第155話 ロスティの自戒

「私がソーマさんとアルテナさんに出会ったのは、

二人がホルマの街にやってきた時でした。」


 借り入れた家にやってきたロスティに尋ねられ、

シアンは過去を思い返しながら語り始めた。


「街にやってきたアルテナさんが魔力病を患って、

お師匠様の屋敷でソーマさんがつきっきりで看病していて。

 私、男の人は今でも苦手なんですけど、

ソーマさんだけは違ったんですね。

 あ、お師匠様は男性ですけど、育ての親ですから……

ソーマさん、出会った時から今でも、とても優しくて……」


 シアンはロスティの顔を見ながら、

柔和な笑みを浮かべて話し続けており、


(信じられない……)


 ロスティは、それらを否定したかった。


 ロスティが繰り返し読み続けてきた聖書に記された黒髪の民と、

シアンの話す黒髪の人物とが、まったく異なっていたからだ。


 パルステル教の聖書に記されている黒髪の民は、

『ノーワード』や『モノーカー』という別名もある彼らは、

邪神より生まれ、邪神に従属し、自らの性質によって、

この世界に生きる者達へ危害を加えてきていた と、されている。


 破壊を望み、欲が深く、悪辣あくらつな行為を容易く行う。

 彼らは人々へ害を及ぼし、天の世界から降りてきた主神と戦い、

そして主神は彼らや邪神に打ち勝つのだ――と。


 けれど、シアンが話すソーマの人柄は、

他人に対して優しく、落ち着きがあり、争いごとを好まず、

食事は綺麗に食べ、整容に気を使い、彼を慕う者もいる。


 好意を持って話すシアンを見て、

ソーマとは 彼女からのかなりの好印象を持つ人物であり、


(髪が黒くさえなかったら……)


 と、話を聞いているだけのロスティが思うほどであった。


 ロスティが この場にいる他の二人――マルゼダとミザリーを見ると、

どちらも彼女の話に同調しているようであり、真実だと思わせた。

 また、ソーマについて話していた時のシアンとミザリーが、

その頬をうっすらと赤らめていたことの意味を理解していた。



 ただし、シアンはソーマが魔族だと疑われて殺されかけた時のことと、

彼の体から黒い魔力が噴き出したらしいことは話さなかったし、

ミザリーとマルゼダも、そのことについて言及しなかった。


 ただでさえソーマが、その身や命を狙われる可能性があるうえに、

黒い魔力に関しては、誰も、何もわかっていないのだから。



 シアンの ソーマについての話は、

カラパス村に来るまでを話し終え、


(あの首飾りは、パルステル教とは関係ない―― )


 ―― ことを理解したロスティであったが、


(……今更 村から追い出すのもね……)


 話によっては彼らを追い出すことを考えていたロスティは、

その考えを改めていた。


(一度……会ってみたいものね。その黒髪に。)


 そう思うようにもなっていた。


 またロスティは、


(教祖様が言っていた『彼らの存在ではなく、彼らの行動が』

という言葉が、よく理解できた……)


 胸の内で、自身をいましめていた。


 彼らの中に黒髪の人物がいると聞いた時点で、

村から排除しようとしていた自分が恥ずかしくなったのだ。



 シアンから話を聞き終えたロスティが家を出た時間が、

太陽が一番高く昇る時間であり、村でも昼食の時であったのだが、


「ん? 何……? 」


 家に帰る途中の村の中で、子どもの泣き叫ぶ声が

彼女の耳に入った。


 嫌な胸騒ぎがしたロスティが声のする方へと駆けると――



「あぁぁ痛い痛い痛いぃぃぃ~~~!! 」


 ―― 同じように声を聞きつけ、

遠巻きに見る村人たちに囲まれた中心で、

地面にうつ伏せ、うずくまる青髪の少年がいた。

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