗教の違い...人は平和を求める。

 しかし、その平和は人によって違う。争いを生む皆が皆、自己中心的だからである。

 自分が世界を変える、自分は特別な存在だと思い込んでいる。

 その、自分が特別という考え自体は間違っている訳では無い。皆が皆、自分の物語の中では特別な人物である事は間違いない。

 自分が、自分自身がその物語の中では主人公。

 つまり正義。悪を倒す為に戦う戦士。

 何が言いたいかと言うと、誰しも正義で有り、また悪にも成りうるという事だ。



ん? 俺は何を書いているんだ? こんなこと俺は昨日、日記に書いたのか?

 なぜだ...記憶が戻ってこない。

 この日記の事を知っているのは美月と景と俺だけ...あの二人がこんなこと書くなんて思えない。

 ならやっぱり...これを書いたのは俺..なのか。

 確かにこれは俺の字だが...

 いや、俺が書いたのなら記憶が戻ってくるはず...でも、全ての記憶が毎日戻ってきているとは限らない。

 全ての記憶が毎日戻っているという証拠は何処にも無いのだ。

 俺には昨日何があったのかを知るためには、この日記を読むしかないのだから。

 日記に書かれている事が間違っていたとしたらその記憶は思い出せるはずが無い。

 まぁ、別にそこまで気にする様な内容では無いか...


 色々考えていたら、もう二時じゃないか。美月と景は...まだ起きていないのか...未だによくは分からないが、二人は俺の中で寝ている。

 俺の中で寝ている二人を起こすのにはどうすればいいんだ?


 「おおーーーい!! 起きろーーー!!」

 大声を出しても効果無し


 ならば、くすぐったらどうだろう

 ...効果無し


 痛みを与えてみたらどうだ(デコピン)

 ...効果無し(俺には効果有り)


 もういいや、わざわざ起こす必要も無い。

 先に食事を取るとしよう。


 ん? 誰もいない...皆何処にいったんだ?


 あれは...


 テーブルの上に置き手紙があった。内容は祖父母の家にしばらく泊まってくると言う事だった。

 俺はこんな大切な事を日記に書かないで、あの意味の分からない事を日記に書いていたという事か...

 何をやっているんだ昨日の俺は...

 まぁ良い...食事を取るとしよう。


 「頂きます!!」

 今は母さんの作り置きが有るが、これからしばらくは自炊を強いられる。

 なぜなら、俺の小遣いで店屋物は厳しい...それに美月、あいつは姿は見えないくせにしっかり食事は取るときた。いつもは俺の小遣いで何か買って食べさせてはいたが...

 最近一人増えたからそうもいかない。

 冷蔵庫には食材が沢山有る。自炊...やるか...


 ガタガタガタッ!!

 「うぁーなっ何事だ!! 椅子が勝手にっ!!」


 「おはよー灯夜」


 「おはようじゃない!! お前は何故、いつもいきなり出てくる!! しかも下から!!」


 「しょうがないじゃん。下にしか陰が出ないんだもん」


 「まぁそれもそうだが...分かったよ。これからはもうちょっと優しく出てこいよ」


 「ごめんね灯夜...気を付けるよ」


 そんな事を泣きながら美月は言った。いや、泣くと言うよりは泣きべそと言った方が正しいだろう。

 本当にこいつは子供みたいだ。


 「もういいから、気にすんな」(もう泣くなよ)


 美月は服の袖で涙を拭いながら、ニコっと小さく笑って見せてくれた。

 泣くのもそうだが、立ち直りも早い奴だ。

 まぁ、その笑顔を見て、俺は胸をなで下ろしたのではあるのだが。


 「灯夜殿!!」


 「うわーっ!! びっくりした!! 景か...いつから後ろに居たんだよ」


 美月との四コマ漫画の様な短いやり取りが終わりを迎えた後、四コマしかない枠の中でも、しっかりと起承転結と喜怒哀楽を織り交ぜた様な、四コマ漫画にしては中身の濃い作品に仕上がったと、少し満足感の余韻に浸っていた時の事だ。

 景が俺の後ろに、ズンとそびえ立ちながら、俺に話しかけてきたのだ。

 本当にびっくりした。今までそこには誰も居ないとばかり思っていたものだから本当にびっくりした。

 いつか話したお化け屋敷の話ではないのだが、そんな驚きであった。

 怖くはないけども驚きはある。そう、俺の命名した驚き屋敷の様な感じだった。


 「美月殿が出てきた時からずっと居のたが...」


 「そっそうか...」(赤外線の力まだ残ってるんじゃないか?)



 「いい匂いがしたから出てきましたー。灯夜何か食べたいな」


 「冷蔵庫に俺の今晩の夕飯が有るから二人で食べるといい」


 今晩とは言ったが、俺に晩は無く、俺の晩とは夕方の事であって、夕食とは文字通り夕方の食事の事である。


 「じゃあ遠慮なく頂きまーす」「美味そうだな」


 こいつら、少しは遠慮という事を学べよ!!


 「そうだ、食事を取ったら花火をしないか?」


 「するー花火するー」「花火なんて中学以来だ。久々にしようではないか灯夜殿」


 「祖父母の家から送られてきた花火が沢山有るんだ。いい機会だから全部やってしまおう」


 「だが灯夜殿、全部使ってしまってはご家族の分が無くなるのでは?」


 「花火なんて誰もしない。俺だって一緒にやる人もいないし...」


 「そうだったか...」「やろーよ花火、三人で」


 「そうだな」


 こんな夜の無い世界でも花火は存在する。花火とは、本来は夜にやるものだと記憶の片隅に残っている。(はっきりとは思い出せないが)


 しかし、夜どころか色までほとんど存在しない世界で花火など、ただの火遊び。火薬で遊んでいる様なもの。

 だが、人々はこんな世界でも楽しみたいと思ったのだろう。


 俺らはまだ昼だというのに花火をしに海辺へ出かけた。

 俺らとは言ったが皆には俺しか見えない...またこれか...俺はやっぱり皆から見れば痛い人だよな。


 「灯夜、景ちゃん綺麗だね花火」


 「確かに綺麗だ。灯夜殿も遠慮するなよ」


 「ああそうだな」(遠慮って...これは俺の花火なのだが...)


 ジリリリリージリリリリー


 ん? 「何だこの音? 目覚まし時計か?」


 「すまない。私の目覚ましのようだ」(消し忘れた)


 「目覚ましって...こいつ目覚まし時計持って歩いているのかよ...でも、この目覚まし時計は何処から聞こえているんだ」


 音的には、遠からず、それでいって近過ぎもしない、そんな辺りから聞こえてきている様な、そんな音、そんな距離感だった。


 「ちょっと消してくる」


 景はそう言うと、俺の影へ潜り込んだ。


 「っておい!! 俺の中かよ!! そんなもん俺の中に持ち込むな!!」


 

 俺と美月は、目覚まし時計を消しに俺の影へと消えた景をよそに花火を続けた。




 「はーはっはーようやく見つけたぞ思兼神オモイカネそれに月讀命ツクヨミノミコト」


 「だっ誰だ?!」


 「私は天児屋命あめのこやねのみことだ!! お前達二人を捕まえにきたんだよ!!」


 こいつはきっと【色】だ。

 そして、こいつは二人と言った。景の存在には気づいていない...


 「景!! そこに居ろ!!」


 「なっ何事だ?! こっこれは...分かった。灯夜殿死なないでくれ...」


 中に居ても声は聞こえるようだな...さっきは寝ていただけだったって事か。

 いや、そんな事は今はどうでもいい。

 さっきの【二人を起こそう実験】で学んだ事なのだが、俺の中に居れば景は安全な筈はずだ。俺が死ななければ...


 「お前、何をブツブツと言っているんだよ。覚悟しろよー」


 ザパーッ!!


 「美月危ない!!」


 「灯夜、ありがとう。きっとあいつは青の化身。属性『水と空』」


 「水と空...厄介な奴だな...」


 「そこかっ!!」


 ザパー!!


 「別の場所に隠れよう...体勢を低くしたままあいつの後ろを通ってあの陰に行くぞ!!」


 「うん!!」


 「何処に隠れやがった」


 「ここなら一先ひとまず安心だ」


 「灯夜どうしよう...私の風なんかじゃ、あいつの水には敵わないよ...」


 「美月!! お前の風の能力は風しか扱えないのか?」


 「風と言うより空気って言った方が正しいけど...それがどうしたの灯夜?」


 「じゃあ美月、空気を消す事は出来るか?」


 「空気を消す? やったは事ないけど...出来たとしても私の力じゃ五秒位が限界だよ」


 「五秒あれば十分だ!!」


 「でも灯夜、あいつは空と水を使えるんだよ!! 片方だけ封印しても意味がないよ。どっちも封印しなきゃ無いんだよ...」


 「出来る!! 空も水も一気に封印してみせるよ」


 「そんな事...」


 「出来るんだよ。美月が協力してくれれば、五秒でな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る