第179話 儀式の日 ソーマ、ロスティの家へ

 一日を通して祈ったり騒いだり、

お祭りの日って、やっぱり特別なんだよな。


 以前見たことのある門番の人も いて、

今、門番は誰がしてるんだろう? って 思ったら、


「今日は門をふさいでいて、

誰も出入りできなくしているんですよ。」


 視線に気づいたロスティさんが そう教えてくれた。


「時折、男の人達が見回りに行ってるみたいですけどね。」


 ついでに そう言って、彼女は微笑んでいた。


 ロスティさんは いつもの恰好をしているけど、

村人を代表して祈っている姿とか見ると、

なんだか凛とした雰囲気で、ちょっと目を奪われてしまう。


 ロスティさんも美人だしね。

アルテナともシアンさんとも、ミザリーさんとも違う感じの。


 どちらかというと、アルテナにタイプが似てるかな。



 村人たちは 魔物のことがあって、

おれ達に好意的な目を向けてくれる人も いるんだけど、

でもやっぱり、何人かは今でも違った。



 あのバルトって子も、花を持って謝りにきてくれたけど、

父親に散々殴られたらしく、そのあとが顔に残りまくってて、

痛々しくて なんだか見ていられなかった。


 謝られることに慣れてないのも あるんだけどね……


 それに おれが寝て起きての日々を送ってる間に、

何度も家に来てくれたけど、みんなが追い払ってたらしく、

少し枯れてきた花と彼の表情を見てると、

むしろ こっちが謝らないといけないかな って思ったんだよね。



 それと村長が、しばらく前から体調が良くないらしく、

確かに以前見た時よりも顔色が悪くなっていて、

早い内に教会へ引っ込んでしまっていた。


 でも『儀式の日』とかいうお祭りは、

ロスティさんとか教会に出入りする人達が推し進めて、

何事もなく進行していったらしい。


 おれ達は パルステル教の信徒じゃないから、

遠くで見物しているだけだったんだけど、

退屈だったけど、他にすることも なかったんだよね。


 はぁ、家でネットとか動画とかゲームとか、

色々時間が潰せた頃が懐かしい……


 また竹とんぼとか、自分でも作れそうな物を考えようかな?



 今日は朝から、家の中でも 外に出てても、

おれはアルテナたち みんなに囲まれたまま、

気づけば そろそろ空が暗くなってくる時間になった。


 暗くなる前に夜のお祈りとかしてたみたいだから、

暗くなってくると お祭りも終わりになるのか、

 他の村人たち、特に家族連れは、

もう家へと帰っていく姿が ちらほらと見えていた。


 考えてみれば、カラパスの村って名乗ってるけど、

規模が他の村と比べてもデカいんだよね。


 夜の完全に日が落ちてから祈りをして帰って とかだと、

教会から遠いところに家のある人とか、

帰ってから寝る時間が少なくなるだろうしね。


 そう考えると、早めに切り上げるのは当然だよね。

ちなみに後片付けは、明日の朝にするらしいし。



「そろそろ戻ろう。」


 バーントさんが言い出して、

おれは自然と、祭りの主役であるロスティさんを見ていた。


 おれ達を客人と見てくれてるみたいで、

今日は何度も おれ達のところに足を運んでくれていた。


 普段から村人たちに もてはやされているみたいなのに、

わざわざ おれ達を もてなしに来てくれて、

嬉しいんだけど、正直 申し訳なく思ってたんだよね。



「……」


 ロスティさんは表情には出してないんだけど、

見てると、なんだか少し 寂しそうな感じがしていた。


(そういえば、独り暮らしなんだっけ? )


 そんな話を聞いた気がする。



 不意に、元の世界での 自分の生活を思い出した。


 おれも独り暮らしで、実家を追い出されて、

以前働いた時に貯めた金と日雇いのバイトの金で、

だらしないニート生活を満喫まんきつしてたんだよな……


 祭りか……


 祭りの後の、家族連れが帰っていく様子とか見ると、

おれも なんだか寂しくなったんだよなぁ……


 今はこうか不幸か、アルテナたちがいるけど、

ロスティさんの場合は どうなんだろうか……?



「家まで送っていくよ。」


 そう思うと、声を掛けずには いられなかった。


「えっ!? 」


 想定外だったのか、

おれの提案に ロスティさんは驚いていた。


「今日は誰も村に出入りしないんだろうけど、

夜に一人は危ないよ。」

「で、でも……」


 何を気にしているのかと彼女の様子を見てると、

どうやら みんなアルテナ達のことが気になっているようだった。


 みんなは みんなで驚いているようだったけど、


「ソーマと一緒だけでも、危ないかもしれないわよ。」


 呆れた様子のアルテナに そう言われてしまった。


「ならボクも。」

「おれも。」

「わ、私もっ。」


 ジョンやバーントさん、シアンさんが名乗り出て、

声に出してないけどミザリーさんや、

ヴィラックも ついて来る気満々な様子だったけど、


「全員で行くこともないでしょ。」


 アルテナに一蹴いっしゅうされていた。


 その様子を見ていたマルゼダさんと目が合って、

おれもマルゼダさんも苦笑していた。


 結局、ロスティさんを送るメンバーは、

おれとアルテナとシアンさんの三人になった。



 家に帰るメンバーの後ろ姿を見送りながら、


「割とバーントさん渋ってたね。」

「ミザリーやジョンやヴィラックの方が まだ、

割り切りが良かったわね。」

「ま、まぁバーントさんも、

ソーマさんのことが心配だったから……」


 おれはアルテナとシアンさんと話をして、


「気を使わせてしまって……」


 歩き始めながら、送られるロスティさんは、

申し訳なさそうにしていた。


「おれが勝手にしてることだし……」

「私達はソーマに ついていってるだけだからね。」

「あ、アルテナさん……」


 割と毒を吐くアルテナに、

シアンさんがタジタジになっていた。


 アルテナは おれが言い出したから……って、

それは そうか。


 おれも、送る相手がロスティさんじゃなかったら、

さっさと家に帰りたいし。



「……」


 申し訳なさそうにしているロスティさんだけど、

嫌がってはいないみたいだった。



 教会のそばからロスティさんの家へ行く途中、

周囲に立ち並ぶ家々から、火の灯りや料理の匂い、

子供の声が漏れていた通り道をのんびり歩いて抜けると、

日が落ちて もう 辺りは完全に暗くなっていた。



 その間に四人で とりとめのない話をして、


「そろそろ夜道を照らしますか? 」


 道中、シアンさんが提案してきたのを、


「もうそろそろで 家が見えてきますから。」


 ロスティさんは笑顔で申し出を断っていた。



 周辺は静かで、今日は あまり風が吹いていない。


 ここまで来ると家も少ないし、

その先にロスティさんは独りで暮らしてるのか って 驚いてしまう。



 ん?



 何気なく見た視線の先、


「……誰? 」


 その先に人影が見えて、

おれもアルテナも立ち止まった。


 動く人影が複数あること、

武器らしい物を持っていることが暗くても見えて、


「あなたたちは……」


 ロスティさんも驚き、警戒をしていた。



 彼らはみんな男の人みたいだし、何より、


「村の人……」


 今日、村の中にいるのは、

おれ達を除いて村人しかいないはずなのだから……

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