花が空を向くように
カゲトモ
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こんな時間でもまだ日が出ているなんて、どんどん夏に近づいているんだなぁとぼんやり思う。まだ春だけど。冬の時期はあんなに日が落ちるのが早かったのに、季節が巡るのはなんて早いんだ。
――ぉぉぉ
「ん?」
看板を拭き終えて立ち上がると、変な音が聞こえた。地鳴り? にしては軽いような気もするけど、何の音だ?
「うおっ」
振り返ったと同時に右足にドンッという衝撃。小さなピンク色の塊が足にしがみついていた。
「すかいぃぃ!」
「奈々子」
「わぁっ! びっくりした?」
黄色い帽子を被った奈々子が満面の笑みで顔を上げた。そうか、もう保育園に入ったんだったな。
「すみませんっスカイさんっ」
黄色い帽子と同じ目線にしゃがみ込むと、商店街のアーケードの方から門脇君の奥さんが走って来た。どうやら奈々子を追いかけて来たらしい。
「こらっ奈々ちゃん、スカイさんにそんなことしちゃダメでしょ」
「えーっ」
「えー、じゃないっ。言うこときかない子はおやつ抜きだからね」
「やーっ!」
ぎゅっと眉根を寄せた奈々子は隠れるようにして俺の後ろに回った。そんなことしたっておやつはもらえないぞ?
「そうだ、ご入園おめでとうございます」
「ありがとうございます。どうにか今年から入ることが出来て」
「そうでしたか、これで少しは奥さんも自分の時間が持てますね」
「ふふふ、少しだけですけれど」
そう言いつつも奥さんは嬉しそうに笑う。待機児童がどうこうとか、保育園とか幼稚園とか自分が当事者じゃないから良く分からないけど、奈々子は沢山友達と勉強が出来るし奥さんは自分の時間を持つことが出来るなんてとてもいいことだなと、独身三十路は思うわけで。子供って可愛いけれど、四六時中一緒で自由な時間を持てないのって辛いだろうし。今の俺だったら無理だもん。
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