春とうららと桜色の夢
CHEEBOW
第1話
──また、あいつだ。
いつもの視線を感じた。振り向かなくっても分かってる。
思い当たる人間は、一人しかいない。
この学園きっての変わり者──
「みーどーりこっ」
弾んだ声で、足取りも軽く回り込み、私の顔を覗き込む。
思わず、目が合ってしまいあわてて目をそらす。
聞こえない振り、聞こえない振り。
足を早める私に追いつこうとして、うららも速度を上げる。
「ねーねー、緑子ってば。緑子ー。ねーってば。つれないなぁ、もう」
さらに、足を早める私。
だけど、うららは執拗について来る。
おい。ここのところ、しつこさがパワーアップしてないか?
「緑子。緑子ー」
えーい、しつこい!
耐え切れずに、私は振り返ってしまった。
「あのねー。人の名前を気安く呼び捨てにしないでくんない?」
「緑子」
「だからぁ」
「緑子って……」
そこで、いったん言葉を切り、にこりと笑う。ふわふわの髪が揺れる。
悔しいけど、それだけ見ていると天使のようだ。
「なによ?」
「緑子って──」
「……」
「緑子って、いい名前だよね」
思わずこけてしまう。
なんなのだ? なんなのだいったい?
「あたしも、緑子って言う名前が良かったなー」
そして、うららは、もう一度極上の笑みを浮かべると、『じゃねっ』と言って去っていった。
な、なんなんだ……。
いつものことながら、訳が分からない。
遠ざかる、うららの後ろ姿を見つめながら、私は思いっきり脱力した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます